TE の視点

あらゆるものの電化

1 世紀以上にもわたり、化石燃料とガソリンエンジンは世界経済を支えてきました。しかし、今後は電気が未来を動かすエネルギー源になるでしょう。 世界中で気候変動対策と二酸化炭素排出量削減に向けて、意欲的な目標を掲げた取り組みがなされています。エンジニアたちは、私たちが毎日使っている自動車や機械の電気的な代替品の実用化に奮闘しています。

 

こうした「あらゆるものの電動化」は、道路、鉄道、海上、航空から、工場や倉庫などの製造現場まで、人や貨物の移動が発生するあらゆる場所で行われています。どのような状況であっても、電気推進の基本的な概念が適用されますが、バッテリー容量、電力伝送、航続距離、充電時間といった具体の技術的な課題は、用途に応じて大きく異なります。

 

TE Connectivity(以下TE) は電気接続および材料科学分野における数十年の実績をもとに、こうした課題を解決するために最前線で取り組んでいます。ここでは、電気の未来を実現するための、主要な産業で達成されているいくつかの技術革新事例をご紹介します。 

自動車: 安全性と信頼性の高い商用車の実現

自動車業界における電動化は、内燃機関の商用化以来の最大の技術的変化ですが、その発展は驚くほど進んでいます。 2021 年、、乗用 EV の売上は倍増しました.。これは、エンジニアがサイズ、重量、電力を最適化し続け、EV の航続距離を拡大してきた成果です。同時に、ハイパワーや急速充電の進化、充電インフラの拡大も、運転手が抱く航続距離の不安を大きく軽減しています。

 

トランスポーテーション分野での電動化における次のステップは、トラック、バスなどの大型商用車の電力出力を向上させることであり、さらに大きな技術的な課題が伴います。重量物を動かすために、より大きなストレージ容量と電力出力が必要されますが、バッテリー密度を向上させることは不可欠です。たとえば、電気バスは平均的な乗用 EV の約 5 倍ものバッテリー容量を必要とします。配送車両や輸送車両をスケジュール通り運行するには、所要時間を短縮するための超急速充電も欠かせません。

 

しかし、充電器からバッテリーへ、より大きなエネルギーの伝送が車両内で行われると、大量な熱が発生します。このため、商用車においては安全面に十分な注意を払う必要があります。TE はハイパワーコンポーネントおよびケーブルアセンブリの開発において豊富な専門知識を持ち、優れた電気特性を実現するための先進的な材料にも注力しています。商用 EV 業界に対して、安全性と信頼性を実現し、性能要件を満たせるように、貢献しています。 

EV 充電ステーションで電気自動車を充電する男性
EV充電インフラの未来に向け製品設計

鉄道: 空気力学の向上とディーゼル炭水車の置き換え

自動車と異なり、旅客列車は 1 世紀以上も前から電動化が進んでいます。 電気鉄道ネットワークが確立されている国であっても、最新の高速列車を実現するため、速度と効率性の向上を追求しています。

 

TEは鉄道会社と協力し、各種のコンポーネントを使用して、鉄道のサイズ、重量、空気力学のプロファイルを向上させています。たとえば、低背の屋根上ソリューションは、前進抵抗を低減して効率性を高めるだけでなく、鉄道車両内の利用可能な空間を広げます。

 

バッテリー駆動の炭水車という新たな技術は、いまだに旧来のディーゼル機関車が運行されている地方にまで電気鉄道を拡張するという、大きな可能性をもたらします。バッテリー式の電気機関車は、カリフォルニアですでに運用されています。今後、大容量のバッテリー
。パックや急速充電ソリューションが引き続き改善されれば、各国ではディーゼル式炭水車を、よりクリーンなバッテリー駆動モデルに置き換えることができるでしょう。完全に電動化された鉄道システムを開発するための投資額も、大きく低減することができます。

電動化された鉄道システムを走る鉄道
鉄道&メトロパワーソリューション

航空: アーバン エア モビリティ時代の到来

プロペラ駆動の小型電動航空機しか実用化されていないものの、航空業界はここ数年間で、電動航空機という目標に向け、いくつもの重要な段階を経て着実に前進しています。 航空機の電動化における第一段階は、飛行制御、ブレーキなどの油圧システムおよび機械システムを電化機器に置き換え、軽量化と効率性の向上を図ることでした。現在、メーカー各社が試験を行っているのは、ゲートを行き来する際の地上走行に使用される電気モータや、ハイブリッド推進システムです。ハイブリッド推進システムは、離陸時や上昇時には燃料燃焼エンジンを使用し、巡航中は効率性の高い電気モータに切り替わる仕組みです。

 

推進システムを完全に電動化することで、電動垂直離着陸機 (eVTOL) を実現できます。これは、まったく新しいクラスの短距離航空機であり、エアタクシーサービス、航空輸送の自動化、あるいは個人用航空機にも適しています。映画の中でしか見られなかったものですが、今や多くの企業が実用化しようとしており、すぐに主流となることが予想されます。この技術が一般の人々の目に触れる機会となりそうなのが、2024 年夏季オリンピックの開催地となるパリでは、会場間の輸送にeVTOLを使用することを計画しています。

 

このような背景から、eVTOL市場では、オペレーターが飛行時間の最大化を求めていることを踏まえ、重量やパワーを最適化することの重要性がますます高まっています。このような複雑で難しい課題に加え、eVTOLのパワートレインでは存分な冗長性を確保する必要があります。バッテリーの消耗は、自動車であれば不便が生じるだけですが、航空機にとっては重大な安全上の問題につながります。このため、TEはeVTOLメーカー各社と協力し、航空機の軽量化と信頼性の向上を実現しつつ、冗長性をも確保する、より小型で軽量の、信頼性の高いさまざまなコンポーネントを開発しています。 

 

自動車と比較すると、eVTOLは高度な自律性備え、都会の上空で機体を誘導するための大量のデータを生成する、数多くのセンサを必要とします。電力と高速光ファイバデータ転送を組み合わせた TE の高度なハイブリッドケーブルを利用することで、メーカーは機体にさらなる重量を増やすことなく、帯域幅と電力のニーズを満たすことができます。 

シミュレーション画像内で街中を飛行する eVTOL

産業車両: 電動フォークリフトと AGV のためのエコシステムの構築

工場や倉庫では、より具体的な技術革新が進展しています。産業機器ユーザーはフォークリフトなど、従来のガソリン駆動による手動車両から、無人搬送車 (AGV) などの新しい機器へと移行しています。 小型のバッテリーでも、こうした車両の電力と航続距離に関する要件を満たすことはできますが、重要な課題は、車両の稼働時間を維持することです。

 

今日製造と出荷の需要を満たすためには、フォークリフトや無人搬送車 はほぼ連続的に稼働する必要があります。つまり、固定された充電ステーションにこれらの車両を長期間接続しておくことは、現実的な選択肢ではありません。電動化を進める上で製造業界に求められているのは、高速充電を可能にする分散型インフラストラクチャであり、たとえば施設内の数箇所に戦略的に配置された充電ポートにより、稼働中で補てん充電を可能にするようなシステムです。TEはこのような充電システムを支援する上で、車両の電気システムにおけるすべてのコンポーネントに対し、その充電システムがどのような影響を与えるのかを検証します。たとえば、専用の充電インレットや、高い稼働率を維持するように設計されたコンポーネントなどが必要になるでしょう。

工場で再充電する電動フォークリフト

世界を一新する人材の育成

業界や最終製品に関係なく、あらゆるものの電動化を実現する画期的なイノベーションを生み出す、適切な人材を見つけることは重要です。 エンジニアは、従来必要とされてきた電気的、電子的、機械的な技能だけでなく、広範な温度範囲で確実に動作する高電圧システムを設計するスキル、さらにはこうした過酷な環境でも動作する新素材を開発するスキルも身に付ける必要があります。また、どの分野の設計者でも、かつては主にエアロスペースの設計に限定されていた、サイズ、重量、性能の変動要因にも注目することが必要とされてきています。製造現場では、ほぼあらゆる製品に高度なインテリジェンス機能や自動化機能を埋め込むため、ソフトウェアに関するスキルの需要は引き続き高くなります。

 

こうした新たな能力が必要とされていることから、TE のような企業にとって、積極的に関与する人材と、最先端の技術力と顧客重視を維持するように強力な専門開発プログラムを設計することが重要です。私たちとともに、電気の未来を実現するイノベーションを生み出しましょう。

 

著者について

Davy Brown, Vice President and Chief Technology Officer, Industrial Solutions

Davy Brown

Davy Brown は、TE のTransportation Solutionsセグメントのバイス・プレジデント兼最高技術責任者を務めています。この役職での同氏は、オートモーティブ、ICT(建機農機、トラック、2輪)、センサ、アプリケーションツーリングの各事業部において、グローバル エンジニアリングと製品研究およびイノベーションの戦略方針の策定を担当しています。これまでのキャリアを通して、半導体、ソフトウェア、民生機器、通信などの各種産業にわたる技術企業で、上級テクノロジーリーダーや経営幹部の役割を歴任してきました。