ホーム オートメーションにおけるイノベーション

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今の時代を形作るアイデア

現代のスマートホームは、新たな水準の快適性、利便性、安全性を提供する各種機能を統合したセンサ搭載システムによって機能しています。著者: Ronald M. Weber、グローバル インダストリー マネージャ、ビルディング オートメーション

よく交わされる挨拶のような言葉として「良い時代を生きることができますように」というものがあります。 多くのことわざ同様に、この言葉は幸運に出会えることを願うものであるか、悪意を呪いのように投げかけるものです。多くの場合、それを聞く各個人の考え方によって、解釈は異なってきます。この挨拶が醸し出す二重性は、スマートホームのアイデアについて考える出発点となります。スマートホームには多数の切り口があり、あるものはすばらしい側面となる可能性があり、あるものは悲惨な結果となる可能性があります。多くのことわざ同様に、その影響は解釈によって異なります。これまでにないほど多くのデバイスや機能が生産されるようになっているスマートホームは、「住」を体験する形態を変革する可能性を秘めています。この変革は、住まいでの生活をどのように体験するかという点、およびその接し方が毎日の生活にどのように好影響を及ぼすかという点の両方に関わっています。この変革の中心にあるものは、家に発生する大きな変化です。つまり、これまでの電気、熱、機械で構成したデバイスとしての家から、自身を監視しながら適応型学習するシステムを装備して電子化した家への変化です。

スマートホームで全面的なコネクティビティを実現するには、すべての要素を電子化し、それらが互いにシームレスに動作するように統合する必要があります。

世界中の自宅所有者にとって、住まいの HVAC システムを制御するサーモスタットはなじみ深い存在です。 このサーモスタット自体、ここ数年にわたってきわめて興味深く、また洗練されたものになってきました。つまり、電気機械式のスライド スイッチとプッシュ ボタンの集合体から、センサと付加機能を備えた、ボタンのないスリムな部品ユニットに変化しています。長年にわたり、自宅所有者は季節の変わり目にサーモスタットの設定を変更する作業を強いられてきました。これらのデバイスの基本的構造は、バイメタル素子と水銀スイッチを使用した単純な熱電気素子です。夏が来たら、手操作でスライド スイッチを "暖房" から "冷房" に切り替えると、以後の数か月間は設定した温度のサーモスタット設定に基づいて冷房システムの電源が入ったり、切れたりします。夏でも予想外に寒い晩は、サーモスタットを手操作で調整して室内の温度を上げ、朝になったら、設定を元の夏期向け設定温度に戻す必要があります。毎日、毎週、季節ごとに手操作で変更する作業は「儀式」のようなものでした。ほとんどの家で備えているサーモスタットは 1 つのみだったからです。この方法では、どのような調整であっても、キッチンから屋根裏、そしてすべての住人まで、家全体に一律に適用されていました。個々の部屋の条件に応じて温度を調整することはできず、住人それぞれの好みに合わせて調整することもできないので、いつも暑すぎると感じる住人もいれば、いつも寒すぎると感じる住人もいるということは不可避でした。 

センサは、高度なコネクティビティを実現して、家の中でさまざまなシステムを統合します。
センサは、高度なコネクティビティを実現して、家の中でさまざまなシステムを統合します。

1990 年代、マイクロコントローラのコスト低下とプロセッサの能力向上に伴い、サーモスタット製造業者は電気素子としてのサーモスタットから電子素子としてのサーモスタットに移行し始めました。 サーモスタットの電子化は、サーモスタットの設計現場に新たな課題を突き付けました。ユーザー インタフェースに対応するために PCB 実装型スイッチを追加しなければならず、基板とのシステム ワイヤ結線のためにミニチュア コネクタを使用しなければならないという状況が突然発生してきました。システムの切り替えができるように、それまでは必要としなかった小型リレーを設計に取り入れる必要がありました。冷暖房の「癖」のような動作を理解している自宅所有者や、冷暖房設定のカスタマイズと自動化を望む自宅所有者の後押しで、このようなプログラマブル サーモスタットは市場に受け入れられました。より高性能でより小型の素子に対する顧客の要望が強くなることで、小型化したプログラマブル サーモスタットの市場が成長し、現在、家庭や市場で見られるような製品が生まれてきました。これらの素子は技術的に洗練されていて、利便性も高いものですが、条件の変動に対してはスマートではなく、そのような変動への適応性にも優れていません。 

このような初期のプログラマブル サーモスタットの正常進化形がスマート サーモスタットです。 適応型学習技術の第 1 世代である現在のスマート サーモスタットは、高性能なマイクロコントローラを採用してスマート機能と適応性を実現しています。また、プロセッサの価格が下がり続けた結果、妥当な価格のスマート サーモスタットでも、これまでになく拡張したハイテク機能を提供する素子を搭載できるようになっています。これらの素子では、検出した条件を検知して学習する機能、それらの条件を情報として送信する機能、それらの条件に応答する機能が充実し続けています。TE の多機能 PTH 素子のように、新たな用途の開拓とともに小型化が進んだセンサが入手できるようになった結果、これらのスマート サーモスタットは、これまで以上にその高性能プロセッサを利用し、アルゴリズム制御機能の前段階で大量のデータを前処理しています。これらとは別に、現在のようなスマート サーモスタットを可能にした重要な技術開発として、消費者製品業界とモバイル デバイス業界が扱ってきた各種機能との技術的な相互交配があります。スマート サーモスタットへの超小型コネクタ、小型バッテリー技術、超小型スイッチング素子の組み込みをはじめとする最近の技術開発が、このような技術的相互交配に該当します。スマート サーモスタットを開いて内部を見ることができれば、効率的でコンパクトな各部品の随所に、明らかに携帯電話から受け継いだと見られる技術を見ることができます。モバイル デバイス技術との融合によって実現したこのような付加機能は、スマート サーモスタットが市場で受け入れられる推進要素となっています。このような受け入れ状況の鍵となっているのは、温度や湿度の監視だけではなく、占有率、音量、光量などの検出もサーモスタットでできるようにしているセンサの多様性です。同時に、HVAC システムの単なる電源オンオフなどにとどまらない優れた利便性の実現で必要になる重要なデータ ストリームも、これらのセンサが生成しています。現在のスマート サーモスタットの機能性とインテリジェンスは、プロトコル機能によって拡大したものです。このプロトコル機能によって、サーモスタットが設置されている部屋の外部とサーモスタットでデータを送受信できるようになっています。スマート サーモスタットが備えているこの接続性とデータ処理機能は、旧式技術に対するスマート サーモスタットの決定的な優位点です。

適応型学習技術の第 1 世代である現在のスマート サーモスタットは、高性能なマイクロコントローラを採用してスマート機能と適応性を実現しています。

適応型学習技術の第 1 世代である現在のスマート サーモスタットは、高性能なマイクロコントローラを採用してスマート機能と適応性を実現しています。

スマート サーモスタットは、スマートホームの概念を実現するための出発点にすぎません。 スマートホームを語るときにはスマート サーモスタットがよく引き合いに出されますが、スマート サーモスタットでスマートホームのすべてを論じることができるわけではありません。真のスマートホームは、センサ、アクチュエータ、および機器のネットワークを構成する複数のデータ ソースから収集したデータ点のクラウドを提供するようになると考えられます。これらのデータ ソースがまとまってスマートホームを稼動します。スマートホームで全面的なコネクティビティを実現するには、すべての要素を (厳密な電気素子とするのではなく) 電子化し、それらが互いにシームレスに動作するように統合する必要があります。スマート サーモスタットは、このスマートホームの構成要素の 1 つにすぎませんが、重要な要素であることは確かです。複数のセンサと通信機能を備えたスマート サーモスタットは、データを生成して処理し、データの正常性を監視します。この機能性により、家の状況の評価、家の物理的な設備の制御、家の住人に対する反応などをスマート サーモスタットで実現できます。インターネットに接続してクラウドと通信する機能をスマート サーモスタットが備えていることで、IFTTT 機能を実現する高度な分析とアルゴリズム制御をスマート サーモスタットで実行できます。この機能は、将来の家がどのように機能するか、その住人と家がどのように対話するかを変革する可能性を秘めています。

このような状況の広がりはセンサ アセンブリの小型化を促し、その結果、センサ エレメントと各部品の小型化を必要として、複数素子の一層の統合を推進することになります。

スマート サーモスタットが携帯電話のように複雑になるということではありませんが、携帯電話に相通じるような形態で、使用方法、設計、機能が将来にわたって変わっていくと見られます。 スマートホームの次の発展段階は、複数のセンサと制御機能を備えたセンサ プラットホームに基づくものになると考えられます。これらの機能にクラウドによって実現できる別の機能を組み合わせることで、スマート サーモスタットを使用しないスマートホームのビジョンが現実味を帯びてきます。家中に配置した多数のセンサを無線や有線で接続したアレイを持つ家を想像してみてください。それぞれのセンサは、データを生成して処理し、集中型またはクラウド上の制御機能とデータ通信します。この制御機能によって、家にある各種のアクチュエータや機器を適切に制御します。このようにセンサを備えたスマートホームでは、現在のスマート サーモスタットが提供している機能は不要となります。適切に配置したアクチュエータや機器をこのようなセンサと組み合わせることで、従来は不可能だったきめ細かい水準で家を制御できるようになります。このような状況の広がりはセンサ アセンブリの小型化を促し、その結果、センサ エレメントと各部品の小型化を必要として、複数素子の一層の統合を推進することになります。小型化への要望は、より小型でより高密度に統合した最終製品を生み出す契機となります。TE をはじめとする部品サプライヤが、この要望に応える新製品の開発を進めて市場に投入するに従い、これらの素子は家の中ではほとんど目に付くことのないユビキタス的な存在になっていきます。このような多機能で大規模に配置したセンサ アセンブリは、たった 1 つの小型パッケージで、これまでにない水準の快適性、利便性、安全性、セキュリティを将来のスマートホームの住人に提供します。スマートホームには、実に興味深い将来が待っています。