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概要

リレー接点の特性から可能な限り長い寿命を達成する

電気アークとは厳密には何でしょうか?どのように点弧し、何によって消弧されるでしょうか?アークはリレー接点の寿命にどのように影響を及ぼすでしょうか?

 

このような問題について論じていきます。これらのようなリレー接点の特性から可能な限り長寿命を得る方法を理解する一助になれば幸いです。

 

しかし、最初に当社の使用しているいくつかの用語を定義しましょう。

 

まず、「constriction (コンストリクション)」とはメークする一番最初の小さな接触面、そしてブレークする一番最後のポイントのことです。

 

Melt Voltage (メルト電圧) はコンストリクション全体の電圧量で、コンストリクションの接点材料を液化させるだけの電流を流します。

 

Arc Voltage (アーク電圧) は狭いギャップで隔てられた接点に存在する電圧量で、ギャップを越えて放電を生じさせます。

 

最後に、Arc Current (アーク電流) は、アーク電圧放電によって生じるアークが維持されるために必要な電流量です。

 

では、リレー接点の世界を理解するにはこれらの用語を頭に入れてください。それはかなり過酷な環境です。接点アークの影響を詳細に見てみましょう。

 

ご存知のとおり、接点アークが発生すると接点寿命の低下につながります。アークの強度と持続時間にも左右されますが、アーク点弧が起こるたびに、接点の浸食が進みます。このような浸食は接点材料が失われる原因となり、次の 2 つの状況のいずれかが発生します。

図 1. 状況 1

図 1. 状況 1

 

状況 1: 接点から多くの材料が失われ、負荷回路を電気的に閉状態にできなくなります。状況 2: 一方の接点から、他方の接点よりも大幅に多くの材料が失われ、それぞれが凹部と凸部のような形状の接点になります。  

図 2. 状況 2

図 2. 状況 2

AC 負荷スイッチングでの同期に関する重要な留意事項

このアプリケーション ノートでは、AC 負荷スイッチングに関連して「同期」という用語を何度か使用します。この文脈での同期とは、負荷供給電圧波形上の同じポイント、または負荷電圧正弦波上の主に同じ極性で、接点のメークまたはブレーク (またはその両方) が発生するリレーの動作を指します。

 

このような同期により、接点間で接点材料の純移転が発生します。これにより、接点の機械的なロッキングや溶着が発生する可能性が高くなるため、予期される接点寿命が短くなります。ここで公開されているすべての評価および試験結果は、別途記載されていない限り、負荷供給周波数を基準としたランダムなスイッチングに基づくものです。

 

接点とライン周波数の意図しない同期は、次のようなシナリオで発生する可能性がありますが、これらに限定されるわけではありません。

  • マイクロコントローラが電源の周波数に同期した
  • サイリスタが電源の周波数に同期した
  • コイルを駆動する DC 電源のフィルタ処理が不十分
  • センサ回路でライン周波数ノイズが誘発される 

意図した「ゼロ クロス」回路が不適切に設計されていると接点閉鎖が発生する原因となり、特に高電流が流れ、極性が同じ場合は跳動の原因となるため、回路設計には注意する必要があります。

重度のアークがときどき発生することで引き起こされる結果としては、接点の溶着も挙げられます。ただしこのような現象が発生する原因の多くは、回路で誤ったリレーが使われていて、そのリレーで処理できる範囲を大きく超えた電圧や電流が印加されているためと見られています。

 

接点に形成された凹凸については、状況が悪化すると、凸部が凹部の縁部に留まってしまう場合があります。このようになると、リレーの電力が遮断された場合でも開回路にならないため、負荷を制御できない状態になってしまいます。もちろん、このような状況は望ましくありません。

 

一般的に、材料の転移により凹凸が形成される状況は、直流電流の用途に関連付けられます。ただし交流電流の用途でも、材料の転移により凹凸が形成される状況が発生することがわかり始めています。これは、このような用途では、リレーが AC ライン電圧と同期して動作するためです。このような同期は、半導体ロジックまたはリレーを動作させるマイクロコンピュータ回路の AC ラインに対する同期の結果として発生するのが一般的です。同期がライン電圧のピークまたはその付近だけで発生する場合は、リレー接点が作動するたびに、ライン電圧が 120 ボルトか 240 ボルトかに応じて、170 ボルトまたは 340 ボルト (あるいはその付近) で同期が発生します。

 

回路のクロックを AC ラインに同期させる必要のある用途の場合は、リレーのランダムな動作を実現する回路を追加する必要があります。また、リレー接点がゼロ電流 (またはその付近) で開になるように同期を設定することもできます。

 

材料の転移により凹凸が形成される状況については、もう 1 つ言及すべき点があります。それは、この種の転移が常に接点アークの結果として発生するものと考えないことです。それ以外の原因も考えられます。アーク点弧が発生していない回路でも、材料の転移は起こり得ます。それは、回路電圧が接点材料の溶融電圧を超えている場合です。このような状況で接点どうしが接触または分離すると材料が溶融し、温度の高い接点 (陽極) から温度の低い接点 (陰極) に材料が転移して、そこに留まります。動作が真にランダムな AC 用途では、ある時点では一方向に材料の転移が発生し、別の時点では逆方向に発生します。そのため、どちらの接点でも材料の増加は認識できるほどではありません。ただし DC 用途やリレーが AC ラインに同期する用途では、材料の転移が常に同じ方向に発生するため、凹凸が形成される状況につながる可能性があります。

 

アーク点弧が発生すると、接点材料は陰極の接点から陽極の接点に転移します。そのため、接点がどのような動作を行う場合でも、アーク点弧の前は材料が陽極から陰極に転移し、アークが点弧すると陰極から陽極に材料が転移します。転移する量は、アーク発生時の方が多くなるのが一般的です。ただし先ほど説明したように、真にランダムな AC 用途では、どちらの接点でも材料の純増分は無視できる程度のものですが、DC 用途または AC ラインに同期する用途の場合は、一方の接点で大幅な材料の増加が起こる可能性があります。これは非常に重要なポイントです。

 

それでは、接点閉鎖時に何が起こるのかを見てみましょう。高倍率の顕微鏡でリレー接点の表面を調べると、表面はきわめて不均一であり、スポットごとに高さがバラバラで、他と比べて非常に低いスポットや高いスポットで構成されていることがわかります。 

図 3.

接点どうしが接触するときは、最初に接触する高いスポットに最大負荷電流が流れることになります。負荷電流がわずかな場合でも、I2R によって導かれる発熱量は、このような高いスポットが溶融する原因となり、沸点に達することさえあり得ます。高スポット周囲の空気は過熱状態となり、電子の喪失によりイオン化が始まります。I2R のエネルギ量が十分な場合、高スポットの温度は 5,000 ケルビン以上に達し、爆発が起こる可能性があります。これにより、イオン化された空気と金属イオンが、接点間の隙間に残留します。接点の材質とエア ギャップに対する電圧ストレス (爆発の瞬間の接点電圧) によっては、イオン化されたエア ギャップが陰極から陽極に電子流を伝導し始める場合があります。このような接点間の電子放電が、実際にはアークの始まりとなります。負荷電流が接点材料のアーク電流定格を超えている場合、アークは自身を維持するのに必要なエネルギを持つことになります。そうでない場合は、接点間で放電が発生してもアーク点弧の原因にはなりません。

 

アークが点弧すると、トムソン効果によりアーク柱に沿って温度勾配が生まれ、陰極のほうが温度の高い接点になります。つまり、陰極から陽極に向かって熱が移動します。I2R によって導かれる熱が最大になる陰極のスポットでは沸点に達する場合があるため、原子の放出が発生し、分子放射が起こることもあります。このような分子放射はアーク柱によって吸引され、温度が低い陽極接点のほうに蓄積します。これが、よく知られているアーク溶接の原理です。このような現象のすべてが、接点どうしの継続的な動作に伴い、10 ナノ秒ほどの間に発生します。

 

アークは、別の高スポットでメークが発生するまで存続します。先ほど説明したように、このような高スポットの熱は溶融を引き起こします。溶融した材料は拡散するため、接点のメークが発生する面積が大きくなります。液体化した金属は、接点どうしが激しく動くことで飛散するため、材料の損失が発生します。接点間の融解した金属が冷却されると、当然ですが、接点どうしが固着することになります。ただし、誤ったリレーを使用した場合の深刻な溶着とは異なり、このような溶着部は弱いため、リレーの電源が遮断されたときに、リレー スプリングの動作によって簡単に破砕されます。ここでもう一度考えてほしいのですが、アークが点弧する前は、実際には何が起こっているのでしょうか?アークの原因は、負荷電流や負荷電圧なのでしょうか?確実に言えるのは、アークの発生にはアークが移動する媒体が必要であり、接点間のイオン化されたエア ギャップがその媒体になっているということです。また、イオン化の原因となっているのは、接点の高スポットで発生する負荷電流の熱です。ただし、アーク点弧の原因となるのは、接点のギャップ間に存在する電圧です。この電圧は、必ずしも負荷電圧ではなく、回路電圧の場合もあります。つまり、接点のメークが発生した時点で、回路には一定の静電容量が存在することになり、接点を通じて帯電していきます。 

図 4.

また、接点間にアーク抑制コンデンサを取り入れると、このコンデンサがリレー接点を通じて放電を行います。

図 5.

放電によるサージ電流は、数ナノ秒ほどの時間にわたり、数百アンペアに達する場合があります。このような放電電流を制限するため、アーク抑制コンデンサには一定の容量を持つ抵抗器を直列で接続する必要があります。ただし、このような特化した静電容量を持たない回路であっても、接点のメーク時に瞬間的に過電流を生み出すのに十分な浮遊容量が存在する場合もあります。この事実は、回路設計時に見落とされがちです。

図 6.

アーク点弧は、同様の仕組みで接点のブレーク時にも発生します。接点の分離が始まると、負荷電流を伝導する接触面が小さくなります。負荷電流は、狭くなった部分に集中して注ぎ込まれることになるため、I2R で導かれる熱量は大きくなります。接点の最後のポイントが融解し、そのまま接点の分離が進むと、接点間をつなぐ薄い溶融金属のブリッジが形成されることになります。そして、ギャップ内のエアではイオン化が始まります。このブリッジでは I2R により非常に大きなエネルギが生まれることになるため、文字通りの爆発が発生し、ギャップには金属イオンが飛散することになります。この場合もはやり、接点電圧が十分に高ければアークが点弧します。

 

アーク電圧の定格は、接点の材質ごとに異なります。純銀の場合、アーク電圧の定格は 12 ボルトです。また、カドミウムは 10 ボルトで、金およびパラジウムは 15 ボルトです。たとえば、接点が純銀の場合を考えてみましょう。材質が銀で、回路電圧が 12 ボルト以上の場合、溶融金属のブリッジが爆発してから数ナノ秒以内に、電圧のブレークオーバーが発生します。回路電圧が 12 ボルト未満の場合、ブレークオーバーは発生しないため、アークも発生しません。

 

分離している接点間でアークが点弧すると、十分なエネルギが供給されている限り存続します。また、アークが存在する限り、金属の転移も継続されます。直流電流の用途では、アークを消弧する方法は、アーク自体のインピーダンスによって消弧される長さまで伸張すること、または他のポイントで回路を開にすることだけです。ただし多くの用途では、接点が完全に開く前に、アークの消弧に十分な広さの接点ギャップが確保されます。リレーの特定の接点の定格が AC 120 V などになるのはこのような理由からですが、DC 電圧の定格は DC 28 V や 30 V など、大幅に低くなります。つまり、交流電流はゼロになる周期が存在するため、AC アークが直ちに消弧するのに十分な広さのギャップということになります。ただし、DC 110 V の場合は、DC アークが消弧するのに十分な広さのギャップとはいえません。

 

AC 用途では、イオン化されたエアの温度によっては、半周期ごとにアーク電流がゼロまで低下しても、ゼロ電流の後でアークが再点弧する場合があります。これは、接点間に陽イオンが存続しているためで、陽イオンはアーク点弧を起こすためにそれほど大きなエネルギを必要としないためです。

 

アークが発生する用途では、純銀よりも銀カドミウム酸化物のほうが寿命の面で優れた性能を発揮するというのが長年にわたる認識でした。酸化物で覆われた材料は十分に加熱することで陰イオンを生み出すため、銀カドミウム酸化物から生成された陰イオンが、ゼロ電流後の早期の段階で陽イオンと再結合するというのがその理由です。この再結合によりアークが早期に消弧されるため、ゼロ電流後の再点弧が防止されます。そのため、アークの発生が予期される AC 用途では、銀カドミウム酸化物の接点と適切なアーク抑制手法を組み合わせることで、良好な接点寿命を実現できるものと思われます。アーク抑制の手法については、ここでは説明しません。これについては、「Relay Contact Protection (リレー接点の保護)」という別のアプリケーション ノートをご覧ください。ここでは、適切なアーク抑制により接点寿命を延ばせるということにのみ触れておきます。また、アークを抑制することで、電磁干渉 (EMI) の発生も最小限に抑えられます。EMI は、アーク柱での原子の動きによって発生します。アーク プラズマが発生すると、接点の表面には原子、陽イオン、陰イオン、電子が激しく衝突し、そのうちのいずれかが電界を通過することで加速する場合があり、さらにそのいずれかが電子の二次放出の原因となる場合があります。これにより、幅広い周波数にわたりエネルギが放射されます。このような現象は、アークを早期に消弧することで最小限に抑えられます。そのため、多くの場合、電磁干渉や無線周波数干渉が大幅に低減されます。

 

まとめになりますが、アークが発生するリレー接点の寿命を最大限に高めるには、適切なリレーと接点を選ぶこと、および可能であればアーク抑制手法を取り入れることが最も重要になります。

 

リレーが AC ライン電圧に同期する AC 用途では注意が必要です。同期が避けられない場合は、ゼロ電流 (またはその付近) でリレー接点の動作が発生するようにクロックを設定してください。

 

また、重度のアーク発生が予期される用途では、接点の材料として銀カドミウム酸化物が使われているリレーを選択してください。

リレー接点の特性から可能な限り長い寿命を達成する

電気アークとは厳密には何でしょうか?どのように点弧し、何によって消弧されるでしょうか?アークはリレー接点の寿命にどのように影響を及ぼすでしょうか?

 

このような問題について論じていきます。これらのようなリレー接点の特性から可能な限り長寿命を得る方法を理解する一助になれば幸いです。

 

しかし、最初に当社の使用しているいくつかの用語を定義しましょう。

 

まず、「constriction (コンストリクション)」とはメークする一番最初の小さな接触面、そしてブレークする一番最後のポイントのことです。

 

Melt Voltage (メルト電圧) はコンストリクション全体の電圧量で、コンストリクションの接点材料を液化させるだけの電流を流します。

 

Arc Voltage (アーク電圧) は狭いギャップで隔てられた接点に存在する電圧量で、ギャップを越えて放電を生じさせます。

 

最後に、Arc Current (アーク電流) は、アーク電圧放電によって生じるアークが維持されるために必要な電流量です。

 

では、リレー接点の世界を理解するにはこれらの用語を頭に入れてください。それはかなり過酷な環境です。接点アークの影響を詳細に見てみましょう。

 

ご存知のとおり、接点アークが発生すると接点寿命の低下につながります。アークの強度と持続時間にも左右されますが、アーク点弧が起こるたびに、接点の浸食が進みます。このような浸食は接点材料が失われる原因となり、次の 2 つの状況のいずれかが発生します。

図 1. 状況 1

図 1. 状況 1

 

状況 1: 接点から多くの材料が失われ、負荷回路を電気的に閉状態にできなくなります。状況 2: 一方の接点から、他方の接点よりも大幅に多くの材料が失われ、それぞれが凹部と凸部のような形状の接点になります。  

図 2. 状況 2

図 2. 状況 2

AC 負荷スイッチングでの同期に関する重要な留意事項

このアプリケーション ノートでは、AC 負荷スイッチングに関連して「同期」という用語を何度か使用します。この文脈での同期とは、負荷供給電圧波形上の同じポイント、または負荷電圧正弦波上の主に同じ極性で、接点のメークまたはブレーク (またはその両方) が発生するリレーの動作を指します。

 

このような同期により、接点間で接点材料の純移転が発生します。これにより、接点の機械的なロッキングや溶着が発生する可能性が高くなるため、予期される接点寿命が短くなります。ここで公開されているすべての評価および試験結果は、別途記載されていない限り、負荷供給周波数を基準としたランダムなスイッチングに基づくものです。

 

接点とライン周波数の意図しない同期は、次のようなシナリオで発生する可能性がありますが、これらに限定されるわけではありません。

  • マイクロコントローラが電源の周波数に同期した
  • サイリスタが電源の周波数に同期した
  • コイルを駆動する DC 電源のフィルタ処理が不十分
  • センサ回路でライン周波数ノイズが誘発される 

意図した「ゼロ クロス」回路が不適切に設計されていると接点閉鎖が発生する原因となり、特に高電流が流れ、極性が同じ場合は跳動の原因となるため、回路設計には注意する必要があります。

重度のアークがときどき発生することで引き起こされる結果としては、接点の溶着も挙げられます。ただしこのような現象が発生する原因の多くは、回路で誤ったリレーが使われていて、そのリレーで処理できる範囲を大きく超えた電圧や電流が印加されているためと見られています。

 

接点に形成された凹凸については、状況が悪化すると、凸部が凹部の縁部に留まってしまう場合があります。このようになると、リレーの電力が遮断された場合でも開回路にならないため、負荷を制御できない状態になってしまいます。もちろん、このような状況は望ましくありません。

 

一般的に、材料の転移により凹凸が形成される状況は、直流電流の用途に関連付けられます。ただし交流電流の用途でも、材料の転移により凹凸が形成される状況が発生することがわかり始めています。これは、このような用途では、リレーが AC ライン電圧と同期して動作するためです。このような同期は、半導体ロジックまたはリレーを動作させるマイクロコンピュータ回路の AC ラインに対する同期の結果として発生するのが一般的です。同期がライン電圧のピークまたはその付近だけで発生する場合は、リレー接点が作動するたびに、ライン電圧が 120 ボルトか 240 ボルトかに応じて、170 ボルトまたは 340 ボルト (あるいはその付近) で同期が発生します。

 

回路のクロックを AC ラインに同期させる必要のある用途の場合は、リレーのランダムな動作を実現する回路を追加する必要があります。また、リレー接点がゼロ電流 (またはその付近) で開になるように同期を設定することもできます。

 

材料の転移により凹凸が形成される状況については、もう 1 つ言及すべき点があります。それは、この種の転移が常に接点アークの結果として発生するものと考えないことです。それ以外の原因も考えられます。アーク点弧が発生していない回路でも、材料の転移は起こり得ます。それは、回路電圧が接点材料の溶融電圧を超えている場合です。このような状況で接点どうしが接触または分離すると材料が溶融し、温度の高い接点 (陽極) から温度の低い接点 (陰極) に材料が転移して、そこに留まります。動作が真にランダムな AC 用途では、ある時点では一方向に材料の転移が発生し、別の時点では逆方向に発生します。そのため、どちらの接点でも材料の増加は認識できるほどではありません。ただし DC 用途やリレーが AC ラインに同期する用途では、材料の転移が常に同じ方向に発生するため、凹凸が形成される状況につながる可能性があります。

 

アーク点弧が発生すると、接点材料は陰極の接点から陽極の接点に転移します。そのため、接点がどのような動作を行う場合でも、アーク点弧の前は材料が陽極から陰極に転移し、アークが点弧すると陰極から陽極に材料が転移します。転移する量は、アーク発生時の方が多くなるのが一般的です。ただし先ほど説明したように、真にランダムな AC 用途では、どちらの接点でも材料の純増分は無視できる程度のものですが、DC 用途または AC ラインに同期する用途の場合は、一方の接点で大幅な材料の増加が起こる可能性があります。これは非常に重要なポイントです。

 

それでは、接点閉鎖時に何が起こるのかを見てみましょう。高倍率の顕微鏡でリレー接点の表面を調べると、表面はきわめて不均一であり、スポットごとに高さがバラバラで、他と比べて非常に低いスポットや高いスポットで構成されていることがわかります。 

図 3.

接点どうしが接触するときは、最初に接触する高いスポットに最大負荷電流が流れることになります。負荷電流がわずかな場合でも、I2R によって導かれる発熱量は、このような高いスポットが溶融する原因となり、沸点に達することさえあり得ます。高スポット周囲の空気は過熱状態となり、電子の喪失によりイオン化が始まります。I2R のエネルギ量が十分な場合、高スポットの温度は 5,000 ケルビン以上に達し、爆発が起こる可能性があります。これにより、イオン化された空気と金属イオンが、接点間の隙間に残留します。接点の材質とエア ギャップに対する電圧ストレス (爆発の瞬間の接点電圧) によっては、イオン化されたエア ギャップが陰極から陽極に電子流を伝導し始める場合があります。このような接点間の電子放電が、実際にはアークの始まりとなります。負荷電流が接点材料のアーク電流定格を超えている場合、アークは自身を維持するのに必要なエネルギを持つことになります。そうでない場合は、接点間で放電が発生してもアーク点弧の原因にはなりません。

 

アークが点弧すると、トムソン効果によりアーク柱に沿って温度勾配が生まれ、陰極のほうが温度の高い接点になります。つまり、陰極から陽極に向かって熱が移動します。I2R によって導かれる熱が最大になる陰極のスポットでは沸点に達する場合があるため、原子の放出が発生し、分子放射が起こることもあります。このような分子放射はアーク柱によって吸引され、温度が低い陽極接点のほうに蓄積します。これが、よく知られているアーク溶接の原理です。このような現象のすべてが、接点どうしの継続的な動作に伴い、10 ナノ秒ほどの間に発生します。

 

アークは、別の高スポットでメークが発生するまで存続します。先ほど説明したように、このような高スポットの熱は溶融を引き起こします。溶融した材料は拡散するため、接点のメークが発生する面積が大きくなります。液体化した金属は、接点どうしが激しく動くことで飛散するため、材料の損失が発生します。接点間の融解した金属が冷却されると、当然ですが、接点どうしが固着することになります。ただし、誤ったリレーを使用した場合の深刻な溶着とは異なり、このような溶着部は弱いため、リレーの電源が遮断されたときに、リレー スプリングの動作によって簡単に破砕されます。ここでもう一度考えてほしいのですが、アークが点弧する前は、実際には何が起こっているのでしょうか?アークの原因は、負荷電流や負荷電圧なのでしょうか?確実に言えるのは、アークの発生にはアークが移動する媒体が必要であり、接点間のイオン化されたエア ギャップがその媒体になっているということです。また、イオン化の原因となっているのは、接点の高スポットで発生する負荷電流の熱です。ただし、アーク点弧の原因となるのは、接点のギャップ間に存在する電圧です。この電圧は、必ずしも負荷電圧ではなく、回路電圧の場合もあります。つまり、接点のメークが発生した時点で、回路には一定の静電容量が存在することになり、接点を通じて帯電していきます。 

図 4.

また、接点間にアーク抑制コンデンサを取り入れると、このコンデンサがリレー接点を通じて放電を行います。

図 5.

放電によるサージ電流は、数ナノ秒ほどの時間にわたり、数百アンペアに達する場合があります。このような放電電流を制限するため、アーク抑制コンデンサには一定の容量を持つ抵抗器を直列で接続する必要があります。ただし、このような特化した静電容量を持たない回路であっても、接点のメーク時に瞬間的に過電流を生み出すのに十分な浮遊容量が存在する場合もあります。この事実は、回路設計時に見落とされがちです。

図 6.

アーク点弧は、同様の仕組みで接点のブレーク時にも発生します。接点の分離が始まると、負荷電流を伝導する接触面が小さくなります。負荷電流は、狭くなった部分に集中して注ぎ込まれることになるため、I2R で導かれる熱量は大きくなります。接点の最後のポイントが融解し、そのまま接点の分離が進むと、接点間をつなぐ薄い溶融金属のブリッジが形成されることになります。そして、ギャップ内のエアではイオン化が始まります。このブリッジでは I2R により非常に大きなエネルギが生まれることになるため、文字通りの爆発が発生し、ギャップには金属イオンが飛散することになります。この場合もはやり、接点電圧が十分に高ければアークが点弧します。

 

アーク電圧の定格は、接点の材質ごとに異なります。純銀の場合、アーク電圧の定格は 12 ボルトです。また、カドミウムは 10 ボルトで、金およびパラジウムは 15 ボルトです。たとえば、接点が純銀の場合を考えてみましょう。材質が銀で、回路電圧が 12 ボルト以上の場合、溶融金属のブリッジが爆発してから数ナノ秒以内に、電圧のブレークオーバーが発生します。回路電圧が 12 ボルト未満の場合、ブレークオーバーは発生しないため、アークも発生しません。

 

分離している接点間でアークが点弧すると、十分なエネルギが供給されている限り存続します。また、アークが存在する限り、金属の転移も継続されます。直流電流の用途では、アークを消弧する方法は、アーク自体のインピーダンスによって消弧される長さまで伸張すること、または他のポイントで回路を開にすることだけです。ただし多くの用途では、接点が完全に開く前に、アークの消弧に十分な広さの接点ギャップが確保されます。リレーの特定の接点の定格が AC 120 V などになるのはこのような理由からですが、DC 電圧の定格は DC 28 V や 30 V など、大幅に低くなります。つまり、交流電流はゼロになる周期が存在するため、AC アークが直ちに消弧するのに十分な広さのギャップということになります。ただし、DC 110 V の場合は、DC アークが消弧するのに十分な広さのギャップとはいえません。

 

AC 用途では、イオン化されたエアの温度によっては、半周期ごとにアーク電流がゼロまで低下しても、ゼロ電流の後でアークが再点弧する場合があります。これは、接点間に陽イオンが存続しているためで、陽イオンはアーク点弧を起こすためにそれほど大きなエネルギを必要としないためです。

 

アークが発生する用途では、純銀よりも銀カドミウム酸化物のほうが寿命の面で優れた性能を発揮するというのが長年にわたる認識でした。酸化物で覆われた材料は十分に加熱することで陰イオンを生み出すため、銀カドミウム酸化物から生成された陰イオンが、ゼロ電流後の早期の段階で陽イオンと再結合するというのがその理由です。この再結合によりアークが早期に消弧されるため、ゼロ電流後の再点弧が防止されます。そのため、アークの発生が予期される AC 用途では、銀カドミウム酸化物の接点と適切なアーク抑制手法を組み合わせることで、良好な接点寿命を実現できるものと思われます。アーク抑制の手法については、ここでは説明しません。これについては、「Relay Contact Protection (リレー接点の保護)」という別のアプリケーション ノートをご覧ください。ここでは、適切なアーク抑制により接点寿命を延ばせるということにのみ触れておきます。また、アークを抑制することで、電磁干渉 (EMI) の発生も最小限に抑えられます。EMI は、アーク柱での原子の動きによって発生します。アーク プラズマが発生すると、接点の表面には原子、陽イオン、陰イオン、電子が激しく衝突し、そのうちのいずれかが電界を通過することで加速する場合があり、さらにそのいずれかが電子の二次放出の原因となる場合があります。これにより、幅広い周波数にわたりエネルギが放射されます。このような現象は、アークを早期に消弧することで最小限に抑えられます。そのため、多くの場合、電磁干渉や無線周波数干渉が大幅に低減されます。

 

まとめになりますが、アークが発生するリレー接点の寿命を最大限に高めるには、適切なリレーと接点を選ぶこと、および可能であればアーク抑制手法を取り入れることが最も重要になります。

 

リレーが AC ライン電圧に同期する AC 用途では注意が必要です。同期が避けられない場合は、ゼロ電流 (またはその付近) でリレー接点の動作が発生するようにクロックを設定してください。

 

また、重度のアーク発生が予期される用途では、接点の材料として銀カドミウム酸化物が使われているリレーを選択してください。