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次世代のヘビーデューティー車両の実現
TE のヘビーデューティー車両用 Ethernet コネクタの設計においてどのような点が考慮されているかをご覧ください。
著者
Joachim Barth (TE Connectivity、データ コネクティビティ、製品開発、マネージャ)、Christian Manko (TE Connectivity、データ コネクティビティ担当プロダクト マネージャ)
産業車両および商用車を取り巻く変化に対応する Ethernet 接続
ヘビーデューティー車両メーカーは、より安全で環境に優しく、より生産性の高い車両に向けて目まぐるしく変化する規制や顧客需要に後れを取らないよう、懸命に努力しています。そして、従来の CAN バス ネットワークではもはや先端機能に不可欠となるデータ接続の増加には対処できないという事実に気づき始めています。高度な機能に対する需要やデータへのニーズが増大の一途をたどるにつれ、ヘビーデューティー車両の設計者にとっては、100 Mbps (100BASE-T1) や 1 Gbps (1000BASE-T1) のシングルペア Ethernet プロトコルの重要性が高まっています。
建機農機、商用車および 2 輪のメーカーがこのプロトコルを扱うようになったのは比較的最近のことで、この市場を想定した Ethernet コンポーネント専用の製品開発はまだ限られています。その一方で、同業界は、2005 年以降乗用車に Ethernet の導入が進んだことから恩恵を受けています。ヘビーデューティー車両の設計者は、自動車業界向けの Ethernet コネクタと、建設、鉱業、農業などの産業・商業分野の現場に見られる過酷な環境に耐えるよう開発された Ethernet コネクタをどちらも使用することができます。
車載用 Ethernet を応用する
乗用車向けの Ethernet 技術を商用車用途に使用する
産業車両および商用車の設計者は、車載の接続システムおよびネットワークのアップグレードに意識を向けていますが、高速データ用途の多くは、過去数年間に自動車業界で開発されてきたコネクタ技術を流用して設計できます。
乗用車や軽量トラックの設計者は、診断や車載インフォテインメント、リア/サイド ビュー カメラ システム、適応走行制御といった機能を実現する目的で、Ethernet ネットワークやコンポーネントを利用してきました。Ethernet を使用することで、帯域幅を拡張し、増大し続ける大容量データのニーズにも応えることができます。先進運転支援システム (ADAS) などの自動機能が普及し、さらにはレーダーやライダー、その他センサを必要とする完全自律走行に向かう流れの中で、現在、そして将来のデータ接続ニーズに対処できるよう、Ethernet ネットワークを採り入れることが設計者の急務となっています。
ヘビーデューティー車両の設計者は、物理的障害や極端な衝撃にさらされることのない車室内のような場所であれば、車載用 Ethernet コネクタを使用できます。そのような場所では、頑丈なコネクタや長いケーブルは必要ありません。この方法は、コスト管理や省スペース、軽量化にも役立ちます。
たとえば、当社の MATEnet コネクタは元来、IEEE 車載 Ethernet ネットワーキング用に開発されました。MATEnet コネクタは拡張可能なモジュール型で、マルチポート用途や防水/シールド用途などのさまざまな構成で使用できます。ADAS センサ、360° カメラ システム、テレマティックス ユニット、オンボード診断、ダッシュボードのインフォテインメント アプリケーションなど、中容量~大容量のデータや低レイテンシを必要とする用途に適しています。MATEnet コネクタは IEEE 100BASE-T1/1000BASE-T1 に準拠しており、最大 100 Mbps から 1 Gbps までのデータ伝送速度に対応しています。また、これらのコネクタはシールド/非シールドのツイストペア ケーブルで使用できます。MATEnet 相互接続は、実績ある NanoMQS 端子を基盤としています。これは自動車グレードの小型端子であり、振動に対して特に高い堅牢性を備えています。
TE のような企業が、開発の初期段階においてメーカーにとって大きな役割を果たすことができるのも、車載 Ethernet 用途に関して 10 年以上にわたって培った経験と、センサや建機農機、商用車および 2 輪の分野におけるエンジニアリングの専門知識があればこそです。TE のエンジニアと製品エキスパートは協力して OEM 設計者をサポートし、顧客が要求する高度な機能向けに高速データ処理を実現できます。必要な場所にのみ Ethernet を使用し、車載 Ethernet コネクタを適所に配置して、重量、空間、コストを最適化しながら車両アーキテクチャの構築を手助けしています。
Ethernet 製品を開発する
ヘビーデューティー車両向け Ethernet 製品の開発における留意事項
産業車両および商用車が直面する環境や課題は、乗用車や軽量トラックと比較してはるかに過酷です。これに加えて、サイズの違いだけを取っても、Ethernet 用途で信号の完全性を実現するには、数多くの難問が待ち受けています。乗用車では、Ethernet 信号を伝達できなければならない最大距離は 15 m です。オンハイウェイ トラック、建設車両、採掘車などのヘビーデューティー車両の場合は、過酷な条件に耐えながら、乗用車を上回る最大 40 m の距離まで信号の完全性を維持できなくてはなりません。
乗用車において、安全確認用のリアルタイムのビューや自動機能を提供するセンサやカメラ システムは通常、障害物が少なく、同じようなパターンや路面状態が続く路上で動作すれば事足ります。建設用や農業用車両の場合、こうしたシステムにはより高い識別能力が必要になります。たとえば、データの表示、検知、伝送により、路面にある物体が棒、ロープ、鋼製のパイプ、ケーブルのいずれであるかを識別し、踏み越えても害がないか、安全上のリスクになったり、車両故障の原因となったりするおそれがないかを判別できる必要があります。このようなケースでは、高感度のカメラやセンサ、あるいはマルチスペクトル センサが必要になります。こうした高度な機能を実現するには、1 Gbps Ethernet が欠かせません。
こうしたヘビーデューティー車両用のセンサ、ケーブル、Ethernet コネクタは、シャーシ内外の過酷な環境にも十分耐えられるように、堅牢さと頑丈さを備えている必要があります。また、ほこり、泥、湿気、極端な温度、激しい振動に耐えるよう設計する必要もあります。現場での修理が可能であれば、申し分ありません。
製品開発にあたって、設計の開始段階から一貫して機能的安全性を考慮に入れることを、設計者にとっての大前提に据える必要があります。自動化によって、車両に搭載された基本的な操縦機能や自動機能の多くが安全性に関連するものとなり、その結果、運転者やその他の現場作業員、高速道路を走行する他の車両や軽量トラックに対するリスクは低減されています。システム故障の可能性を最小限に抑え、万が一故障が発生した場合も、システムは車両が適切に反応できる状態を維持できるようでなくてはなりません。メーカーの設計、品質管理、開発プロセスは、安全に関するこうした留意事項を最優先に据えたものとする必要があります。
これらの難問を解決することにより、メーカーは顧客の競争力を高めることができます。つまり、顧客は新しい Ethernet ネットワークやコネクタを使用することで、より多くのデバイスをネットワークにシームレスに統合し、車両内のデータ接続を高速化することができ、それによってエンドユーザーの安全性や生産性が大幅に向上します。
過酷な環境向けの新しい Ethernet コネクタ
現在、産業車両および商用車向けの堅牢な Ethernet コネクタには 2 つのカテゴリがあります。最高 100 Mbps でデータ伝送を行う用途向けのものと、最高 1 Gbps でのデータ伝送が必要な用途向けのものです。場合によっては、産業車両および商用車業界向けに設計された Ethernet コネクタが、自動車用コネクタをベースにしていることもあれば、元々乗用車に使われていたシリーズを拡張したものであることもあります。
TE では、自動車用 MCON 端子をより堅牢なハウジングと組み合わせ、100BASE-T1 仕様に適合するよう設計をアップグレードして、「enetSEAL+」と呼ばれる新しい防水型イーサネット コネクタを開発しました。この新世代の enetSEAL+ コネクタは、最高 100 Mbps までのデータ接続に対応可能で、多機能ディスプレイ、テレマティックス、テレメトリ ユニット、インフォテインメント モジュール、メディア アクセス コントローラなどの用途向けに堅牢な全二重電線対電線接続を提供します。外部カメラとセンシング モジュールを接続すれば、Ethernet 差動信号伝達通信プロトコルを利用して、オペレータによる状況認識の向上や安全性を向上させることも可能です。ヘビーデューティー車両市場にとっては、防水型 enetSEAL+ コネクタも現場での修理が可能である点は重要なポイントです。
その他の特長:
- 最適で高品質な設計によって、製造コストとサービス コストを削減
- IP67 および IP69 (バックシェル付属の場合) 等級に準拠した、防水および防塵性能
- より高い信頼性を実現する多接点技術
- 二次ロック機能を内蔵し、端子保持を確保
- パススルーや ECU 用途に対応した 2 種類のコーディングと複数のパネル厚により、モジュールとして使用可能。OEM では既存のハーネス メーカのサプライ チェーンを活用可能。
当社の MATEnet インサート付きヘビーデューティー防水型コネクタ シリーズは、過酷な環境下での使用に耐える堅牢な熱可塑性樹脂コネクタで、最大 1 Gbps のデータ伝送能力があります。TE が提供する MATEnet 相互接続システムに対応し、電線対電線接続や電線対デバイス接続を提供します。極めて過酷な環境で動作するよう設計されており、ヘビーデューティー車両の設計者は、非シールドまたはシールド ツイストペア ケーブルを使用することで複数のハイブリッド インタフェースや拡張性を柔軟に実装できます。
当社の MATEnet インサート付きヘビーデューティー防水型コネクタ シリーズの利点:
- 長期使用の信頼性を改善し、製造コストとサービス コストを削減できるよう最適化
- 端子保持を確保する二次ロック機能による確実な接続
- 事前ロック位置で提供される信頼性の高いスライド ロック機構により、確実な取り扱いと低い挿入力を実現
- 電線対電線および電線対基板に対応したモジュール用途を念頭に設計されており、インライン、防水フランジ、PCB マウントの各取り付けオプションに対応
- IP67 および IP69 (バックシェル付属の場合) 等級に準拠した、防水および防塵性能
どちらのソリューションも、レーダー、ライダー、カメラ、テレマティックス ユニット、オンボード診断、ヘッドアップ ディスプレイ、計器類、インフォテインメント アプリケーション、Ethernet アーキテクチャなど、ほとんどすべての過酷な環境用途に対応できます。
エキスパートが掲げる設計目標
設計の初期段階で Ethernet 通信の専門家の意見を取り入れる
設計における目標到達点は、常に技術トレンドよりも先を行くこと。特に、寿命の長い車両を設計する場合はなおさらです。市場での競争力を維持し、自動化のトレンドや機能性を先取りして、安全性、生産性、持続可能性に対する顧客の需要を満たすためにも、設計者やメーカーは最新の設計に Ethernet を取り入れ、現在、そして今後も増大するデータ接続要件に対応していく必要があります。建機農機、商用車および 2 輪の分野において、Ethernet は比較的新しい技術であるため、Ethernet やその他の自動車、トラック、ヘビーデューティー車両業界で使用されている通信プロトコルについて設計する際は、早い段階でエンジニアやプロダクト マネージャの意見を聞いておくことが重要になります。
TE は、自動車、建機農機、商用車および 2 輪、データ通信といった業界における用途やシステムについて豊富な専門知識を持っています。TE のエンジニアや製品エキスパートは、顧客と緊密に協力して、過酷な条件でも信号の完全性を維持しながら従来よりも強力なセンシングおよびコンピューティング能力を要求する高度な機能を設計するために必要なトポロジとテクノロジについてアドバイスを提供しています。当社はこの市場の定評あるリーダーとして、高速データにおける経験や実績、過酷な環境における信頼性を存分に活かし、Ethernet による堅牢な車載ネットワークを可能にするうえで欠かすことのできない端子、コネクタ、ケーブルを設計および製造しています。
当社のコネクテッド カー向けソリューションの詳細を知る
自動運転
Ethernet ソリューション
商用車および産業車両の自動運転を可能にするコネクティビティ要件の詳細をご覧ください。
データ接続
ヘビーデューティー車両向けソリューション
産業車両と商用車および機械業界では、将来の顧客ニーズに対応するために、Ethernet システムを取り入れた設計を検討する必要があります。その理由をご覧ください。
コネクテッド カー
過酷な環境の要件
高速なデータ伝送を可能にするためには、車両設計の初期段階で、コンポーネント、コンポーネントの配置、環境条件による影響について検討する必要があります。その理由をご覧ください。
『ATZheavy duty worldwide』誌より引用