路上の電気自動車

ホワイト ペーパー:
BCON+ 高電圧接続システム

駆動用バッテリ用のタッチセーフなボルト式結線。

執筆:

Alexander Ginsburg、TE Connectivity
Frank Kaehny、TE Connectivity
Uwe Hauck、TE Connectivity

TE の新しい BCON+ 高電圧接続システム は、駆動用バッテリ内の相互接続セル モジュール、およびバッテリ外部の高電圧接続ポイントで機能する、多様性、小型性、堅牢性を兼ね備えたタッチセーフ ソリューションです。BCON+ 接続システムは、鋼対鋼のボルト式単線結線による利点に、接触抵抗のきわめて低い銅製端子部品を組み合わせたシステムです。嵌合状態、非嵌合状態のどちらでもタッチセーフのシステムであり、使用可能な多数の導体とケーブル断面を柔軟に相互接続します。 

 

最新のウェビナー:

タッチセーフの高電圧バッテリ接続ソリューション

この 1 時間のウェビナーでは、TE の Alexander Ginsburg が SAE とともに、バッテリ パック コネクティビティのソリューションについて解説しています。録画版ウェビナーを今すぐご覧ください。

  1. 次世代モビリティ高電圧コネクティビティ ソリューション (英語)

充電ポイントからバッテリ、電気モータまで、TE Connectivity は次世代の持続可能なモビリティ向けのエンドツーエンド高電圧コネクティビティ ソリューションを提供します。

炭素排出量の低減を求める圧力が強まり続ける中、多くの自動車に電動推進システムが搭載されるようになりました。電気エネルギーの主要な供給源はバッテリですが、水素燃料電池駆動自動車では、バッテリはピーク負荷時のバッファとして機能します。したがって、バッテリはパワートレインの電化において中核的な役割を果たします。こうした用途で使用されるバッテリを構成する個々のセルは、モジュールとしてグループ化されます。車両のあらゆる動作モードにおいて、エネルギーはバッテリの内外を安全に流れる必要があります。このため、モジュール接続には、ハイパワー充電サイクル中であれば数分間に最大 600 Amp の電流を維持できる能力が求められますが、わずか数秒間のダイナミック駆動モードでは、さらにその数倍の電流を維持する必要があります。 

 

また、バッテリ モジュール接続はバッテリ保護 (過熱時のシャットダウン)、バッテリ管理 (SoC などの充電状態)、セルバランス (さまざまな SoC レベルでのセル間の充電電圧等化) を行う物理層を形成します。これらの機能が確実に行われるように、個々のすべてのトランスミッション バッテリ モジュールに、障害を起こすことのない電気接続を実装しなければなりません。これには、高度に統合されたコンタクト システムが必要になります。このコンタクト システムは、車両の耐用年数全体 (通常は 10 年以上で 300,000 km/186,500 マイル) で完全な機能性を維持できるだけでは不十分で、さらに振動負荷や温度負荷により、コンタクト部分の機械的および電気的特性に極度の影響が及ぶことを防止できるだけの堅牢性が求められます。乗用車であっても商用車であっても、高電圧と高電力による潜在的な危険を排除し、お客様と整備担当者の安全を徹底し、規制に順守するには、コンタクトは完全にタッチセーフでなければなりません。

 

嵌合状態、非嵌合状態での接続システムの完全な接触保護機能により、バッテリの組み立て時にバッテリ モジュールを安全に取り扱うことができます。特に、車両の耐用年数の範囲内で通常必要となる検査や修理では、訓練を受けた電気技師がバッテリ モジュールを容易に、かつ安全に取り扱うことができます。高価な特殊工具や複雑な安全手順は必要ありません。

 

TE Connectivity では、銅およびアルミニウム接続技術分野における、広範な自動車接触物理学の専門知識に基づき、駆動用バッテリのための革新的な相互接続ソリューションを開発しています。新しい BCON+ ボルト式結線システムは、このような要求の厳しい用途におけるすべての要件に適合します。BCON+ 高電圧接続システムは、診断やリサイクル用に簡単に取り外すことのできるボルト式結線であり、ISO 20653 に従った IPxxB 保護機能を備えた完全なタッチセーフ仕様です。ボルト式結線の機械的経路と電気的経路 (低抵抗の銅線対銅線接続) は互いに機能的に分離されているため、堅牢性が保証され、製造条件で端子を容易に取り扱うことができます。

 

BCON+ ボルト式結線システムは、電気特性的な構造による幅広い相互接続用途において、モジュール接続とその他の電力終端に最大限の柔軟性を実現するように設計されています。図 1:

 

図 1: バッテリ内のモジュール接続を示す図
図 1: バッテリ内のモジュール接続を示す図

開発目標

電気自動車のバッテリ モジュール コンタクトは、きわめて過酷な要件に適合する必要があります。したがって、私達の目標は、すべての導体と接続部が 400 Amp の定電流 (および最大 1,200 Amp の短時間ピーク電流)、最大 1,000 V の電圧を処理でき、-40 °C ~ +80 °C の範囲の一般的なバッテリ周囲温度で確実に動作するように設計することでした。最終的に選択されたコネクタ材料は、最大 140 °C でも確実に動作します。最大の難関は、個々の接点できわめて低い接触抵抗を達成しつつ、電力損失を (商用バッテリ セル並みに) 最小限に抑えることでした。BCON+ のコンタクトは、完全な相互接続システムの両側で、それぞれ
<10 μΩ の接触抵抗を維持します。


モジュール コネクタは堅牢度 3 (LV214、SG 3) の振動抵抗を達成するように設計され、メーカーの試験仕様 LV215 に基づく非気密型システムに対する環境規制に準拠しています。

 

このタイプの結線システムには、簡単で安全な組み立てが求められます。車両とバッテリの構成によっては、構成の柔軟性も必要となります。たとえば、形状的な制約を受ける接続、さまざまな導線タイプを接続する場合などがこれに該当します。また、モジュールの相互接続は 300,000 km (186,500 マイル) あるいは 10 年間という寿命要件を満たし、最大 25 回の嵌合およびボルト固定サイクルに耐えうる必要があります。電気自動車の場合、恒久的な充電負荷によって、バッテリ コンポーネントの堅牢性に対する要求はさらに厳しく、稼働時間合計には充電時間も加算されなければなりません。

 

システムの説明

BCON+ バッテリ モジュール結線では、バッテリ インタフェースにアルミニウムおよび銅プロファイルが採用され、鋼対鋼の結合面にはフレキシブル導体タイプが採用されています。

 

実際のセル相互接続には通常、フラットなアルミニウム ブスバーが使用されます。この部品は、モジュール内のすべてのセル相互接続に対する単一コンタクトの役割を果たします (図 2 参照)。個々のモジュールは、純銅製のフラットなボルト式接続部 (銅ブスバー) により、高電圧バッテリ システムに接続されます。ブスバーは、電気めっき銅インタフェースの下部を、鍛鋼製ねじ山付きインサートに統合します。プラグイン ソケットとのインタフェースは、より線の銅線ワイヤ (高電圧ケーブル) 結線に統合されたインサート ボルトであり、ここから単線の銅線、または丸型で大型の導線に変換されます (図 2)。

 

図 2: 多彩な形状や構成で柔軟に使用可能な BCON+ モジュール コネクタ
図 2: 多彩な形状や構成で柔軟に使用可能な BCON+ モジュール コネクタ

BCON+ 結線では、高電圧ケーブル コンタクトは銅製のメス インタフェースに嵌合します (図 3)。符号化が一致することで (適切な相互接続を意味)、ラッチ前プロセスが開始されてブスバーにケーブルがロックされるため、その後のボルト固定プロセス (および頭上での組み立て) で、両手を使用して簡単に組み立てを行えます。

図 3: BCON+ 結線のプラグインベースとインタフェースが嵌合し、ラッチされた状態でボルトを固定可能
図 3: BCON+ 結線のプラグインベースとインタフェースが嵌合し、ラッチされた状態でボルトを固定可能

両方の接触部品は、ガラス繊維強化 (GFR) 樹脂製の上部ケースと下部ケースにそれぞれ収容されているため、活電部に誤って指を触れることがありません (IPXXB = 直径 >12 mm、最大長 80 mm の物体との接触から保護)。樹脂性部品の難燃性は HB 規格に適合し、ご要望に応じて V0 保護等級に対応させることもできます。ケースの形状は有効な設置スペースを最適に活用するもので (図 4)、制限された設置場所でも最大限の安全性を確保します。活電部はすべてケースに収容され、シリコン コーティング、または高耐熱性ガラス繊維製ジャケットで覆われています。

 

アルミニウム ブスバーと純銅製インタフェースとの相互接続 (ケーブル側のより線導体と銅インタフェース間の相互接続) は、さまざまな溶接または結合技術によって作成されます。

 

 図 4: 小型の BCON+ ボルト式結線。左側: ボルト固定部分、右側: 視認しやすい丸型インタフェースと中央にねじ込み式スリーブのあるコンタクト下部
図 4: 小型の BCON+ ボルト式結線。左側: ボルト固定部分、右側: 視認しやすい丸型インタフェースと中央にねじ込み式スリーブのあるコンタクト下部

丸型の銅インタフェースの締め付けに使用する M5 取り付けボルトは、強化材料を基に TE Connectivity が独自に開発したものです。ボルト ヘッドは樹脂でオーバーモールドされており、標準ヘクサロビュラ穴付きボルトで締め付けます。鋼ボルトは丸型インタフェースとフラットな取り付け面の両方を通過し、ねじ込み式スリーブを固定しながら、BCON+ ボルト式結線コネクタ下部に到達します (図 5)。

 

図 5: BCON+ ボルト式結線接続の分解立体図
図 5: BCON+ ボルト式結線接続の分解立体図

この構造により、機械的張力が鋼対鋼システムのみにかかるようになり、機械的な予張力によって事前に確立された、銅線対銅線の電流経路上の電気的相互接続機能からは完全に分離されます (図 6)。

 

図 6: 鋼対鋼ボルト接続の機能原則により、締め付けトルク (N) と、分離された電気経路 (A) が生成される
図 6: 鋼対鋼ボルト接続の機能原則により、締め付けトルク (N) と、分離された電気経路 (A) が生成される

コンタクトに関するさまざまな課題に対応するため、純銅製ブスバーには、直線的なものや角度付きのもの、オプションのオフセット (各種オフセット高) が設定されたものなど、多様なプロファイルが用意されています。

 

相互接続部の下部のコンタクトを個別にコード化し、90° ずつ回転させることができるので、外観が似ている相互接続ケーブルを銅製ブスバーに誤って嵌合させてしまうこと (不正な符号化) を防止できます。 

コンタクトの詳細

ボルト式結線が選択されたのは、これまでに十分に低い接触抵抗を示す分離インタフェースがなかったためです。ボルト式結線は、400 Amp に対し必要とされる <10 μΩ を実現し、振動を受ける環境下で要求される電気接続性能を提供します。ボルト式結線では、必要なトルクで締め付ける M5 ボルトにより、接触面で要求される高い垂直抗力が生まれます。電気的な接触面の上下は電気めっき銅 (Cu) であり、平面にリング プロファイルが構成されています。この形状により、電気的な接触インタフェース表面を最大化します。ボルトの設計には、銅と鋼それぞれの熱膨張係数が考慮されているため、低温 (-40°C) でも高温 (+140°C) でも、環境曝露後のトルク損失を最小限に抑えます。LV215 に基づく環境試験では、BCON+ ボルト式結線はその寿命最後まで規定の再締め付けトルクを維持し、機能的な安全性を実証しています。

 

接続ポイント&有効な接続方法

純銅製ブスバーと個々の電気導体とを結合する省スペースの突合せジョイントは、たとえば硬ろうの温度にも耐えうる突合せ溶接を使用して作成できます。両方の接続相手の中間にある硬ろう材料の電気抵抗はより高いため、はんだ領域の接続素子が溶接電流によって局部的に溶融し、その後、接続相手に対する物質対物質の低抵抗の突合せジョイントが行われます。より線の場合、ケーブル テールは通常は溶接前に圧縮されます。または、従来的な溶接手法を使用して、部材を重ね合わせることで接続することもできます。しかし、有効スペースを最適に活用するために、TE では突合せジョイントを選択しました。図 7 は、いくつかの形状オプションを示します。BCON+ ボルト式結線は、16 mm2 ~ 100 mm2 の範囲の導線断面に合わせて設計されています。

図 7: BCON+ 接続システムの各種形状とさまざまな導線接続
図 7: BCON+ 接続システムの各種形状とさまざまな導線接続

丸型の単線導体、より線導体 (丸型、フラット)、銅製フラット コンタクト (直線型、オフセット) による接続が可能です。さらにポートフォリオの補完として、固定クリップ、機械的な摩擦からの保護カバーもご用意しています。

 

卓越した小型化により、すべてのシステム コンポーネントが完全に適合します。これは、電気的な相互接続部分の 2 つのリング プロファイル コンタクトにも該当します。リング プロファイル コンタクトは、銅フラット コンタクトに統合されていることが理想的です。しかし、これらは別の部品として銅フラット コンタクトに溶接することもでき、銅フラット コンタクト上に乗せるだけでも問題ありません。使用する方法は、要求される接触抵抗によって決まります。銅製ブスバーと同様、コンタクト リングも純銅でできています。接触面はニッケル (Ni) 上に銀 (Ag) で電気めっきされます。ニッケルは拡散障壁の役割を果たし、変色保護を施した銀によって接触抵抗が低減されるため、稼働後最大 1 年のコンポーネント保管寿命が保証されます。稼働中、銅フラット コンタクトは規定の負荷によって固化されます。オフセット銅フラット コンタクトは、障害物を迂回、またはオフセットを補償する機能を果たします。

実際の接触抵抗である <10 μΩ は、卓越した性能です。これは主に、銅の電気抵抗 (約 7 μΩ) によって生じる物理的に不可避の損失によるもので、ある程度は、2 つのリング プロファイル コンタクト間の接触抵抗にも起因します (約
3 μΩ)。追加要件 (飛沫保護など) も同様に実装できます。さらに、BCON+ボルト式結線は、より高い電流値やより低い電流値に合わせた規模の拡大縮小が可能です。

 

まとめ

TE Connectivity の BCON+ 接続システムは、高機能、低抵抗のボルト式結線システムであり、信頼性が高く、完全にタッチセーフの鋼対鋼ボルト固定を実現し、限定的な設置空間でも有効に機能します。機械的張力と電気的接続部は、互いに完全に分離されています。さらに、接触抵抗が低く、高度な耐久性と安全性により、BCON+ ボルト式結線はバッテリ モジュール向け、およびバッテリ以外のその他のハイパワー用途向けにも、信頼性の高い安全な高電圧接続を可能にします。

柔軟な相互接続オプション (多様な銅フラット コンタクト形状、多様な導体オプション) により、1 つのシステムで、さまざまなコンタクト構成や、多様な幾何学的コンタクト形態 (オフセット補償、複雑なハーネス ルーティング) が可能です。また、さまざまな符号化オプションや 90° 増分回転により、安全な組み立てを支援します。嵌合時、ボルト式結線を行う前にラッチ機能が作動するため、稼働中の取り扱いも簡単です。IPXXB 規格に適合する接触保護機能は、車両の寿命中に必要とされるあらゆる段階において (稼働時、メンテナンス、修理 [非専門的な車庫内も含む]、リサイクル)、ユーザーが活電部を触ることのないよう保護します。

タッチセーフでコンパクトな BCON+ ボルト式結線システムは、バッテリ用に大量生産の可能な、柔軟で拡張性の高い接続ソリューションです。嵌合状態でも非嵌合状態でもタッチセーフの取り扱いが可能であり、低抵抗の電気接続が実現される BCON+ 接続システムは、大量用途に適しています。このように、BCON+ モジュール相互接続は、高電圧バッテリ システムの安全な運用と安全な取り扱いを可能にするための、重要なコンポーネントとして位置付けられます。