コネクテッドホームにおける、バッテリー電力への依存度を低減

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長寿命、低コスト

ワイヤレス給電の新しいアイディアにより、コネクテッドホーム用機器のバッテリー使用依存度が低減可能に。著者: Building Automation 社 Global Industry Manager、Ronald M. Weber 氏

電力。 日常使用しているあらゆる革新的な電子機器も、電力がなければシリコン・プラスチック・金属で作られた、役に立たないただの物体にすぎません。モノのインターネット (IoT) に関わる最近の革新的製品であっても、例外ではありません。腕時計型のフィットネス モニタでも、ネットワークに接続された電子ドア ロックでも、産業機械に組み込まれた超音波センサでも、ネットワーク接続されたあらゆるデバイスは電力によって動作し、外部に接続されています。IoT が私たちの生活に浸透するにつれ、電力管理と電力供給の難易度は上がる一方です。ほんのわずかのエネルギーで動作するマイクロプロセッサや、電力をマイクロワット単位でしか消費しない電子部品の開発が大きく進歩したとはいえ、それでも電力は必要です。IoT 対応デバイスは定期的にスリープ モードに移行して、ようやく計測できる程度の電力しか消費しない状態になります、それでも電力は必要です。 

ネットワークに接続されたあらゆるデバイスは、電力を使用して動作し、外部ネットワークに接続されています。

最近の技術的進歩にも関わらず、永久に使える電源を開発した人は誰もいません。したがって、電力供給こそが設計者にとって最も大きな課題であると言えます。 たとえば産業機械や処理装置、あるいは最新の住宅用煙探知機など、便利な外部電源がすぐに利用できる場合であれば、セパレート コネクタやクイック コネクト型のPoke-In 結線などを使用して、電源とデバイスを接続するだけで済みます。電源が利用できない場合、設計者はバッテリーから電力をとるか、太陽光電池や小型発電機などの環境発電デバイスの使用を余儀なくされます。 

ワイヤレスの電子機器においては今でもなお、バッテリーが事実上の標準電力です。 これらのバッテリー給電型デバイスは私たちの生活に満ち溢れており、日々の生活においてネットワーク機器が増えていくにつれ、さらに存在感を増していくでしょう。これらを設計する製品設計者が直面する課題も、これにともなって大きくなるでしょう。設計者は、電力を必要なだけ供給するためのバッテリーのサイズと、予想される寿命とのバランスを考える必要があります。これは容易なことでも些末なことでもありませんが、IoT の設計者は、電力源のサイズを安定した形で確定でき、多様なサイズの組み込みオプションを選択できるようになります。コイン型の小さな LR1154 電池や単三電池など、世界中で入手でき、かつサイズが標準化されているものであれば、あらゆる消費者が使用・交換できることを意味します。どのバッテリーを選んだとしても、設計者は組立・試験・バッテリー交換の簡略化に役立つ、様々なコネクタを選択できます。

新しい電力供給方法が開発されて広く採用されない限り、ホーム オートメーション機器の普及と平行する形で、コネクテッドホームに必要なバッテリーの数は増加の一途をたどることになるでしょう。

一般家庭で使われている装置を一通り見れば、バッテリー給電がどれほど普及しているかが分かるでしょう。 携帯電話などの用途では、1 日の終わりに電源につなぎ、バッテリーを満充電するという作業もごく当たり前のものとなりました。通常は単三電池 2 本で給電されるリモコンが付属していないテレビなど、いまどき想像もつきません。懐中電灯からゲーム コントローラに至るまで、あらゆる装置でバッテリーが必要なのです。家屋の安全を保つ煙探知機のように、バッテリー寿命が重要な意味を持つデバイスは、バッテリーの寿命間際になると、耳障りな警告音を立ててバッテリーの交換を促してきます。つまり、どの家庭でもこれらのデバイス用に交換用バッテリーの買い置きがあるはずですが、本当に必要なときにどうしても見つからないのが世の常です。新しい電力供給方法が開発されて広く採用されない限り、ホーム オートメーション機器の普及と平行する形で、コネクテッドホームに必要なバッテリーの数は増加の一途をたどることになるでしょう。

新しいデバイスの大部分がワイヤレスに。 壁に取り付けた小型センサから、ワイヤレス スイッチ、電子ドア ロックの非接触キーに至るまで、ワイヤレス機器は多岐にわたります。スイッチや非接触キーなどの用途では電池寿命が非常に長く、コイン型のリチウム バッテリーで 5 年以上もつものもあります。電子錠や遠隔操作弁などの高電流機器用途の場合、実際の電池寿命は年単位ではなく月単位になります。現実性と美的な観点から考えれば、後者の用途に耐えるバッテリーの種類や量はごく限られたものになります。ドア ロックの場合、約 5 年という長寿命になるとしても、大きな単一電池を使ったドア ロックなど誰も買いたがらないでしょう。したがって設計者は、現実的なデザイン上の観点と満足のいく電池寿命とのバランスを考える必要があります。その結果、通常は寿命がせいぜい 1 年程度の単三電池を 4 ~ 8 本使用することになるでしょう。バッテリーを取り出す際にドア ロックを分解する手間がかかったとしても、年に 1 回程度であれば、ドア ロックの電池交換にもあまり腹は立たないはずです。ユーザーは煙探知機のバッテリーを毎年交換するのに慣れているので、それに加えてドア ロックの電池を交換することぐらいは、さほど苦にならないでしょう。ただし、話はこれで終わりではありません。個人の所有する住宅ではなく、何百もの世帯を擁する高層アパートの管理人や、何千室にも及ぶ各部屋に電子ロックを備えた大学学生寮の管理人の場合、一体どうなることか想像してみてください。このようなケースでは、電子ロックのバッテリーを交換するという簡単な作業が、突如としてコストと手間のかかる非常に大変な作業になります。

電子ロックに話を戻すと、バッテリーを完全になくすか、バッテリーサイズを最小限に抑えることによって、用途が大きく広がる可能性があります。 ロックセット本体に大きな電池ケースを組み込む必要がなくなるため、電子ロックをかなり小型化することができ、より見た目のよいデザインが生まれることでしょう。各戸に電子ロックを備えた 1000 戸の共同住宅で 1 年ごとに電池を交換する場合、電子ロックを10 年間維持するための費用は 50,000 ドルにもなります。ですから、電子ロックのバッテリー交換という問題を解決できれば、大幅なコスト削減につながります。課題は、電子ドア ロックの基本設計コンセプトに潜んでいます。一般家庭にある電子キーやセンサ モジュールと同様、わずかな消費電力で駆動する電子回路を実現することは可能です。小型モータやソレノイドは、ロックを動作させる際に相当の電流を必要とするため、バッテリーを消費する最大の要因となっています。

パワー ドア ロック

これらのドア ロックは、起動時とドアが閉じている間にだけ比較的高い電力を消費します。 ここにこそ、バッテリーを完全に不要なものとするための新たな技術を利用するチャンスがあります。そこで活躍するのが、近傍電力伝送技術です。この技術は、携帯電話やウェアラブル デバイスの充電に使用されているソリューションなど、現在市場に出回っている家電製品に利用されています。

 

電子ロックに実装する場合は、ドア枠に小型の電力送信機を埋め込み、これをインターホン変圧器などの低圧 DC 電源に配線します。同様に、電力受信機と調整回路もドアの縁に埋め込むことによって、ドアが閉まったときに送信機と受信機がドア枠の隙間を隔てて並び、最大 5W の電力がワイヤレスで送信されます。これは大部分のドアのニーズに十分応えられる電力量で、停電時に備えて電子ロックのバックアップ用小型バッテリーを満充電にしておくことも可能です。

コネクテッドホームの自動化を進めるにあたって、設計者は、使用できるあらゆる給電手段を考慮する必要があります。
コネクテッドホームの自動化を進めるにあたって、設計者は、使用できるあらゆる給電手段を考慮する必要があります。

ワイヤレス給電技術を利用して電子ロックへの電力供給を行うことは、ライフ サイクル コストという観点にとどまらず、より重要であると言える環境的側面から見ても、意義のあることです。 世界中ですでに設置されている電子ドア ロックの数と、今後 10 年間の増加予測についての業界統計を見ると、驚くべき数字が浮かび上がってきます。電子ロック 1 つにつき、毎年 4 個のバッテリーを交換すると、今後 10 年間で 50 万トン (11 億ポンド) 以上の単 3 電池が、埋立地に捨てられることになります。これは、ニミッツ級空母 5 隻分、または普通自動車 287,500 台分の重量に相当します。これが驚異的な量であることに異論はないでしょう。また、これらのバッテリーを製造することによる環境面への影響も考えれば、重大な懸念になります。電子ロックにワイヤレス給電を装備すれば、使い捨てバッテリーを使用する必要もなくなり、経済的にも環境的にも大きな利点となります。ホーム オートメーションやビルディング オートメーションの推進にあたって、家庭用ネットワーク機器の設計者は、電力供給方法のあらゆるオプションを考慮する必要があります。必ずしも設計上の最善手とは言えないかもしれませんが、設計者は、安易にバッテリー給電を採用する前に、設計の初期段階から代替的給電手段について慎重に考慮していく必要があります。こうすることで、長寿命で簡単かつ安価にメンテナンスでき、便利さも向上した、より良い製品がもたらされることでしょう。結局のところ、誰だって、貨物船 1 杯の電池を自分の裏庭に捨てられたくはないのです。