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概要

ゼロクロスオーバー ソリッドステート リレーは、変圧器または高誘導負荷のスイッチング方法として最悪と言えます。このような負荷のゼロクロスオーバー ターンオンは定常電流の 10 ~ 40 倍ものサージ電流を発生させる可能性があるという証拠1が明らかになっています。それに対して、ピーク電圧でのターンオンではサージはほとんど発生しません。

 

このように大きなサージ電流は、SSR がこの負荷を大幅に超える電流定格を持たない限り、ゼロクロスオーバー SSR の寿命を大幅に短縮する可能性があります。また、(負荷ライン全体にわたって) EMI や RFI を発生させ、論理ゲートを破壊して半導体スイッチの不必要なターンオンを引き起こす場合もあります。さらに、このようなサージ電流はインダクタンスの巻線や変圧器のコア ラミネーションに熱応力と機械的応力をもたらします。これらの応力はデバイスの早期故障につながる可能性があります。

 

こうした大きな突入電流が生じる原因は鉄芯飽和にあります。変圧器は、芯材の飽和曲線の屈折部より下 (つまり、図 1 のポイント A より下) で動作するように設計されています。ただし、飽和は実際に起こり、飽和が起こったときはインダクタンスが非常に低い値まで低下します。さらに、インピーダンスも一次回路の DC 抵抗にほぼ近いレベルまで低下します。(これはどのような可飽和リアクタンスにも当てはまります。)

 

鉄芯に残留磁気がないインダクタンスが電圧ピーク時に通電されると、電流の変化率 (di/dt) によって最大の逆起電力が発生し、図 2 の A に示すように磁束サージは見られません。それに対して、ゼロ時に電圧が印加された場合は、最小限の逆起電力しか発生せず、図 2 の B に示すように「磁束倍加」が起こります。この磁束倍加は電流サージの結果であり、数回の半周期の間持続する可能性があります。

 

鉄芯の残留磁気は、このサージ状態を悪化させます。磁化電圧が除去された後、ある程度の磁気が残るのは芯材の特性です。変圧器の一次電圧がゼロクロスオーバー時に、かつ増加する磁場が残留磁束を支えるような方向で再印加された場合は、2øm +ør の磁束が発生します (図 2 の C)。この磁束はもちろん完全にゼロからのオフセットであり、図 2 の F に示すヒステリシス曲線からわかるように、鉄芯は深い飽和状態にあります (D と E はそれぞれ条件 A と B のヒステリシス曲線を示します)。したがって、突入電流は正常時の数倍になり (図 2 の G を参照)、数回の半周期の間持続する可能性があります。

150 VA の変圧器では、120 ボルトの一次 DC 抵抗は約 1.5 オームで、500 VA の変圧器では、120 ボルトの一次抵抗は約 0.3 オームです。150 VA の変圧器の電流をスイッチングするには 5 アンペアのゼロクロスオーバー SSR があれば十分要は足りると考える人もいるかもしれません。しかし、鉄心飽和中には、一次巻線の突入電流は 80 アンペアに達します。

 

I = E over R = 120 over 1.5 = 80 amps.

 

500 VA の変圧器の場合は、10 アンペアの SSR で十分と思うかもしれませんが、鉄心飽和中の一次電流は 400 アンペアに達します。

 

I = E over R = 120 over .03 = 400 amps.

 

このような状況では、SSR に過剰な負荷がかかり、変圧器は過熱します。(この 400 アンペアのサージ中に一次回路で消費される電力は約 40 KVA です。)

図 1.

図 1.

図 2.

図 2.

図 3 と 4 は、変圧器の突入電流に対する 90o ターンオン SSR の効果を示します。図 3A では、変圧器の二次回路は開いており、一次回路はゼロ電圧付近でターンオンされています。最初の半周期で 200 アンペアの突入電流が発生しています (スコープ トレースは右から左へ読みます)。それに対して、同じ変圧器をピーク電圧でターンオンした場合 (図 3B)、突入電流は定常電流よりも 17% 高いだけです。つまり、突入電流は 7 アンペアになります。

図 3. 二次回路に負荷がかかっていない 150 VA 変圧器

図 3. 二次回路に負荷がかかっていない 150 VA 変圧器。上のトレースは一次電流、下のトレースは一次電圧 (120 VAC) です。(トレースは右から左へ読みます。)

図 4 は、同じ変圧器の二次回路を 250 オームの抵抗器に接続した場合のオシログラムを示します。図 3A と 4A の比較からわかるように、二次回路に負荷をかけても、一次回路の突入電流はほとんど変化していません。

 

図 3A と 4A に示すようなサージ電流は、ゼロクロスオーバー SSR に悪影響を及ぼします。

図 4. 二次回路が 250 オームの抵抗器 (240 VAC) に接続されている 150 VA 変圧器。

図 4. 二次回路が 250 オームの抵抗器 (240 VAC) に接続されている 150 VA 変圧器。上のトレースは一次電流、下のトレースは一次電圧 (120 VAC) です。

「ゼロクロスオーバー」SSRは、必ずしも正確にゼロ電圧でターンオンするわけではありません。回路が反応するまでにおそらく 1 ミリ秒以上はかかります。したがって、負荷電圧が 15 ~ 20 ボルトくらいになるまで、負荷スイッチは完全にオンにはなりません。この場合、サージ電流はそれほど高くなりませんが、それでも有害となる可能性があります。また、ランダム ターンオン SSR も時々、ゼロクロスオーバー時またはその付近でターンオンすることがあります。変圧器やその他の飽和し得る高誘導負荷をターンオンする最良の方法は、ピーク電圧ターンオン デバイスを使用することです。ピーク電圧時にターンオンすると、たとえ実際にサージが存在していても、サージを最小限に抑えることができます。

 

ゼロクロスオーバー SSR は、抵抗負荷、容量性負荷、およびわずかに誘導性の負荷に対しては優れたスイッチです。しかし、そうであっても突入電流を考慮に入れる必要があります。つまり、白熱電球では、定常の「熱いフィラメント」の電流より 10 ~ 20 倍高い「冷えたフィラメント」の突入電流が生じる可能性があります。モータでは、その駆動電流より 6 倍高い「拘束」電流が生じる可能性があります。さらに、コンデンサの突入電流、または大きな浮遊容量が存在する回路の突入電流を抑制する手段は、回路の DC 抵抗だけです。

参考文献

1.“Alternating Current Machines,” Halsted Press, John Wiley & Son, “Inductively Loaded SSRs Control Turn-On to Eliminate First-Cycle Surges,” Electronic Design, March 15, 1979. “Controlling Transformer Inrush Currents,” EDN, July, 1966. “The Great Zero Cross-over Hoax,” NARM Proceedings, May, 1974.

ゼロクロスオーバー ソリッドステート リレーは、変圧器または高誘導負荷のスイッチング方法として最悪と言えます。このような負荷のゼロクロスオーバー ターンオンは定常電流の 10 ~ 40 倍ものサージ電流を発生させる可能性があるという証拠1が明らかになっています。それに対して、ピーク電圧でのターンオンではサージはほとんど発生しません。

 

このように大きなサージ電流は、SSR がこの負荷を大幅に超える電流定格を持たない限り、ゼロクロスオーバー SSR の寿命を大幅に短縮する可能性があります。また、(負荷ライン全体にわたって) EMI や RFI を発生させ、論理ゲートを破壊して半導体スイッチの不必要なターンオンを引き起こす場合もあります。さらに、このようなサージ電流はインダクタンスの巻線や変圧器のコア ラミネーションに熱応力と機械的応力をもたらします。これらの応力はデバイスの早期故障につながる可能性があります。

 

こうした大きな突入電流が生じる原因は鉄芯飽和にあります。変圧器は、芯材の飽和曲線の屈折部より下 (つまり、図 1 のポイント A より下) で動作するように設計されています。ただし、飽和は実際に起こり、飽和が起こったときはインダクタンスが非常に低い値まで低下します。さらに、インピーダンスも一次回路の DC 抵抗にほぼ近いレベルまで低下します。(これはどのような可飽和リアクタンスにも当てはまります。)

 

鉄芯に残留磁気がないインダクタンスが電圧ピーク時に通電されると、電流の変化率 (di/dt) によって最大の逆起電力が発生し、図 2 の A に示すように磁束サージは見られません。それに対して、ゼロ時に電圧が印加された場合は、最小限の逆起電力しか発生せず、図 2 の B に示すように「磁束倍加」が起こります。この磁束倍加は電流サージの結果であり、数回の半周期の間持続する可能性があります。

 

鉄芯の残留磁気は、このサージ状態を悪化させます。磁化電圧が除去された後、ある程度の磁気が残るのは芯材の特性です。変圧器の一次電圧がゼロクロスオーバー時に、かつ増加する磁場が残留磁束を支えるような方向で再印加された場合は、2øm +ør の磁束が発生します (図 2 の C)。この磁束はもちろん完全にゼロからのオフセットであり、図 2 の F に示すヒステリシス曲線からわかるように、鉄芯は深い飽和状態にあります (D と E はそれぞれ条件 A と B のヒステリシス曲線を示します)。したがって、突入電流は正常時の数倍になり (図 2 の G を参照)、数回の半周期の間持続する可能性があります。

150 VA の変圧器では、120 ボルトの一次 DC 抵抗は約 1.5 オームで、500 VA の変圧器では、120 ボルトの一次抵抗は約 0.3 オームです。150 VA の変圧器の電流をスイッチングするには 5 アンペアのゼロクロスオーバー SSR があれば十分要は足りると考える人もいるかもしれません。しかし、鉄心飽和中には、一次巻線の突入電流は 80 アンペアに達します。

 

I = E over R = 120 over 1.5 = 80 amps.

 

500 VA の変圧器の場合は、10 アンペアの SSR で十分と思うかもしれませんが、鉄心飽和中の一次電流は 400 アンペアに達します。

 

I = E over R = 120 over .03 = 400 amps.

 

このような状況では、SSR に過剰な負荷がかかり、変圧器は過熱します。(この 400 アンペアのサージ中に一次回路で消費される電力は約 40 KVA です。)

図 1.

図 1.

図 2.

図 2.

図 3 と 4 は、変圧器の突入電流に対する 90o ターンオン SSR の効果を示します。図 3A では、変圧器の二次回路は開いており、一次回路はゼロ電圧付近でターンオンされています。最初の半周期で 200 アンペアの突入電流が発生しています (スコープ トレースは右から左へ読みます)。それに対して、同じ変圧器をピーク電圧でターンオンした場合 (図 3B)、突入電流は定常電流よりも 17% 高いだけです。つまり、突入電流は 7 アンペアになります。

図 3. 二次回路に負荷がかかっていない 150 VA 変圧器

図 3. 二次回路に負荷がかかっていない 150 VA 変圧器。上のトレースは一次電流、下のトレースは一次電圧 (120 VAC) です。(トレースは右から左へ読みます。)

図 4 は、同じ変圧器の二次回路を 250 オームの抵抗器に接続した場合のオシログラムを示します。図 3A と 4A の比較からわかるように、二次回路に負荷をかけても、一次回路の突入電流はほとんど変化していません。

 

図 3A と 4A に示すようなサージ電流は、ゼロクロスオーバー SSR に悪影響を及ぼします。

図 4. 二次回路が 250 オームの抵抗器 (240 VAC) に接続されている 150 VA 変圧器。

図 4. 二次回路が 250 オームの抵抗器 (240 VAC) に接続されている 150 VA 変圧器。上のトレースは一次電流、下のトレースは一次電圧 (120 VAC) です。

「ゼロクロスオーバー」SSRは、必ずしも正確にゼロ電圧でターンオンするわけではありません。回路が反応するまでにおそらく 1 ミリ秒以上はかかります。したがって、負荷電圧が 15 ~ 20 ボルトくらいになるまで、負荷スイッチは完全にオンにはなりません。この場合、サージ電流はそれほど高くなりませんが、それでも有害となる可能性があります。また、ランダム ターンオン SSR も時々、ゼロクロスオーバー時またはその付近でターンオンすることがあります。変圧器やその他の飽和し得る高誘導負荷をターンオンする最良の方法は、ピーク電圧ターンオン デバイスを使用することです。ピーク電圧時にターンオンすると、たとえ実際にサージが存在していても、サージを最小限に抑えることができます。

 

ゼロクロスオーバー SSR は、抵抗負荷、容量性負荷、およびわずかに誘導性の負荷に対しては優れたスイッチです。しかし、そうであっても突入電流を考慮に入れる必要があります。つまり、白熱電球では、定常の「熱いフィラメント」の電流より 10 ~ 20 倍高い「冷えたフィラメント」の突入電流が生じる可能性があります。モータでは、その駆動電流より 6 倍高い「拘束」電流が生じる可能性があります。さらに、コンデンサの突入電流、または大きな浮遊容量が存在する回路の突入電流を抑制する手段は、回路の DC 抵抗だけです。

参考文献

1.“Alternating Current Machines,” Halsted Press, John Wiley & Son, “Inductively Loaded SSRs Control Turn-On to Eliminate First-Cycle Surges,” Electronic Design, March 15, 1979. “Controlling Transformer Inrush Currents,” EDN, July, 1966. “The Great Zero Cross-over Hoax,” NARM Proceedings, May, 1974.