マイクロ D および D-Sub コネクタ用の宇宙グレードのバックシェル

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マイクロ D および D-Sub コネクタ用の宇宙グレードのバックシェル

宇宙用途向けのバックシェルを選択するときは、過酷な条件に耐えるために必要な性能特性として、ストレイン リリーフと EMI/RFI シールドに目を向ける必要があります。

適切なバックシェルの特定

設計者がコネクタ対ワイヤおよびコネクタ対ケーブル端子を保護するバックシェルの機能を評価する際に、複数の課題に対応できる高品質かつ経済的なソリューションを検討することには価値があります。バックシェルによって実現する主な機能として、シェル背面 (端子とワイヤまたはケーブルの接合部) のストレイン リリーフ、電磁障害 (EMI) シールド、環境保護が挙げられます。

 

アルミニウム合金または熱可塑性複合バックシェルの素材特性には、堅牢、軽量、精度の高い嵌合といった機能が備わっていなければなりません。物理的性能には、衝撃、振動、温度、腐食への耐性が含まれている必要があります。こういった課題に対応することは、電子システムが超音速や高い重力加速度 (g 力) にさらされる場合に特に重要です。

 

宇宙船用途の TE Connectivity (TE) の Micro D バックシェルと D-Sub ミニチュア バックシェルでは、品質と手頃な値段が重要視される、機能、素材、性能の要求に応えています。

TE の POLAMCO 角形バックシェルは、非常に厳しい環境で使用できるように設計されています。
TE の POLAMCO 角形バックシェルは、非常に厳しい環境で使用できるように設計されています。

D-Sub および マイクロ D コネクタ バックシェルを使用する際の主な機能的課題への対応

D 型コネクタの進化は、1950 年代に開発された D-Sub ミニチュア (D-Sub) コネクタから始まり、1970 年代初期に発売されたよりコンパクトなマイクロミニチュア D (Micro-D) 設計を経て、宇宙グレード用途の高度な角形バックシェル技術を活用した、現在の高性能な D-Sub およびマイクロ D バージョンに至ります。

 

現在、ラックおよびパネル コネクタでは、MIL-DTL-24308 準拠した嵌合に高度に専門化した TE D-Sub バックシェルを、MIL-DTL-83513 に準拠した嵌合にコンパクトな角形のサイズ形状のマイクロ D バックシェルを活用しています。標準的な丸型設計と同様に、角形バックシェルにより、主な機能的利点を提供しています。以下のような利点が挙げられます。

ストレイン リリーフの組み込み

ストレイン リリーフはケーブルとワイヤに対応して、過度な曲げや屈曲を防ぎます。お客様の好みや試験要件に応じて、熱収縮ブーツ、ケーブル クランプ、タイ ポストを使用することで実現します。ケーブル クランプにより、ワイヤが端子から引っ張られ、結線に対する一般的な機械的損傷を防ぎます。施行を簡素化するために、サドル バー ケーブル クランプがバックシェルに組み込まれています。ただし、ストレイン リリーフ バックシェルによってEMI または環境保護が提供されることはありません。また、ストレイン リリーフ バックシェルを使用できるのは、汚れのない乾燥した環境のみです。

電磁障害 (EMI) の防止

無線周波数スペクトルの場合には無線周波数干渉 (RFI) としても知られる EMI は、電磁誘導、静電結合または静電感応によって電気回路に影響を及ぼします。バックシェルに結線処理された、適切に接地した編組シールドまたはスクリーンを電磁障害適合性 (EMC) シールドに採用すると、EMI の影響を回避できます。シールドまたはスクリーンを安全に取り付けるために、標準バンドまたはマイクロバンドを使用できます。

 

部品の完全性を保つ別の手段として、以下のような方法があります。

外部汚染物質からの保護

バックシェルを環境から保護するために、熱収縮ブーツでアセンブリ全体を密閉する必要があります。ブーツ自体もポッティング樹脂や接着剤で適切に密閉することで、水や他の液体が配線に侵入するのを避けることができます。別のソリューションとして、スタンドアロン デバイスとして使用されるコネクタの後部に保護カバーを装着することも挙げられます。

システムの接地

シールドをバックシェルに結成処理することで、システムが接地されます。最も基本的なケーブル シールド接続には、ケーブル シールドの円周全体をバックシェルに接続することが含まれます。それから筺体に接続し、最終的に機体に接続することで、グランド ループを回避しつつクローズド システムを確立できます。バックシェルを接地に利用することは、ピンを使用した接地が許可されていない状況で特に有益です。

宇宙グレード バックシェルの材料面における課題への対応

宇宙用途のバックシェルには、専用の材料による処理と正確に嵌合されたインタフェースが必要です。金属バックシェルでは、異種金属間の電解腐食を防ぐために、ベースとめっきに同じ材料を使用する必要があります。熱可塑性複合バックシェルの場合、非金属物質は腐食せず、金属と比較して軽量であり、過酷な環境において優れた耐性を示します。

 

 

どちらの素材のバックシェルも、はんだカップ入りの事前配線済みプリント基板 (PCB) バージョンでご用意しています。

 

  • アルミニウム バックシェルは、軽量かつ堅牢な機械加工されたアルミニウム合金で作られており、ステンレス鋼アクセサリ金具が採用されています。通常、めっきは無電解ニッケルで行われ、非環境用途に最適な、低抵抗かつ導電性を持つ仕上げになっています。金めっきでは、宇宙での腐食および放射性に対する優れた耐久性が実現します。カドミウムめっきは真空状態で昇華するため、ガス放出が懸念事項となる用途では利用できません。
  • 熱可塑性複合バックシェルは、相互接続システムの重量を著しく軽量化し、金属よりも SO2 酸性霧を適切に処理できる、耐薬品性熱可塑性複合素材から作られています。コンポジット ハウジングは EMI に対して透過的であるため、EMI シールドには無電解ニッケルめっきが使用されています。

 

 

正確な嵌合により、ペア間の口径での瞬断を排除することで、相互接続における電気的な完全性を確保します。精密加工されたバックシェルによって、インタフェース同士を正確に嵌合できるだけでなく、強力な嵌合保持力が生み出されます。結線処理済みワイヤに簡単に取り付けられるように、分割シェル バックシェルは強磁性体クリップ部品がなくてもコネクタに適合するようになっており、コネクタを接続するねじロックが採用されています。(対照的に、一体型バックシェルの場合、ワイヤ対コネクタ結線処理を完了する前にワイヤ束に取り付ける必要があります。)バンド ストラップ用プラットフォームを必要とするバックシェルでは、幅の狭い、省スペースなバンド幅の薄型マイクロバンドを使用しています。

バックシェルを使用したコネクタ ペアの嵌合
バックシェルを使用したコネクタ ペアの嵌合

宇宙グレード バックシェルの性能面における課題への対応

相互接続搭乗宇宙船で使用されるバックシェルは、発射、飛行、軌道周回時に、重要な性能特性が求められる過酷な状況にさらされます。

耐衝撃性と耐振動性

激しい揺れや極度の g 力が発生した際に応力とひずみを抑えることにより、バックシェルの特殊な機能は電気導通を維持するうえで重要な役割を果たします。TE の D-Sub および マイクロ D バックシェルの機能は、汎用的な仕様ではなく、用途に応じた、お客様の要件を満たすように設計されています。

 

成功のためのヒント: EMI シールドが必要な場合、設計者はマイクロバンド結線処理を使用して必要を満たせるほか、振動や衝撃によって予期せず外れることを防ぐための措置を講じることができます。バンドに取り付けられたセルフカップリングのロック ナットにより、振動時の緩みに対する機械的保護が改善されています。

 

バンド バックシェルにタイ ポストを組み込むことにより、ライト デューティー ストレイン リリーフを実現できます。通常、ワイヤは所定の位置に絶縁封入されており、シールド編組によってストレイン リリーフが十分に確保されているため、バンド マイクロ D バックシェルではタイ ポストはオプションになっています。コネクタ後部の隙間を埋めるために使用されているエポキシ樹脂やその他の材料が固体として硬化し、ハウジング内の端子を支える保持力がいくらか提供されるため、絶縁封入自体もある程度のストレイン リリーフとして機能します。

 

ケーブル導入口も振動の影響を受けやすくなっています。丸型ケーブル導入口と比較して、端子の角度を抑えることで、摩耗箇所を最小限に抑えるために、楕円形状のケーブル導入口を採用できます。ただし、半径が大きくなると編組が抜けやすくなる傾向があるため、楕円形上のケーブル導入口のバンド周辺にかかる不均一な力によって問題が生じます。適切に処理することで、この問題を軽減できますが、高振動の環境ではこのタイプの導入口は推奨されていません。

許容温度

ピーク温度が非常に高いか、トラフが低いか、高温と低温を循環しているかにかかわりなく、極端な熱さや寒さは、金属、ガラス、ポリマーといった素材にストレスを与え、亀裂や疲労の原因となります。また、熱膨張の係数が異なることにより、アセンブリにひずみが生じ、密閉が破損する可能性もあります。

 

一般的に TE のバックシェルは、-55°C ~ +125°C の温度循環試験 MIL-STD-883 の認証を受けています。ただし、宇宙空間の低温と高温エレクトロニクスに対応するために、専用の材料とめっきをご用意しています (図 1)。

図 1 – さまざまなバックシェルめっきの温度範囲。
図 1 – さまざまなバックシェルめっきの温度範囲。

ガス放出制御

コネクタ インサート、密閉、接着材、ポッティング材料に使用されるポリマーなどの非金属材料内に溜まったガスが真空空間や高温状態で放出されると、ガス放出が発生します。放出されたガスは、感度の高い表面で凝結したリ、汚染を生じさせたりする場合があり、最終的に衛星、熱放射、太陽光発電セルでの電荷結合素子 (CCD) センサの性能を低下させます。

 

NASA ASTM E595-77/84/90 試験および MIL-W-22759 (M22759) | SAE AS22759 仕様は高温または真空状態にさらされた際の素材の性能を網羅しています。低ガス放出性材料と見なされる素材は、質量損失比 1.00% 以下および再凝縮物質量比 (CVCM) 0.10% 以下の要件を満たしています。

 

成功のためのヒント: 宇宙グレードのマイクロ D コネクタおよびバックシェルは、真空環境における素材のガス放出の要件 MIL-DTL-83513 を満たしている必要があります。

紫外線に対する耐性

宇宙空間では、X 線、ガンマ線、宇宙線の影響から材料を保護する大気がありません。紫外線 (UV) による劣化は、電子部品の素材特性に悪影響をもたらし、さらには素材の分子組成を変えてしまう場合もあります。この現象は、酸素含有物質から酸素原子を取り除くことによって発生します。その結果、熱制御サブシステムが適切に機能しなくなり、光が低下して、ソーラー アレイの効率性が落ちる可能性があります。

 

高度 200 km から 700 km の間の低高度地球軌道 (LEO) では、大気圏の端に残っている O2 分子の赤外線励起によって 1 価酸素が形成されます。こういった非常に劣悪な 1 価酸素分子によってアルミニウムやプラスチックが浸食されて、原子状酸素 (ATOX) による腐食が発生します。ソリューションの 1 つは、宇宙グレードのポリマー、熱可塑性複合材、ガラス (光ファイバ) などの腐食する可能性が低い素材を採用することです。

 

めっきとコーティングに合金を使用することで、電解セルの形成を回避することができます。通常、金は耐酸化性が備わった貴金属であるため、金めっきは ATOX 腐食に対する耐性があります。SiO2 はすでに完全に酸化しているため、二酸化ケイ素コーティングによりポリマーを ATOX 腐食から保護できます。さらに一般的な方法として、LEO 衛星の電子システムに特殊な UV シールドを利用することで、UV による劣化を最低限に抑え、構成部品を保護できます。

さらなる機能で宇宙グレードの相互接続を支援

現代においては、構成部品およびパッケージのサイズと重量を減らさなければならないため、宇宙用途における相互接続の課題は拡大し続けています。TE は、NASA や軍用規格に準拠した広範な製品と、併せてコネクタ、ケーブル、完全なハーネス機能を提供することで、航空宇宙分野におけるデータ、動画、光通信、制御通信のニーズのほとんどに対応できるように支援しています。

 

TE が提供する宇宙グレードのバックシェルは、嵌合の精度を維持しつつ、非常に厳しい条件に対する耐性が備わるように設計されています。どのような課題であるかにかかわらず、当社の技術的専門知識、設計エンジニアリング、製造能力にお任せください。発射から迎撃または展開に至るまで、お客様のミッションを支援します。 

主なポイント

  • どのようなミッションであっても、宇宙用途に適切なバックシェルを選ぶことが成功には欠かせません。
  • 主な機能的課題には、ストレイン リリーフ、電磁障害 (EMI)、環境刺激物の密封、システムの適切な接地の実現が含まれています。
  • 宇宙用途のバックシェルに使用される素材には、耐腐食性があり、過酷な環境に対する耐性が備わっている必要があります。
  • 性能面での課題をもたらす過酷な条件のいくつかとして、衝撃、振動、過酷な温度、温度変化、ガス放出、地球の大気圏外の激しい光線への曝露が挙げられます。
  • 宇宙用途の相互接続の未来を見据えて、部品のサイズと重量を最適化しておく必要があります。