ホワイト ペーパー
振動センサによる予知保全
振動センサが予知保全にどのように使用されているかをご覧ください。正しい技術の選び方もご紹介します。
はじめに
オートメーションの増加に伴い、機械スピンドル、コンベヤ ベルト、選別台、工作機械などの小型の大量生産システムに対する需要が高まっていますが、これらの機器にはより優れた予知保全が必要となります。
これらの用途における装置のダウンタイムは、カスタマ エクスペリエンスや収益性の点で、きわめて重要な考慮すべき問題です。これまで加速度計は主に、風車、工業用ポンプ、コンプレッサ、HVAC システムなどのハイエンド重機の状態監視に使用されてきました。しかし、デジタル産業の変革に伴って、より小型の大量生産向け装置に対する需要が高まっています。このホワイト ペーパーでは、機械状態監視に使用される加速度計の異なる技術を比較します。
重要な要素
機械状態監視および予知保全用途では、長期的な、信頼性の高い、安定した高精度の性能を確保するために、以下に挙げる振動のパラメータ指定が重要であると考えられます。
- 幅広い周波数応答
- 測定分解能およびダイナミック レンジ
- ドリフトの少ない長期安定性
- 使用温度範囲
- 実装オプションおよび取り付けやすさ
- センサ出力オプション
幅広い周波数応答
装置の故障モードをすべて検知するために、加速度計は、ベアリング監視用シャフトの 1 分間の回転数 (RPM) の 40 ~ 50 倍の周波数応答を必要とします。ファンやギアボックスの場合は、加速度計の周波数上限リミッタを翼通過周波数の 4 ~ 5 倍にする必要があります。装置によって異なりますが、周波数の下限リミッタは上限リミッタほど重要ではありません。2 Hz 未満の周波数が必要となることはまずありません。
測定分解能およびダイナミック レンジ
振動センサの測定分解能は、オンボード電子機器の広帯域ノイズに対する出力信号の振幅を表す関数です。優れた出力信号を備えた加速度計は、装置内のより低い振動レベルを測定することができます。低いレベルの振動振幅を測定する能力により、エンド ユーザは、ダイナミック レンジの狭いセンサよりもかなり早い段階で故障を予測することができます。
測定分解能に影響を与えるその他の要因には、環境条件、電磁干渉 (EMI)、無線周波数干渉 (RFI)、データ収集 (DAQ) インタフェース、ケーブル長などがあります。したがって、設定の選択にはこれらの要因をすべて検討する必要があります。
原則として、信頼性の高い測定結果を得るには、出力信号をセンサのノイズ レベルの 10 倍以上にする必要があります。
測定分解能は、次の簡単な方程式で求めることができます。
分解能 (G) = 広帯域ノイズ (V) ÷ センサ感度 (V/G)
長期安定性
長期ドリフトは、感度測定またはゼロ点出力測定に生じる「継続的なずれ」です (ゼロ点出力ドリフトは、MEMS センサのみに見られるドリフトです)。加速度計の感度にずれが生じると、いつの日か監視アラームの誤動作を引き起こす可能性があります。ゼロ点出力測定にずれが生じた場合も同様の影響を及ぼし、アラームの誤動作につながる可能性があります。圧電センサには DC 応答がないため、ゼロ点ドリフトではなく感度ドリフトのみの影響を受けます。MEMS VC センサは、時間の経過に伴って、ゼロ点ドリフトと感度ドリフトのどちらも発生する可能性があります。
次のセクションでは、状態監視用途に使用される 2 つの異なるタイプの技術を比較します。
圧電振動センサ
圧電 (PE) 加速度計には、自然発生する圧電性結晶が使われています。圧電性結晶は、装置の振動などの外部励起によって応力を受けると、電荷を生成します。
圧電センサには、通常 PZT (チタン酸ジルコン酸鉛) セラミックが使用されています。PZT セラミックには分極処理が施されており、双極子の方向を整えて結晶に圧電性を生じます。PZT 結晶は、広い温度範囲、幅広いダイナミック レンジ、優れた周波数帯域幅を備え、状態監視用途に最適です (>20 kHz まで使用可能)。
PE 加速度計の設計は、圧縮型とせん断型の 2 種類に大別されます (ビーム型もありますが、これはほとんど使われていません)。
圧縮型設計は、結晶の上に質量 (おもり) を負荷して初期荷重を与える圧縮で、圧電性結晶に応力をかける構造です。この設計は旧式で、性能に限界があるため、現在ではあまり使われていません。この構造はマウント ベース歪みの影響を受けやすく、熱ドリフトも多く見られます。
せん断型設計には通常、環状せん断結晶とポストを固定する環状マスが使われています。この設計はベース隔離型で、熱応力の影響も少なく安定性に優れているため、圧縮型設計に比べて性能がはるかに優れています。今日提供されている状態監視用加速度計の多くはせん断モードで設計されており、状態監視用途にはこの設計方式が最適です。
静電容量振動センサ
静電容量 (VC) センサは、2 枚の平行なコンデンサ極板の間を移動する振動質量の静電容量の変化から加速度を算出します。静電容量の変化は、加えられた加速度に正比例します。非常に小さな静電容量の変化を電圧出力に変換するため、VC 加速度計にはセンシング素子と密接に結合された IC (集積回路) が必要です。この変換プロセスの結果、一般的に SN 比は小さくなり、ダイナミック レンジも制限されます。
VC センサの多くはシリコン ウエファで製造されており、小型の MEMS (マイクロ電気機械システム) チップの中に組み込まれています。
技術比較チャート
機械状態監視および予知保全用途では、長期的な、信頼性の高い、安定した高精度の性能を確保するために、以下に挙げる振動のパラメータ指定が重要であると考えられます。
- 幅広い周波数応答
- 測定分解能およびダイナミック レンジ
- ドリフトの少ない長期安定性
- 使用温度範囲
- 実装オプションおよび取り付けやすさ
- センサ出力オプション
以下のセクションでは、一般的な圧電状態監視用加速度計と状態監視用途向けに商品化されている広帯域幅 MEMS 可変静電容量加速度計で、これらの重要な性能仕様を比較します。どちらの加速度計も ±50 G の FS (フル スケール) レンジを備えています。
周波数応答
2 つの加速度計の周波数応答が、周波数レンジ 5 Hz ~ 20 KHz の SPEKTRA GmbH CS18 HF 高周波校正シェーカーを使って試験されました。これらのセンサは、試験の全範囲にわたって正確な結果が得られるよう、しっかりと固定されました。結果の一貫性を保証するため、PE と MEMS VC の技術ごとに 3 つのセンサが試験されました。
試験の結果を以下の表に示します。ここでは最大 ±1 dB の振幅偏差を使用可能帯域幅と見なしましたが、一般的には ±5% というもっと狭い偏差が帯域幅許容範囲として使用されます。上記のデータによると、VC MEMS センサの使用可能帯域幅は最大 3 KHz、圧電センサの使用可能帯域幅は 10 KHz を超えています (この特定の PE センサは、最大 14 KHz という仕様の範囲内でした)。
PE センサの遮断周波数 (応答の限界) が 2 Hz であったのに対し、DC 応答デバイスである MEMS センサでは、周波数応答の下限が 0 Hz であったことは注目すべきことです。
測定分解能およびダイナミック レンジ
圧電センサと VC MEMS センサの測定分解能およびダイナミック レンジを決定するため、ノイズ隔離チャンバ内でマイクロ G 測定分解能を持つ最新の測定装置を使用して試験が行われました。外部環境の干渉によるエラーを防止するため、ユニットは同じチャンバ内に設置され、同時に試験されました。
4 つの異なる帯域幅設定で測定が実施され、各設定の残留ノイズが測定されました。その結果を以下の表に示します。
異なる帯域幅における残留ノイズの比較
モデル | 0.03 ~ 300 Hz µV-rms | 0.03 ~ 1 KHz µV-rms | 0.03 ~ 3 KHz µV-rms | 0.03 ~ 10 KHz µV-rms |
---|---|---|---|---|
PE #1 |
27.2 |
30.8 |
39.5 |
57.6 |
PE #2 |
25.1 |
31.7 |
38.6 |
56.3 |
MEMS #1 |
377.6 |
405.2 |
412.7 |
498.2 |
MEMS #2 |
415.7 |
430.2 |
453.9 |
532.1 |
測定分解能およびダイナミック レンジは、0.03 ~ 10 KHz 帯域幅に基づいて計算されました。詳細は以下のとおりです。PE センサの分解能は、VC MEMS センサより約 9 倍優れています。そのため、ダイナミック レンジが広く、エンド ユーザは発生する可能性のある問題をかなり早い段階で検知することができます。
測定分解能の比較
分解能 | 残留ノイズ | スペクトル ノイズ | ダイナミック レンジ | 分解能 | |
---|---|---|---|---|---|
モデル |
mg-rms |
µV-rms |
µg-rms/√Hz |
dB |
ビット |
PE #1 |
1.4 |
57.6 |
14.4 |
88 |
14.6 |
PE #2 |
1.4 |
56.3 |
14.1 |
88 |
14.6 |
MEMS #1 |
12.5 |
498.2 |
124.6 |
69 |
11.5 |
MEMS #2 |
13.3 |
532.1 |
133.0 |
68 |
11.4 |
ドリフトの少ない長期安定性
PE センサは 30 年以上現場で使用されており、その長期安定性には定評があります。圧電性結晶は本質的に安定しており、長期にわたる卓越した安定性が実証されています。長期ドリフトのパラメータは、結晶の成分にも左右されます。したがって、実際の値を提示するのは困難です。石英は、PE 加速度計に最も優れた長期安定性をもたらしますが、出力に限界があり、コストの点からみても、状態監視用途ではほとんど使われていません。PZT (チタン酸ジルコン酸鉛) セラミック結晶は、PE 加速度計に使われている最も一般的な結晶です。最近では、ほぼすべての用途に対応する結晶として選ばれています。
静電容量 (VC) MEMS 加速度計も、その MEMS 設計構造に応じて、長期ドリフトの仕様限界に幅があります。バルク微細加工された MEMS センサは、長期ドリフトの点では最も優れていますが、かなり高額になるため、通常は慣性用途にのみ使用されます。状態監視目的では、表面微細加工された VC MEMS センサが提供されています。このセンサは、価格ははるかに安価であるものの、その分測定分解能と長期安定性は犠牲になります。表面微細加工設計の MEMS 構造は、バルク微細加工された MEMS センサに比べて安定性が劣ります。
使用温度範囲
PE 加速度計と VC MEMS 加速度計の使用温度範囲はほぼ同じで、どちらも状態監視用途の典型的な環境 (-40°C ~ +125°C) に適しています。一部の過酷な環境では、使用温度範囲の高いセンサが必要となる場合があります。このような場合は、チャージ型圧電センサが推奨されます。OBC コンバータ回路が含まれていないチャージ型 PE 加速度計は、+700°C を超える温度で使用できます。
実装オプションおよび取り付けやすさ
組み込み型状態監視を小型装置に取り付ける場合、サイズと取り付けオプションが加速度計を選ぶ際の重要なポイントとなります。大型装置には、通常 TO-5 スタッド マウント加速度計が使われていますが、小型のベアリングと回転シャフトを備えた装置には、組み込み型または小型の加速度計を使う必要があります。
VC MEMS 加速度計の多くは、大量 PCBA アセンブリに最適な SMT 取り付けパッケージで提供されています。VC MEMS センサは非常に小さいパッケージでも提供されており、より多くの実装オプションが利用できます。
PE 加速度計は、さまざまな構成で用意されています。VC MEMS に似た SMT マウント バージョンもありますが、SMT パッケージのサイズは通常 VC MEMS 設計より大き目です。PE 加速度計には、ステンレス鋼ハウジングを備えた堅牢な TO-5 メタル缶パッケージもあります。これらの設計により、ベアリング ハウジングに直接取り付けたり、内部に組み込んだりできます。以下の画像は、PE センサの実装オプションの一例です。
センサ出力オプション
取り付けおよび用途に応じて、センサの出力信号を選択しなければならない場合があります。現行の予知保全の取り付けでは、センサが出力するアナログ信号が必要です。これにより、エンド ユーザは、どのパラメータで特定の装置を監視すべきかを判断することができます。通常、出力信号は DAQ または PLC インタフェースを介して供給され、±2 V または ±5 V のアナログ出力が最もよく選ばれています。長いケーブル長が必要な場合は、ループ電流 4 ~ 20 mA のセンサも一般的です。未来のデジタル ファクトリや Industry 4.0 では、デジタル出力信号に対するニーズが高まり、エンド ユーザが予知保全措置を即決できるオンボード マイクロプロセッサを搭載したスマート センサも求められると考えられます。
これらの出力信号のオプションは、PE センサと VC MEMS センサのどちらでも使用できます。どちらの技術にも、これらの機能を提供する能力があります。
比較表
前項で検討された性能パラメータは、状態監視取り付け技術の選択において、お客様のインテリジェントな決定を支援します。パラメータのまとめを以下の表に示します。
重要なパラメータ | 圧電センサ | MEMS VC |
---|---|---|
幅広い周波数応答 |
X |
|
信号の長期安定性 |
X |
|
ダイナミック レンジ |
X |
|
使用温度範囲 |
X |
X |
実装オプション |
X |
X |
取り付けやすさ |
X |
X |
センサ出力オプション |
X |
X |
まとめ
このホワイト ペーパーでは、MEMS 加速度計と PE 加速度計の異なる技術特性を比較しました。どちらの技術にも最終用途に応じた利点があります。機械状態監視および予知保全用途に関する当社事例では、圧電センサが圧倒的な選択肢です。その実証済み技術により、長期にわたる安定性を確保します。周波数応答が広い埋め込み PE 加速度計は、低速装置から高速装置に最適です。信号分解能も高く、早い段階で故障を検知します。
TE Connectivity (TE) は、お客様のコンセプトをスマートでつながりのあるものに変革する、世界最大級のセンサ企業です。当社が提供する幅広い加速度計の製品ラインナップについては、こちらをご覧ください。