ホワイト ペーパー

腐食環境向けセンサ

腐食性の過酷な化学環境に耐えるために進歩を遂げた新しいセンサ設計をご覧ください。

生産現場からフィットネス トラッカーまで幅広く利用されているセンサは、人々のニーズが絶えず変化する現代社会において、明日の期待に応えるために重要な役割を果たします。ワイヤレス技術や IoT 技術の普及を受けて、コンシューマ デバイスや産業機器に搭載されるセンサの数は増大しています。センサ内部の進歩はこれらの市場にとってきわめて重要です。性能の課題を克服・凌駕するために、超小型、低消費電力、かつ高精度で過酷な媒体にも耐えられるよう設計されたデジタル センサが求められています。

圧力センサは、自動車、産業、医療、消費者製品などのさまざまな市場で幅広い用途に使用されています。今日では世界中の多くのモノがつながり、社会は着実に「スマート化」の道を歩んでいます。これを実現するため、センサにとって厳しい用途や環境でもセンサが使用されるようになりました。そのような用途の多くでは、腐食性のある強力な化学物質に耐えるよう設計されたセンサが必要です。たいていの場合、そうした化学物質はセンサが測定しようとしている媒体中に存在し、センサそのものに直接接触します。そのため、センサの信頼性を高めて長寿命化するには、化学物質による攻撃に抵抗するようにセンサを設計しなければなりません。たとえば、スイミング ウォッチに内蔵されている圧力センサを例にとると、このようなウォッチがさらされる水には、塩素が水溶性ガス (スイミング プール) またはイオン (海水) の形で含まれています。塩素は強力な酸化剤であり、ほとんどの金属を急速に腐食させて製品に回復不能な損傷を与えます。

図 1. TE Connectivity の MS5839 高度計

MEMS 圧力センサの動作

ピエゾ抵抗圧力センサの典型的な構造は、化学エッチングまたはドライ エッチングで形成された平面シリコン ダイアフラムです。ピエゾ抵抗器は、センサの線形動作範囲内の、メンブレンの縁の近くに配置されています。

図 2. MEMS 圧力ダイ

MEMS 素子に圧力がかかると、素子がトランポリンのようにたわみます。このたわみによってピエゾ抵抗素子がひずみ、たわみの程度に比例してその抵抗値が変化します。

図 3. 圧力に対するダイの反応

実際には、信号レベルを最大化するために 4 つのピエゾ抵抗器がホイートストン ブリッジ構成で配置されています。これにより、望ましくないノイズがある程度同相除去されます。

図 4. ホイートストン ブリッジ

センサの問題を検出する方法のひとつとして、圧力がかかっていない状態での出力信号オフセットを調べる方法があります。適切に動作している場合、差動出力は 0 V になります。出力が 0 V でない場合は、センシング素子に何らかの問題があることを示しています。強力な化学物質による腐食は、ピエゾ抵抗素子、相互接続、ワイヤ ボンディング パッドの機能に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、出力信号にずれが生じたり、センサから誤ったデータが返されたりします。いずれにしても、MEMS センサ素子からの信号は、接続先の CMOS ASIC で温度線形性やその他の誤差が補正されてから増幅され、デジタル化されます。このデジタル データが、マスター マイクロプロセッサに通信しやすいように I2C または SPI プロトコルの形式にフォーマットされます。

センサを保護するパッケージング

MEMS センシング素子と CMOS ASIC をパッケージングして環境的に隔離することは、圧力センサを確実に機能させるために非常に重要です。パッケージングと環境隔離により、チップを保護すると同時に外部との接続性も確保できます。すべてのセンサは測定対象の媒体や現象と物理的に接触する必要があります。さらに、センサから提供されたデータを使用する電子システムにも接続している必要があります。

図 5. MS5839 の分解立体図
図 6. スポーツ ウォッチ

過酷な環境に適した独自の技術

TE Connectivity は、ハロゲン (フッ素、塩素、臭素、ヨウ素) などの強力な酸化剤を含む過酷な腐食環境での使用に適した小型の圧力センサを開発しました。この種の過酷な環境は、自動車、医療、個人用ウェアラブル機器の分野で見られます。

図 7. 塩素ガスへの曝露

自動車業界では、「難燃剤」として使用されている一部の有機ポリマの配合にハロゲン化合物が使われています。このような材料は、ヨードメタン (ヨウ素を多く含むメタン) などのハロゲンベースの化学物質を含むガスを放出する可能性があります。ヨードメタンは、たとえ数 ppm の濃度であっても、MEMS や半導体チップの金属間作用を引き起こす触媒として働き、自動車メーカーにとって深刻な問題をもたらします。

 

スイミング プールの塩素水は、ウェアラブル機器に同様の問題を引き起こします。TE の圧力センサは、トライアスロン選手が使用するスポーツ ウォッチ用の高度計や、ダイビング用コンピューターの深度センサとして使用されています。素子が適切にパッケージングされて保護されていなければ、スイミング プール (水溶性塩素を含む) または海水中 (イオン性塩素を含む) で使用したときにセンサが腐食して故障する可能性があります。

試験および検証

TE Connectivity が開発したこの新しい技術と設計は、センサ パッケージを海水、塩素水、ジヨードメタン ガスに曝露する方法で試験されています。ジヨードメタンへの曝露は最も過酷な試験として知られています。以下の図は、センシング素子をジヨードメタンおよび塩素水に曝露したときの信号出力のドリフトを示します。これらのドリフトは非常に低いレベルにあります。さらに、このオフセットのドリフトは、その大部分がジヨードメタンではなく湿潤環境の存在によって説明できます。85°C の温度と 85% の相対湿度で行われた別の加速寿命試験では、ジヨードメタンの結果と合わせてプロットされたグラフからわかるように、オフセットとスパンにおいてほぼ同じドリフトが示されました。

塩素試験

図 8. 塩素試験の結果

ジヨードメタン試験

図 9. ジヨードメタン試験の結果

まとめ

TE Connectivity の新しいパッケージ設計と組立手順により、腐食性化学物質や腐食性大気に対するセンサの耐性が向上します。これによって、TE のセンサは過酷な腐食環境で使用しても故障/誤動作を起こさない、という信頼感をお客様にご提供します。

実際の性能は、用途によって異なる場合があります。本ホワイトペーパーに記載された試験結果で耐腐食性が向上しているとされている場合でも、お客様はそれぞれの特定の用途に合わせてセンサの試験・適合確認を適宜行っていただく必要があります。

Microfused は商標です。