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商用車への Ethernet 導入

大量のデータを扱う高度な機能を実現することは、複合アーキテクチャへの Ethernet の統合が簡単になることを意味します。

著者

Joachim Barth (TE Connectivity、研究開発/製品開発エンジニアリング マネージャ)、Christian Manko (TE Connectivity、データ コネクティビティ担当プロダクト マネージャ)

農業、建設、採掘に使用するオフハイウェイ車両は、車両内でかつてないほど多くの機器が接続されています。 より安全で環境にやさしく、生産性も高い商用車に対する需要が増え続けているため、先進運転支援システム (ADAS)、360° カメラ システム、近接物検出システム、車両間 (V2V) 通信、車両対インフラ間 (V2X) 通信などの機能は、オプション機能から必須の機能になりつつあります。これらの機能には大量のデータが必要で、機能がさらに追加されるに従って、そのようなデータは今後桁違いに増加します。

車内で伝送するデータの量と速度を増加するには、技術者がさらに多くの CAN ネットワークを追加するか、あるいは現在 1 秒間に最大 1 GB のデータを処理できる Ethernet のような高速な通信プロトコルを統合することで、車両の電気/電子 (E/E) アーキテクチャを大幅な変更する必要があります。

設計エンジニアには選択肢があります。 既存の通信ネットワーク (CANbus プロトコルが最も一般的) を全面的に交換する代わりに、エンジニアは必要に応じて Ethernet でネットワークを設計し、テレマティックス、診断、ADAS などのお客様が最も必要とする機能を提供できます。このような大量のデータを扱う高度な機能の実装が必要な場合は、システム全体の規模を拡大し、Ethernet の専用ラインを使用する必要があります。特に Ethernet はヘビーデューティー車両の市場では比較的新しい技術であるため、OEM にとって Ethernet をアーキテクチャに統合することには多大な苦労が伴いますが、このような課題は適切な専門知識によって克服できます。設計の初期段階から、その複雑さを理解していて Ethernet の専門知識にも長けているサプライヤから助言を受けることが、設計から生産までを円滑に進める鍵となります。自動車 Ethernet に関する知識が豊富なサプライヤの支援を受ければ、OEM 設計者は、最先端のあらゆる機能やアプリケーションのためにセンシングとコンピューティング能力を向上させながら、トポロジを最適化して適切なテクノロジを事前に選択できるようになり、過酷な条件下でも信号の完全性を確保できます。

 

E/E アーキテクチャによっては、より高度な自動化機能を追加する場合に、設計者は Ethernet スイッチの設計が必要となります。CAN などの従来のプロトコルとは異なり、信号を劣化させずに低いレイテンシで目的の送信先に伝送するには、スイッチが必要です。そのため、スイッチを配置する場所、スイッチを新しい専用の電気制御ユニット (ECU) と既存の ECU のどちらに組み込むか、必要なケーブル/コネクタ/センサの数、それらを配置する場所を早い段階で検討することが重要となります。これは、Ethernet を必要とする車両内のあらゆる高度な機能に当てはまります。

一般的に、農業、建設、採掘などにおける部品は、特に車外に配置する場合には、堅牢性に関する追加基準を満たし、 激しい振動、物理的衝撃、粉塵、化学物質、水から守る必要があります。さらに、これらの部品は -40°C (-40°F) から 125°C (257°F) までの温度に耐えることができ、フィールド メンテナンスが可能であることも必要です。

 

車両のコンポーネント、システム、ネットワークのアップグレードを必要としている OEM にとって、安心できる材料があります。それは、多くの高速データ用途は、元々自動車業界向けに開発され、その性能が乗用車で既に実証されているコネクタ技術を使用して設計できるということです。たとえば、当社が開発した 100BASE-T1 仕様に準拠する新しい防水型 Ethernet コネクタ (enetSEAL+) は、堅牢なハウジングを追加し、自動車用 MCON 端子の設計をアップグレードしたものです。このコネクタは、最大 100 MB/秒の速度でデータを伝送できます。

また当社は、最大 1 GB/秒 の速度でデータを伝送できるヘビーデューティー防水型コネクタ シリーズの新しい製品として、過酷な環境下での使用に耐える堅牢な熱可塑性樹脂 Ethernet コネクタ (MATEnet インサート付きヘビーデューティー防水型コネクタ シリーズ) を開発しました。これは当社の MATEnet 相互接続システムに対応しているため、柔軟で拡張性の高い設計が可能となります。これにより、OEM は非シールドまたはシールド ツイストペア ケーブルを使用し、複数のハイブリッド インタフェースで設計することができます。

 

肝心な点は、上記の製品のような、安全性、生産性、またはインフォテインメントを強化することを目的としたほとんどすべての過酷な環境/ヘビーデューティー車両用途 (テレマティックス、オンボード診断、多機能ディスプレイ、オンボード カメラ、レーダー、ライダーなど) に適応するソリューションを選ぶことです。

E/E アーキテクチャに Ethernet を使用することは大きな一歩です。 CANbus プロトコルは、30 年以上にわたって車両に使用されてきました。

E/E アーキテクチャに Ethernet を使用すると、速度が大幅に向上し、設計がより複雑化するため、これは非常に大きな前進となります。必要な部分にのみ Ethernet を使用して複合アーキテクチャを設計する場合、このような高速な Ethernet ネットワークは速度が遅い CAN ネットワークとも「会話」できる必要があるため、エンジニアは、高速なメッセージを CAN が受信して理解できるように翻訳するゲートウェイを設計に組み込む必要があります。  

 

既に Ethernet を使用している大半のコネクタ システムの速度は、第 1 世代の 100 MB です。第 2 世代の速度はその 10 倍の 1 GB であり、ECU が車内のさまざまな種類のアーキテクチャとトポロジの基準を満たすためには、より周波数の高いトランシーバが必要になります。このプロトコルに関する経験に乏しいエンジニアは、ヘビーデューティー車両における機械的環境が通信の電気的性能にどのような影響を及ぼすかをさらに学ぶ必要があります。

暗い雨の夜のバス
たそがれ時のトラック

Ethernet はより高い周波数で動作するため、他の電子機器または金属部品の付近に配置した場合、影響を受けやすくなります。 許容差はできるだけ小さくなければならず、設計の際に EMI、機械的擾乱、ケーブルの品質問題などが発生する可能性を考慮する必要があります。コンポーネントのレベルでは、物理層を設計する際、コネクタとケーブルは、専用ライン、機能、システム全体に関する要件を満たしている必要があります。各部品の設計者は、付近にある他のシステムに障害をもたらす有害なエミッションがないこと、また付近にある他のシステムからのエミッションがその部品に障害をもたらさないことを確認する必要があります。

 

強い電磁場を発生させるアンテナまたはその他のコンポーネントからの干渉を防止するうえで、配置は重要です。シールドされたコンポーネントとシステム、およびシールドされていないコンポーネントとシステムをどこで使用するかを選択することも重要です。バランスと EMI に関して、物理層のすべての側面を制御する必要があります。

畑を耕すトラクター

電磁干渉と機械的擾乱に加えて、さまざまな作業現場 (農場、建設現場、鉱山など) と製品用途により、 車両の通信システムの電気的性能がどのような影響を受けるかを理解しておくことも不可欠です。極端な温度、高い機械的負荷、化学物質への曝露、過剰な粉塵などの要因は、Ethernet データ リンクに必要なケーブルとコネクタに悪影響を及ぼすことがあるため、設計の初期から考慮する必要があります。

 

多くのオフハイウェイ車両はサイズが巨大であることから、オフハイウェイ環境による過酷な条件に耐えながら、最大 40 m (131.2 フィート) のリンク全体を通して Ethernet の信号の完全性を維持しなければならないという課題も生まれました。建機農機、商用車および 2 輪に使用される 40 m のケーブルは乗用車では使用されていないため、物理層で使用するすべての ECU と製品 (ケーブル、コネクタ、トランシーバ) を 40 m の基準に適応させる必要があります。Ethernet 規格では、最大 4 つのインライン接続が規定されています。通信リンクの品質は、各セグメントの長さ (コネクタ間の距離) と車両内の引き回し場所によって異なります。

 

したがって、有効な試験が不可欠です。すべてのコンポーネント (ECU、ケーブル、コネクタ、トランシーバなど) とシステムは、商用車両での使用に関する検証を受けて、合格する必要があります。さまざまな方法で構成を試験し、どの方法が最も効果的で安定しているかを確認することが重要です。次に車両全体を EMI チャンバに入れて、さまざまな方法で試験します。トラック内部の構成の試験とさまざまな条件のシミュレーションに加えて、車両に発生し得る多様な条件の組み合わせのシミュレーションも行う必要があります。

設計者は、他の通信プロトコルと同じ方法で Ethernet にアプローチすることはできません。 Ethernet をヘビーデューティー車両用に設計する場合、ここで説明した複雑さという理由から、他のネットワークよりもはるかに多くの思慮と努力を重ねる必要があります。当社は、設計者が RJ45 や USB などのオフィス環境や消費者向け商品によく使用されているインタフェースを採用しようとする様子を目にしてきました。これらのコネクタは、過酷な環境向けに開発されていないため、利用するべきではありません。

RJ45

オフィス環境で頻繁に利用

USB

消費者向け製品で頻繁に利用

一般的に、よく起こるものの避けるべき間違いとは、機械的作用が通信リンクにもたらす影響を過小評価してしまうことです。 これには、材質的特性、ひいては通信リンクに影響を及ぼし得る温度、湿度、その他の環境条件が含まれます。現在自動車 Ethernet の規格は 2 つしかなく、これらも 100 MB と 1 GB (1,000 MB) という速度の違いでしかありません。トランシーバ、コネクタ、ケーブルといった物理層の各コンポーネントと引き回しは厳格に検査し、どのような条件においても常に安定して動作することを試験で確認する必要があります。

未来の車

将来の要求に今対応することが肝要です。 農業、建設、および採掘業界の購買担当者は、生産性、安全性、持続可能性を向上させる機能を求めています。現在のテクノロジは、いずれは完全自動化に至るまでの通過点であるため、Ethernet をそうした車両や機械に導入することは、現在の需要だけでなく、大量データ通信の接続性に対する今後の長期的な需要に対応するためにも欠かせません。 

"oemoffhighway.com" 掲載記事より