3D プリンティングによるビジネス価値の創造

工場へのプリンタ展開 - TE 全社

3D プリンティングの材料とハードウェアに見られる最近の進歩により、製造事業者の経営とエンジニアの思考を変革する機会が生まれています。世界で初めて 3D プリンティングを取り入れた企業の 1 社である当社では、この技術を使用してコスト削減の推進、製品の市場導入期間の短縮、効率に優れた製品の開発に取り組んでいます。

著者:

Mark Savage、開発主任エンジニア、積層造形製造

Robert F. Zubrickie、製造エンジニア、3D プリンティングおよび Prototyping Center

世界のどこでも、ほとんどの電子コンポーネントは従来のプロセスで製造されています。その代表的なプロセスとして、射出成形、プレス加工、めっきがあります。 現在の生産機械類は、この労働集約的なプロセスを数十年前よりも効率的にこなすことができますが、複雑な形態の製品を優れたコスト効果で容易に短時間で生産する能力に関しては見劣りする技術でもあります。

 

特に部品の少量生産でこのような能力を実現するために、TE をはじめとする製造事業者は、3D プリンティングなどのこれまでにない生産アプローチに取り組んでいます。現在の電子機器は小型化、軽量化、高集積化が進んでいますが、3D プリンティングは、このような電子機器で要求される複雑な最終用途コンポーネントを低コストで生産できる可能性を秘めた技術です。

 

積層造形製造 (AM) としても知られる 3D プリンティングを使用することで、製造事業者では、複雑で正確な形状の要素を層単位で必要なだけ追加し、幾何学的形状を支持する補強構造をデザインに組み込むだけですみます。3D プリンティング自体にはすでに 30 年を超える歴史がありますが、その開発が加速したのは最近 10 年のことです。

 

ジオメトリが単純で容易に機械加工できるデザインが主流であった時代では、3D プリンティングが最適解ではないこともあります。しかし、コンタクトを備え、ハウジングに組み込んだ状態のコネクタ、さらには取り付け具全体とケーブル アセンブリまで接続した状態のコネクタを試作する場合は 3D プリンティングが効果的です。

 

その結果、複雑な形状を構成する各コンポーネントを組み込み、高い強度が期待できる軽量な製品を、材料の無駄を最小限にして短時間で製作できます。

TE では、その前身企業の 1 社である AMP で、すでに 1987 年に 3D プリンティングを導入しています。 当時、生産環境でこの技術を試験し、使用した企業は世界に 6 社ありましたが、当社はその 1 社でした。当社では、米国ペンシルバニア州ハリスバーグとノースカロライナ州シャーロットの 2 拠点にある工場で光造形装置 (SLA または SL と略称されます) を稼動して 3D プリンティングの採用に着手しました。この先鞭をつけたのは、TE の社員で 3D プリンティングの支持者であった Robert (Bob) Zubrickie です。彼は、1979 年に AMP に入社した根っからの機械整備士であり、現在はペンシルバニア州にある TE の 3D Printing and Prototyping Center の長を務めています。

 

当時、当社では SLA を使用してコネクタなどの製品の試作品を短期間で製作していました。これら初期段階のデザインでは液状樹脂を使用し、きわめて精密な形状を持つ部品を層単位で生産きました。SLA を使用することで、顧客向け図面を完全に機能する製品に変換し、実際に手にできる 3 次元の製品をカストマーに提供することができました。これにより、カストマーは目的とする複雑な形状を余すところなく確認できます。これは短期間でお客様の支持を得ることができましたが、初期の 3D プリンティング技術には致命的な欠点がありました。それは当時入手可能な材料は脆く、強度のある試作品を生産できなかったことです。製作したモデルはきわめて破損しやすく、その脆さのためにデザインの機能性を実証できない場面が多く見られました。

 

1980 年代末から 1990 年代中頃まで 3D プリンティングの技術革新には停滞が見られましたが、当社のチームは競争上の優位点を当社にもたらす用途の模索に重点を置き続けていました。この期間は、早い時期から実務運用に携わってきた関係者が 第 1 回国際AMシンポジウムに参集した時期でしたが、当社は、装置と材料に知悉する機会を求め、そのために社内的な投資を進めました。このような取り組みにより、製造環境で 3D プリンティングに秘められた用途を戦略的に思考する数少ない企業の 1 社として、TE は急速にその地歩を固めました。Bob のチームの尽力により、数年にわたって当社は SLA を使いやすい技術にするための試行を続け、当社のエンジニアに 3D 印刷装置を紹介したほか、樹脂製造元との緊密な協力の下、いくつかの新規材料も試験しました。これにより工程を短期間で標準化できました。

現在、ペンシルバニアにある当社の 3D Printing and Prototyping Center では、7 種類の技術を運用し、30 種類の材料を使用しています。 2017 年、このセンタでは、当社の新しいオンライン作業指示システムを通じ、納品までの平均所要時間 3 日間で 700 件を超える作業指示に応えました。その結果、生産プロジェクトと試作プロジェクトで、わずか 6 か月の間に数百万米ドルのコスト削減を実現しています。現在、電子コンポーネントの高品質で動作可能な試作品を SLA 装置で直接製造する手法を探っています。

3D プリンティング技術における当社の成果と継続的な投資により、以前は熱心な 3D プリンティング専門家の小グループが 1 か所で運用していた状況から、現在ではさまざまな業界のエンジニアから成るグローバルなネットワークが急速に拡大し、AM が受け入れられて 3D プリンティング技術の応用に関心が向いている状況となり、その発展は確実なものとなっています。TE で全社的に AM を導入した効果として、多くの従業員が当社の積層造形製造のセンタ オブ エクセレンス (CoE) に参加するようになっています。

TE では、3D プリンティング技術の包括的なポートフォリオに投資してきました。

TE では、3D プリンティング技術の包括的なポートフォリオに投資してきました。このような技術として、エンジニアリング ポリマで印刷するための熱溶解積層法 (FDM) や、感光性樹脂を使用する Jetting 装置と SLS 装置があります。また、金属印刷向けの直接金属レーザー焼結法 (DMLS) 装置や、エンジニアリング ポリマ同等の強度を備えた感光性樹脂を使用するデジタル光処理 (DLP) プリンタもあります。

この CoE では、材料の無駄と製造コストを 3D プリンティングで効率的に削減する手法に関するベスト プラクティスを共有し、生産チームがその手法を理解できるようにしています。 たとえば、現在、当社のチームでは体積が小さいグリッパと冶具を 3D プリントすることで、生産機械類の高価な段取り替えに投資せずに、社内で工具を低コストで生産できるようになっています。最近、当社の AM CoE では、この技術を世界中の当社工場に展開するうえで効果的な 3D プリンタ貸し出しプログラムを開始しました。このプログラムにより、TE のどの工場でも 3D プリンタを借りて現場での試験と実用が可能です。この公開方針は、当社の生産チームが 3D プリンティング技術を直接体験し、コスト削減と時間短縮のツールとして日々の作業で 3D プリンタを使用できるようになるうえで効果的です。米国、アジア、欧州の当社拠点における 3D プリンティング技術採用を、このプログラムで拡大できることが見込まれます。

 

当社の各チームが 3D プリンタを利用できるようにすることで、コネクティビティ上の問題の解決と多彩で複雑な形状の設計オプションを、これらのチームが今までとは異なる角度で考えることができるようになります。それぞれの作業に適した 3D プリンタをどのように選択すればよいか、3D プリンタの稼動中に発生して不可避なシャットダウンを引き起こす問題の多くをどのように回避するかを学ぶことができます。

3D 印刷装置。
当社の各チームが 3D プリンタを利用できるようにすることで、コネクティビティ上の問題の解決と多彩で複雑な形状の設計オプションを、これらのチームが今までとは異なる角度で考えることができるようになります。

技術革新への投資に対する取り組み

3D プリンティングが初めて製造事業者の注目を集めてから 30 年が経過していますが、この技術は未だにその先行試験段階にとどまっています。さまざまな生産環境にわたって製造事業者が 3D プリンティングで新たな効率を達成できる時代が近づいています。より多くのエンジニアと製造事業者が 3D プリンティングへの第一歩を踏み出すことで転換点が訪れます。3D プリンティング技術に対する TE の継続的な投資は、当社が野心的に思考して迅速な行動をとる能力を強化するものです。この能力を通じ、当社のカストマーがそれぞれの市場で現在から将来にわたって決定的な優位性を達成できるようしていきます。