TE の視点

商用車の電動化に向けて

トランスポーテ―ション ソリューションズ 部門 バイス・プレジデント兼エンジニアリング、Greg Fehribach

トランスポーテーションの電動化が進んでいます。 しかし、乗用車の電動化の普及が著しく、現在では販売台数の10%以上を超えるようになったこと[1]と比較し、商用車の電動化は後れをとっているように見えるかもしれません。ただし、トラックの販売台数は乗用車の販売台数に追いつけていないとしても、商用車のオンロードEV化分野には想像以上に大きな動きがあります。

 

商用電動バンおよびトラックの世界販売台数は2021年に2倍以上になっています[2]。乗用車市場と同様に、各メーカーは車両のアップグレード計画を意欲的な時間枠で発表しています。大手トラック メーカーは、全体で、ゼロエミッション車両を2030年までに年間販売台数の35%~60%にすることを目標としています。[3] 

 

商用トラック輸送においては、長航続距離の需要や重量の大きさがネックとなってEVの普及が遅れていましたが、商用EVには乗用EVには存在しなかったいくつかの強みがあります。まず、乗用EVが開拓した需要や技術のおかげもあって、商用EVの大規模生産に必要となる市場の需要や基盤技術が大きく発展しています。オフロード商用車市場でも採掘などの用途でEVが大幅に採用されてきています。その結果、オンロードでの普及を加速化させる知見や技術が生まれました。

 

EV技術は、過去の進歩の積み重ねにより、新たな発展を遂げています。その結果、新たな市場セグメントが台頭するたびに、前世代の自動車が経験した問題の多くはすでに解決済みです。TE Connectivity(以下TE)は、乗用EVと商用EVの市場に関する事業展開において 、この現象を日々実感ています。当社は、その直接的な経験から、来るべき革新と相互交流のチャンスをいくつも見出してきました。それらによって最終的には商用車市場全体でのEVの更なる発展に役立てるでしょう。

問題解決に不可欠の要素であるバッテリー技術

大規模で強力な商用EVの実用化には、バッテリー密度が大きな課題として残されています。 大規模で強力な商用EVの実用化には、バッテリー密度が大きな課題として残されています。大型で重量のある車両ほど移動に大きな電力が必要とするため乗EVより温度が高くになります。特にバッテリー技術の進化に伴い、車両の安全性と信頼性を確実に高めるため、商用EVメーカーには充電中や運転中の熱を適切に放散させる電気部品が必要になります。

 

現在コンポーネント技術の進歩は車両に適用され、車両をこれまで以上に効率的にしています。たとえば、TEのPowerTubeコネクタ シリーズでは、電磁パルス技術を利用して接続を圧着します。その結果、抵抗が減少して電力フローが最適化されます。そのモジュラー方式で拡張可能な設計は、バッテリー電力の増加に伴ってメーカーが直ちに活用できる多くの改良点の1つに挙げられます。商用オフロード分野で耐久性とハイパワー運転を実現するように開発されたその他の技術によって、商用EV設計を促進すると考えられます。

 

これらの技術進歩の多くは、オンロードとオフロードの両方の商用EVの効率を向上させます。したがって、業界全体でのソリューションの標準化が促進されています。この標準化は、商用車を電動化するメーカーにとって速やかに利用できる解決策となり、これらの部品が大規模生産されていくにつれて費用対効果の高いソリューションになっていくでしょう。

EV 充電ステーションに接続された電気トラック。

次世代の商用車の電動化

一部のオンロード セグメントは急速に進化しつつある

商用オンロードEV市場は一様ではありません。短距離輸送用EVは長距離輸送用車両よりもはるかに普及が近づいています。 バスやローカル ハブ&スポーク方式の配達車両は、現在のバッテリー技術の最適的な用途です。同時に、これらの車両を拠点で定期的に充電できることで配達担当者は最新のバッテリー技術を十分に活用することができます。

 

これらの市場において初期に導入した企業は、バッテリー駆動車両の恩恵をすでに享受しています。オイル交換は過去のものであり、その燃料費は原油価格と直結するものではありません。炭素排出量の削減以上に、これらの車両は従来のバスやトラックより静かであるため、騒音公害が抑えられます。可動部品が少ないためEV発電プラントのメンテナンスも容易になり、回生ブレーキを使用できるのでブレーキパッドの寿命も長くなります。

研究室で働く自動車エンジニア。

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長距離輸送用分野が最後のフロンティア

バッテリー密度の向上以外に、長距離輸送用EVは他の技術的な課題にも直面しています。幅広い普及を可能にするために解決しなければならない課題です。 たとえば、トラクタートレーラーのホイールベースが長くなったことで、メーカーは、バッテリーからホイールまでの長い距離にわたってエネルギーを伝達する必要があります。そのため、ワイヤと接続が確実に効率的かつ安全に電力を伝達できることが非常に重要です。

 

トレーラーとトラクターの接続には別の課題もあります。その寿命全体にわたって、抜き差しが必要となる回数が多いということです。一般に、乗用EVでは、多数の嵌合サイクル耐えられるように接続を製造する必要がありません。商用トレーラーでは、効率的にエネルギーを伝達し、頻繫な切断・再接続や長距離輸送中の激しい振動に耐えられる気密の高い接続が必要です。TEは、この問題に対処するために、ゼロフォース挿入モデルなどの技術の可能性を探り続けています。

 

業界では広範囲にわたる充電インフラストラクチャのアップグレードも必要になります。長距離輸送用EVが充電ステーション間を移動しながら迅速に再充電を行って配達スケジュールに確実に対応できるようにするためです。その電力量を生産して送電網を通じて供給するために、電気インフラストラクチャに対してさらなるイノベーションと投資を行い、商用トラック輸送セグメント全体のEV車両の拡大をサポートすることが必要です。 

 

とはいえ、長距離輸送用車両は持続可能性向上のために一直線にEVに移行する必要はありません。業界でバッテリー密度の改善と充電インフラストラクチャの堅牢化が期待されている中で、長距離輸送の商用車事業者は次第にハイブリッドソリューションを利用しやすくなっていくでしょう。TEは、ハイブリッド車のバッテリー部分を従来のエンジンに組み込むために必要となる高電圧コネクタとワイヤハーネスの製造をすでに行っています。

商用車両電動化の未来は想像より近い可能性がある

EV 技術の継続的な進歩により、商用車の電動化の動きが加速しています。 今後2~5年で都市部でのハブ&スポーク方式EV車両がより多く導入されることが予想されます。長距離輸送用途では、今後10年ほどバッテリー技術や充電技術の進化が続いてハイブリッド車の台数が増加すると考えられます。

 

同時に、TEは将来を見据えてさらなる技術の変化をサポートする準備を進めています。バッテリーからホイールまで電気を最大限効率的に伝達する電子部品の開発に加えて、EV電力システムが他のシステムに干渉することなく動作するように、シールドなどの構成要素に十分配慮しています。また、データ通信ケーブルは、半自律型車両や完全自律型車両に必要となるリモートカメラをサポートするためにも重要であり、運送業者の安全性と効率性を向上させることができます。

 

これらの長期にわたる進歩は、今日の乗用EVやオフロードEVで確立された堅牢な基盤に基づいて進められます。電子部品が進化してバッテリーが強力になるにつれて、商用EV市場のすべてのセグメントで電動化が急速に実現していくでしょう。

著者について

Greg Fehribach, トランスポーテ―ション ソリューションズ 部門 バイス・プレジデント兼エンジニアリング

Greg Fehribach

Greg Fehribach は、TEのトランスポーテ―ション ソリューションズ 部門のバイス・プレジデント兼エンジニアリングを務めています。Gregは、オンハイウェイ用途およびオフハイウェイ用途のグローバル エンジニアリングと製品研究およびイノベーションの戦略方針を決定します。現在の役職に就く前は、TEの産業・商用輸送事業部とアプリケーション ツーリング部門の最高技術責任者を務めていました。Cummins Inc.においていくつものシニアリーダーとして多数の役割を担っていました。インディアナ大学で機械工学の修士号を取得し、ルイビル大学でMBEを取得しています。

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