ホワイト ペーパー
将来の海中光ファイバー
現代の海中光ファイバー システムでは、高圧高温の環境でも優れた光学性能を実現できます。石油&ガス業界では、踏査と採取で現在と将来にわたって発生する課題にこのシステムで対応できます。
著者:
光および信号システム、艦船担当プロダクト マネージャ、Jérémy Calac
海洋での石油の踏査と生産を進める業界では、操業効率の飛躍的向上と油層の採取改善に向けて新たな手段を模索しており、その 1 つとして光ファイバーに注目しています。 海洋での掘削活動はより海中深く、一層深い油井に移行し続けていますが、光ファイバーは、銅線ケーブルに比べて、速いデータ速度でより長距離にわたって伝送可能なこともよく知られています。同時に、操業企業は、個々の油井と油井から海上または陸上のプラットフォームまでの生産チェーン双方のリアルタイムな情報と分析の実現を追求しています。海中処理とシステム全体のモニタ強化によってこれまで以上のデータが生成されることから、光ファイバーによる高い帯域幅と長距離伝送が注目されるようになっています。 システムから収集できる情報が増加するほど、その分析も高度なものになっていきます。このようなデータから、現在の状態をリアルタイムで明確に把握できるだけではなく、今後の状態に対する高度な予測モデルの基盤を得ることもできます。
水中処理とシステム全体のモニタ強化によってこれまで以上のデータが生成されることから、光ファイバーによる高い帯域幅と長距離伝送が注目されるようになっています。
このようなモニタと分析は、操業効率の向上にとどまらず、企業の投資利益率向上に大きな効果を上げます。 光ファイバー システムは、同等の電気方式システムよりも設置コストが高くなることが普通です。光ファイバー システムの設置に伴うこのような高い初期コストも、長期間の生産効率向上によるコスト削減で相殺できます。操業効率の向上、量と質の両面で改善される石油とガスの採取、油井に対する優れた管理の実現によって、短期間で投資を回収できることを各企業が認識するようになってきています。銅線と比較した光ファイバーの費用対効果のどのような分析も、特定のアプリケーションと油井に依存しています。経済面に関する操業企業からのフィードバックはきわめて貴重ですが、操業の機密保持の観点から、そのような情報が得られることはまれです。
光ファイバーによる受動センシング
光ファイバーは、温度や圧力といった各種データを長期間にわたってモニタおよび取得する作業でも注目されるようになっています。 分散センシング システムの構成でも光ファイバーは優れています。この場合は光ファイバー自体がセンサとして機能します。圧力や温度の変化によって後方散乱プロファイルが変化するので、後方散乱した光を監視することによって高精度な測定を実現できます。光ファイバーの中を伝播する光の速度は十分に解明されているので、後方散乱した光から、振幅測定値と光ファイバー中における測定位置の両方に関する情報が得られます。光ファイバーによる分散センシングは、海洋石油&ガス業界によって現在以下のような用途で広く使用されています。
- 油層をモニタし、油井内部に関するデータを取得して、油井で発生している現象を確実に把握する
- パイプからの漏れを検出する
- 温度を測定して、電気的に加熱しているパイプラインでの水和物生成を防止する。直接電気加熱 (DEH) と電気トレース加熱パイプ内パイプの両方式で分散センシングを使用できます。
- フレキシブルなライザ/流理での機械構造に対するひずみと温度をモニタする。分散センシングと長期的なモニタにより、パイプ全長にわたるデータをリアルタイムで取得できます。
海中センシング システムはその全体が受動方式であることから、電気センサに電源を供給する必要がありません。 地震探査の音響センサとしても光ファイバーを利用できます。ただし、光ファイバーですべてに対応できるわけではありません。 たとえば、油層監視の用途では、銅線を使用したセンサでは信頼性が得られない 150°C を超える環境を除き、標準的な電気通信システムが光ファイバー システムに置き換えられていることはありません。そうではあっても、光ファイバー システムでセンシング機能を補強または補完することはできます。情報伝達容量とセンシングで光ファイバー技術に利点があるにもかかわらず、海中石油生産では、他業種に比べると光ファイバーの普及は進んでいません。光ファイバーは脆弱に見えますが、実際にはきわめて堅牢です。推奨の方法で設置した光ファイバー システムであれば、業界で一般的になっている、メンテナンスを必要としない最低 30 年の寿命要件を満足できます。このように光ファイバーの信頼性は銅線同等ですが、同時に各種機器にも、深海中と掘削した油井中の環境条件下における信頼性が必要です。深海の海水温度は 0 ~ 3°C であることが普通ですが、坑内の温度は 200°C に達することもあります。5,000 m 程度の深海で使用する深海システムの設計目標として、6,600 psi の海水圧と 20,000 psi の抗口圧力に耐えるものにすることがあります。
海中および坑内の光ファイバー システム
坑内から海上までエンドツーエンドの光ファイバー ソリューションは実現可能なソリューションです。 一般的なシステムを以下の図に示します。システムの最上部は、形状がクリスマス ツリーに似ていることが多いので、Xmas ツリーと呼ばれています。Xmas ツリーは、垂直方向 (図中左側) にも水平方向 (図中右側) にも構成できます。どちらの構成でもコネクティビティは同一にする必要があります。この図の右側に示した構成は、左側の構成と同じです。資材のサイズと重量が制限されることから、海洋における海中システムの設置は複数の段階を経て実施する必要があります。光ファイバーによるセンサ、ケーブル、コネクティビティ ソリューション (ジャンクション ボックス、ドライメイトとウェットメイトのコネクタなど) が海中のスマート システムに使用される理由はこの点にあります
この組み合わせのシステムでは、油井のデータ取得システムまたは海底と海上のデータ取得システムに設置した光ファイバー センサの間で光学導通性を実現することが第一の機能となります。 二次的ではあるものの、第一の機能よりも重要な機能として、外部の過酷な環境に対するシステムの完全性を保証する圧力格納機能があります。設置を容易にするために、光ファイバー コネクタには海中モジュール間に光リンクを実現することが求められます。独立した複数のモジュールとして配備し、海底で一体化するようにしたシステムもあります。モジュール内部または海上で組み立てる複数モジュール間にはドライメイト可能なコネクタを使用します。これらのコネクタは、海中で嵌合するようには設計されていませんが、嵌合した状態では海水と海水圧に耐えることができます。以下の図に示すように、ドライメイト コネクタは、高精度セラミック フェルールを使用するミリタリ/航空宇宙用丸型コネクタのユーザーにはよく知られたものです。
ウェットメイト可能なコネクタ (下図) は海上で嵌合することもできますが、その最大の目的は、遠隔操作無人探査機 (ROV)、ダイバー、または作動システムによって海中に下ろした後、海水中で接続することにあります。 このコネクタを使用すれば、本来の設置場所でモジュールを接続できます。ウェットメイト コネクタは、ドライメイト コネクタよりも複雑な設計となっています。深海の海水圧の下で課題となる、嵌合状態と非嵌合状態の双方でシール型インタフェースを維持する必要性から、このコネクタが存在しています。稼動の全過程と設計寿命にわたって絶縁を維持するために、このコネクタにはオイルが充填され、均圧構造となっています。 ブラダー機構またはピストン機構により、コネクタ内部の圧力が外部の海水圧と等しくなるようにしています。これにより、シールとワイパーにわたって圧力差が発生しません。
光ファイバー コネクタに関連して光ファイバー ペネトレータがあります。これは、外部環境からのシールの完全性を達成することまたは光フィードスルー機能を提供すると同時に複数のチャンバを分離することを目的に開発されています。 光ファイバー コネクタに関連して光ファイバー ペネトレータがあります。これは、外部環境からのシールの完全性を達成することまたは光フィードスルー機能を提供すると同時に複数のチャンバを分離することを目的に開発されています。ペネトレータは、油層圧に置いた状態で 5,000 psi、10,000 psi、15,000 psi などのさまざまな圧力に耐えられる定格を備えています。可能であれば、海中モジュールは液体を充填して均圧状態とします。この状態では、液体の圧力を調整して、モジュール外部の海水圧と等しくなるようにします。これにより、圧力差に耐えるために必要なシールが不要になるので、肉厚を薄くして軽量化したうえで、高い信頼性を実現できます。電子回路などのデバイスを内部に備えたモジュールのように、大気圧より高い圧力には耐えられないモジュールもあります。したがって、このようなモジュールでは、光ファイバー ペネトレータを使用して水が浸入しないようにします。海中ポンプや抗口のように油層の密閉圧力にさらされる可能性がある装置では、高温条件下で圧力定格が 15,000 psi に達することがあります。光接続に障害が発生するとセンシング機能が失われますが、機械的な障害であれば、油井から環境に液体が放出されるだけですみます。ペネトレータは環境的に重要なこの機能を提供します。
頑丈なケーブルによるファイバーの保護
光ファイバーは長さ方向の張力に対して優れた強度を持つものの、適切な保護を講じないと容易に破損や損傷が発生します。 したがって、光ファイバー ケーブル自体に外装被覆保護を備えることが一般的です。外装被覆保護には光ファイバー ケーブルと同等の抗張力材であるアラミド繊維を使用しますが、さらに高い堅牢性を必要とする設計では金属製の材料も使用します。水圧が高い用途では光ファイバー内部での減衰量が増加します。TE では、以下の 3 種類の方法でこの問題に対応しています。
- Fiber in Steel Tube (FIST) は、ステンレス チューブ内に光ファイバーを通したもので、水圧、高温影響および腐食環境に対する保護を提供します。FIST 実装は数本の光ファイバーをチューブ内に余裕空間を残して通し、ゲル剤で封止した設計です。チューブの中で光ファイバーが「浮いた」状態になるので、光ファイバーをチューブよりわずかに長くして張力を低減できるようになっています。FIST 技術はきわめて簡潔で低コストな手法です。チューブに発生する応力と光ファイバーに発生する応力を分離することで、光ファイバーにかかる張力が少なくなるようにしています。設置時や使用中にケーブルが引っ張られても、チューブよりもわずかに長い光ファイバーはその引張分を吸収できます。チューブ内余裕設計は、極端な温度の変位に対する寛容性も備えていますが、水深がきわめて深い場合やケーブルが異常に長い場合のように、高い堅牢性が求められる用途には適していません。FIST は、チューブの中に複数の光ファイバーを通すことで高密度実装も実現でき、3 種類の方法の中では結線処理が最も容易です。
- STEEL-LIGHT 外装被覆保護では、サイズに合わせたプロー鋼線よりを光ファイバー周囲に同心配置することで、光ファイバーを破損から保護します。STEEL-LIGHT 網代外装で光ファイバー ケーブルを保護し、電気ケーブルとのハイブリッド構造とした例を以下の図に示します。
- ELECTRO-LIGHT 外装被覆保護は、STEEL-LIGHT 保護と同じ構造ですが、鋼線の代わりに銅線が使用されています。電源ケーブルに銅線を使用して、外径が小さい複合ケーブルを設計することもできます。
STEEL-LIGHT および ELECTRO-LIGHT による光ファイバー構成は、いずれも緊密な緩衝構造による実装です。 堅固な保護は製造時に注意を要しますが、動きの激しい用途では優れた性能を発揮し、長寿命を実現できる選択肢です。STEEL-LIGHT 外装被覆保護は最も頑丈であり、10,000 psi の水圧に耐えるように設計されています。STEEL-LIGHT と ELECTRO-LIGHT の光ファイバーは外径をきわめて小さくでき、ケーブル設計のわずかなすき間に光ファイバーを収めることができます。 薄肉絶縁被覆銅線を使用した直径が小さな新しいアンビリカル ケーブルの中には、このようなわずかなすき間が得られないものもあります。このような条件下でケーブル系を小さくするには FIST が適しています。
光ファイバーの明るい将来
不確実性が高い昨今の石油市場では、生産効率の向上に対するニーズが高くなっています。技術の進歩により、石油とガスの生産に大きな変革がもたらされるだけではなく、海洋油田の寿命を管理して長寿命化する新たなリソースが利用できるようになります。センサで得られる情報により、油田の状態を操業現場でこれまでにないほど深く把握し、操業のリアルタイム調整と長期的な予測モデル化による調整を実現できます。光ファイバーによるパイロット システムが過去 10 年ほどの間に配備され、成果を上げています。これらのシステムは貴重なデータを提供し、高圧高温の環境でも安定した光学性能を実現しています。光ファイバーは、現在および将来の踏査と採取の課題に対応できる優れた手段です。TE では、石油およびガス市場でさらに光ファイバーの導入が進むと考えています。