手術室で低侵襲医療機器を使用する外科医。

TE の視点

低侵襲手術用のスマートな医療機器

著者: Travis Dahlstrom、メディカル事業部 VP 兼 CTO

カテーテルはますますスマート化され、より迅速で安全な医学的手技を可能にしています。 こうした進歩はすでに患者や医師に貢献しており、今度数年のうちにさらに加速する可能性があります。

 

カテーテルは、低侵襲手技において、小さな切開から血管を通って治療部位にアクセスするために使用されています。これにより、開胸手術のような侵襲性の高い外科手術が不要になります。低侵襲手技は通常、従来の手術より短い時間で終わります。外傷ははるかに小さく、たいていは意識下鎮静状態で実施されます。患者の痛みや不快感は大幅に緩和され、入院やリハビリの期間も短くて済みます。

 

エンジニアはカテーテルの影響をさらに軽減するため、カテーテルをより一層小型化し、カテーテルの両端の間で信号、データ、エネルギーを送受信する機能を付加する事に取り組んでいます。このようなイノベーションは、低侵襲手技の実施は拡大しており、今後も数えきれない患者の治療に有意義に貢献するものと考えられます。

センサベースのスマートカテーテルをより一層効果的にする

カテーテルに標的機能(targeted capability)を追加すると、医師やその患者に大きなメリットをもたらすことができます。 デバイスの先端に画像センサが埋め込まれていれば、医師はリアルタイムで手技をモニタできるため、その有効性が向上するとともに、侵襲性の高い手法に頼る頻度も少なくなります。たとえば、超音波機器の解像度が向上すると、アブレーション処置の標的をより正確に定めることができ、フォローアップ処置が必要となる可能性が低減します。

 

カテーテルは患者の体内をうまく移動できるように小さく繊細に動く必要があるため、デバイス上のスペースは極めて貴重です。つまり、カテーテルのスマート化に特有の課題は、「非常に狭いスペースにセンサ、ケーブル、コネクタをどのように組み込むか」ということになります。そのためには、カテーテルのシャフトに収まる微小なセンサに加えて、それらのセンサからの信号を送受信する接続部と極細のワイヤも作り出す創造的なエンジニアリングが必要です。たとえば、TE Connectivity(以下TE) の IntraSense カテーテル圧力センサは、幅 0.25 mm 未満、厚さ 0.1 mm のサイズにリード線が最初から組み付けられており、カテーテル デバイス内での組み立てと接続が容易になっています。

 

このようなイノベーションは効果的ではありますが、その開発ペースは依然として遅いままです。ある特定の手技の有効性を高める新たなデバイスを開発するには、通常はエンジニアが抜本的なカスタマイズをする必要になります。デバイス製造に対する柔軟なプラットフォームベースのアプローチは、より優れたツールを多くの医師の元に迅速に届けることで、多くの患者を救う新たな可能性を解き放つことができると考えられます。

柔軟なプラットフォームでイノベーションを加速する

イノベーションを加速するには、複雑なセンサとエレクトロニクスの統合に対してより柔軟にアプローチする必要があります。 TEはこの分野に精力的に取り組んでおり、VERSIO™ソリューションなどの多機能なコンポーネントを開発してきました。このソリューションは、コネクタ内に 208 個の端子を配置するスペースがあり、カテーテルとの 1,000 回の嵌合に耐えるよう設計されています。しかし、このような取り組みを単独で行うには限界があります。コンポーネント メーカとデバイス メーカが緊密に協力し、共通のポイント・ソリューションにおいて補完的な機能を提供する技術を統一する必要があります。

 

たとえば、適切に設計されたカスタマイズ可能な量産型シリコン チップの製品群があれば、コンポーネント メーカは標準化されたソリューションを確立し、それを基にデバイス メーカや医師が要求するエレクトロニクスを使用してより簡単かつ迅速にカスタマイズを加えることができます。

 

TE のエンジニアリング チームは、開発プロセス中にお客様のエンジニアと密接に協力して課題やリスクを明確化し、協調しながらソリューションを速やかに実現できるよう尽力します。また、当社には試作品製作と試験を広範に実施する力があり、最適化を早めるために設計サイクルの初期段階でカテーテルのオプションを迅速に評価できます。柔軟なプラットフォームがより強固になり、イノベーションのサイクルが短縮するにつれて、私たちの目の前に広がる可能性はますます大きくなります。

新たな時代に向けた革新的な新しいツールの開発

センサベースのスマート カテーテルの未来をつかむ鍵は、安全性とコストです。 単回使用カテーテルは、二次汚染のリスクを排除することで安全性に優れています。また、複数回の使用や過酷な滅菌に耐える必要がないため、低コストで製造を可能にします。コストの高いコンポーネントや再使用可能なデバイスは、患者、医師、またはデバイスの総合的機能に対する利点によって評価されます。したがって、変化を推進する可能性が最も高い技術イノベーションは、性能や患者の安全性に大幅な改善をもたらすものとなるでしょう。

 

このような進歩の例としては、マイクロアンテナによるワイヤレス データ伝送が挙げられます。これが実装されると、手術に役立つリアルタイムのデータが医師へ提供され、より迅速かつ安全な手技が可能になります。手術中に温度データ、流圧、カテーテル チップにかかっている力の量がわかれば、医師はそれらの情報を基に手技を調整できます。触覚センサや高度な画像センサは、ロボット支援手術の補助に必要な情報を提供するため、医師が今日のデバイスを保持および操作しているときに経験する感覚を再現します。

 

遠隔手術が可能になると、患者と医師の双方にとって安全性が向上すると考えられています。医師は、患者を取り囲むX線照射野の外側から人間工学的に良好な状態で操作できます。イメージングの向上により、医師はX線透視法や造影剤を極力使用せずに自身が今何をしているかを目で見て確認することができ、これは結果的に患者満足度の向上につながります。

 

柔らかくて曲げやすいポリマーや合金などの新しい材料は、補助または自律なナビゲーションを可能にします。これにより、患者の安全性はさらに向上し、医師はこれまで到達するのが困難であった身体部位にアクセスできるようになります。私たちがこれらのデバイス用のより柔軟なプラットフォームの開発に尽力すれば、このようなイノベーションがより早期に達成され、医師と患者にとっての低侵襲手術の姿が大きく変化をもたらすでしょう。

 

近い将来、医師は、患者の体内を移動するカテーテル チップの視点を精細に映し出す仮想現実または拡張現実ヘッドセットを着用し、ロボット インタフェースのコンソールから解剖学的構造をナビゲートし、手や指の動きを治療部位にあるデバイスやツールの動作に変換するナビゲーションや操作アルゴリズムの支援を受けながら手術を行うようになるかもしれません。より先の将来を見据えると、アクセス性をさらに高めて外傷を抑えるため、油圧モーション システムやその他の新技術を基盤とする自己推進デバイスや自動移動デバイスが実現されるでしょう。このようなデバイスには、高度なセンシングと制御に加えて、さらにはある程度の自律性さえも必要となります。

 

当社は医療技術の未来の構築に情熱を注いでいます。これを現実化するため、センサの小型化や材料科学といった、より安全かつ効果的で真にスマートなカテーテルを作り出すために必要な分野で成果を上げるべく、積極的に取り組んでいます。

著者について

Travis Dahlstrom, VP and CTO, Medical

Travis Dahlstrom

Travis Dahlstrom は、TE Connectivityのメディカル事業部のバイスプレジデント兼最高技術責任者を務めています。医療用コンポーネントやデバイスのグローバル エンジニアリング、製品開発、およびイノベーションの戦略方針を統括しています。これまでのキャリアを通して、医療、産業、自動車、食品および飲料、データセンターなどのさまざまな業界をサポートする技術職や指導者的役割を務めてきました。Travis はミネソタ州立大学で機械工学の学位、セント・トーマス大学で MBA を取得しました。

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