デジタル イノベーションの鍵を握るのは、より多くのデータをより速く移動させる能力です。 1980 年代に、1秒間に10メガビットのデータを伝送できるケーブル技術が普及し、現代のネットワークの基礎、つまりインターネットが誕生しました。
これは驚くほど息の長い技術であり、現在でも幅広いコンピュータ用ネットワーク カードと互換性を保っています。また、現在の家庭用ネットワークで一般的に使われているケーブルは、初期モデルの 1,000 倍にあたる 1 ギガビット/秒 (Gbps) のデータをスムーズに伝送できる能力を持っています。しかしその一方で、私たちが送信、保存、分析、処理するデータ量は大幅に増加しています。これは、データ伝送の速度が向上するたびに、それにより増加した容量の革新的な利用方法が新たに生まれているからです。たとえば、人工知能や機械学習が今日の成熟度に達することができたのは、大量のデータを高速に移動および処理できるようになったからに、ほかなりません。
デジタル イノベーションのペースはまったく衰えていませんが、ネットワーク速度に求められる新たな基準を突破することは、さらに困難になっています。今日の高速データ通信は、それを伝送するケーブルや接続の物理的特性によって、経済的に実現可能なソリューションを生み出すことがこれまでになく困難な状況になりつつありますが、そのような速度に対するニーズが最も求められているのがデータセンターなのです。
データ センターには、ユーザーどうしで送り合っているメッセージや、オンラインでの商品注文、渋滞時の経路誘導など、私たちが日常的に利用している情報が保管されています。 高速なグローバル ネットワークでは、このようなデータを広く遠くまで移動させることができますが、最大のネックとなるポイントは、AI モデルのトレーニングや膨大なデータセットの分析といった演算負荷の高い処理が行われる大規模データ センターのサーバ間で発生します。
今日のデータ センターでは、単一の接続で、サーバやスイッチなどのコンピュータ間を最大約 100 ギガビット/秒 (Gbps) の速度で効率的かつ確実にデータを移動させることができます。これは、1980 年代の初期のネットワーク ケーブルで実現されていたスループットのおよそ 1 万倍に相当します。興味深い点は、このようなケーブルで使われている技術が、それほど変わっていないことです。
光ファイバの進歩にもかかわらず、短距離の高速なデータ移動では、現在でもパッシブ銅線ケーブルが伝送手段として主要な選択肢となっています。銅線ケーブルは、光ファイバと比較して、製造および配備がはるかに安価です。また、光信号は接続の両端で電気インパルスに変換する必要があるため、性能面でも光ケーブルより有利です。
そのため TE では、銅線の性能を拡張する方法を見つけることを中心とした取り組みを進めてきました。次の重要なマイルストーンとなるのは、リアルタイムのデータ分析や人工知能用途の利用拡大に対応できる帯域幅、つまり200 Gbpsです。
200Gbpsという基準を達成するうえで最大の課題の1つとなるのが、そのような速度でデータを伝送するために必要な高い周波数が、信号損失の機会を増やしてしまうことです。 信号損失を抑えながら、そうした周波数に対応できるケーブルやコネクタは存在しますが、サイズも大きくて高価なものになりがちです。TE は、このような高品質で高価な接続手段によって生み出される精度をデータ センターが大規模に採用できるように、低コストで確実に再現することに取り組んでいます。
大まかにいえば、この種の問題は以前から存在しており、ケーブルの伝送速度が向上するたびに、性能、製造、信頼性の間でどのように妥協するのかということが要点となってきました。しかし、速度が向上するたびに妥協点を見つけることが難しくなっています。効率的かつ経済的な200 Gbps接続を目指して進歩したところで、さらに速い速度を実現する接続技術はすでに登場しつつあります。
銅線だけで速度を上げようとしても、やがてその効果が薄くなる段階に到達してしまいます。 しかし、それは必ずしも別のケーブル技術に移行する必要性を意味するものではありません。次世代のデータ速度を達成するためのソリューションの一端を担うのは、むしろデータ
センター機器の進歩である可能性が高いのです。新しいアーキテクチャは、より効率的な接続を実現しながら、レイテンシを改善する機会も生まれます。たとえば、ワイヤをチップ部品に直接接続できるようにすることで、サーバとスイッチの物理的な相互接続に変化をもたらすことができます。
このような大規模な技術的進歩の実現には多大なコストがかかるため、一部品メーカーが推進するのは困難です。そのため、ネットワークを構成する複数のコンポーネントを接続する新しい方法を開発するには、業界に携わるさまざまな企業が緊密に協力する必要があります。TEは、次世代ネットワーク アーキテクチャに関する議論に非常に積極的に取り組んでいます。また、当社が開発するソリューションがエコシステム全体に適合できるように、お客様と緊密に連携しています。
アーキテクチャを変革することで、信号の相互接続が高速化されるだけでなく、効率化を高める機会も生まれます。たとえば、熱は性能と信頼性を低下させることから、データセンターの運営者にとって重大な懸念事項となっています。特に、光ケーブル接続は熱が発生する原因となるため、優れた熱設計が求められます。
この問題に対処するため、TEの熱専門のエンジニアが製品開発プロセスにおいて、当社製品がコスト効率に優れた方法で確実に信号を伝達できるようにサポートを提供します。たとえば、2つの表面間で熱接続を行う際の一般的なソリューションとしてはギャップ パッドが挙げられますが、当社のエンジニアは、これに代わる革新的な製品を開発しました。それがTEのサーマル ブリッジであり、高出力光モジュールからの熱伝達を改善します。
この放熱技術を製品に搭載することで、データ センターのエコシステム全体を改善し、より多くのデバイスをスイッチに搭載できるようになります。
大量のデータを移動できる高速化が実現したことで、データ センターのアーキテクチャにも新たな可能性が生まれています。たとえば、物理的な構成の制約からコンピュータを解放するディスアグリゲーテッド コンピューティングへの移行が挙げられます。 ディスアグリゲーテッド アーキテクチャでは、プロセッサ、メモリ、ストレージを搭載し、それぞれが独立したコンピュータのセットを接続するのではなく、コンピュータの各パーツをパーツごとに組み合わせて使用します。たとえば、巨大なメモリの共有プールを活用することで、多数の強力なデータ処理に対応することができます。
クラウド コンピューティングや分散型データ センターにおいて、長い間重要な役割を担ってきたのがプールされたストレージです。現在では、高速な相互接続と低遅延の信号伝達により、コンピュータのパーツを仮想化できる可能性が広がったため、リソースをより効率的に利用できるようになっています。
近い将来、医療、小売、自動運転などの高度な用途に対応するため、さらに複雑なAIモデルをトレーニングする必要性が生まれ、より多くのデータをより迅速に収集、保存、処理することが求められるようになるでしょう。このような技術がどれくらい大きな影響を与えることができるのか、その行く末を見定める過程はまだ始まったばかりです。
大規模AIの用途は、次世代高速相互接続によって、よりスケーラブルに、より広範囲に利用できるようになるでしょう。しかし、デジタル イノベーションや、それを達成するために必要な速度が、そろそろ減速する時期に入るなどと考えてはなりません。TEでは、200Gbpsというマイルストーンに近づいても、次のマイルストーン、そしてその次のマイルストーンに到達するために何が必要かをすでに考え始めています。
David Helster は、TEのDigital Data Networks事業部の退任したシニアフェローです。30年にわたるキャリアの中で、Davidはシステムアーキテクチャと信号整合技術のための高速システムやインターコネクトを設計してきました。Drexel大学で電気工学の学士号(BSEE)を取得しています。
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