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概要

リレー接点の寿命/負荷性能の強化

はじめに

このアプリケーション ノートの全体にわたって、「リレー」という語で言及している内容は概して「コンタクタ」にも当てはまる可能性があります。同様に、「通信機器用リレー」の用途について特に言及している部分はほとんどありません。一般に、正しいコイル駆動の必要性はコンタクタと通信リレーにも等しく当てはまります。ただし、接点負荷による内部およびコイルの温度上昇が通信機器用途で問題になることはほとんどありません。

 

適切なコイル駆動は、正しいリレー動作と優れた負荷性能や寿命性能にきわめて重要です。リレー (またはコンタクタ) が適切に動作するためには、コイルが適切に駆動する必要があります。これは、その用途で発生する可能性があるあらゆる条件において、接点が正しく閉じ、閉じた状態を保持できるようにする、およびアーマチュアが完全に固定され、固定された状態を保持できるようにするためです。

 

コイルの種類が DC か AC かにかかわらず、AC 負荷寿命に対するすべてのリレー接点の定格は、AC 電力ラインのサイクルを基準としてランダムにスイッチングが行われること、つまり長期的なサイクル全体を通じて均等に分散され、正のサイクルでも負のサイクルでも、等しい可能性でスイッチングが発生することが前提となっています。そのため、接点の開閉について制御ハードウェアおよびソフトウェアで誤ってライン同期を発生させないように注意する必要があります。これは接点の摩耗が不均一になったり早く進行したりする原因となり、早期の故障につながるおそれがあります。

 

リレーは電磁石であり、リレーを作動させる磁場の強さはアンペア回数 (AT) の関数として決まります (つまりワイヤの巻き数とそのワイヤを流れる電流の積によって決まります)。「巻き数」が事後に変化することはないため、用途における可変要素はコイル電流のみとなります。

 

DC コイル電流は、印加電圧とコイルの抵抗によってのみ決定されます。電圧が低下する、または抵抗が上昇すると、コイル電流は低下します。AT が減少するため、コイルの磁力は弱くなります。

 

AC コイル電流も印加電圧およびコイル インピーダンスによって同様の影響を受けますが、インピーダンス (Z) は Z=sqrt(R2 + XL 2) と定義されるため、コイル抵抗に対する変化だけで考えると、AC コイルに対する直接的な影響は DC コイルよりもある程度低くなります。

 

時間とともに電力供給が変化すると、印加されるコイル電圧も変化します。制御設計では、その制御動作が保証される入力電圧の範囲を定義 (通常は公称値の +10%/-20%) し、その電圧範囲での正常な動作を保証するように制御設計で補償する必要があります。

 

変動は印加電圧だけでなく、リレー コイル抵抗でも同様に存在します。まず、コイル抵抗には製造上の公差 (通常は +/-5% または常温で +/-10%) があります。次に、コイル ワイヤの抵抗は温度に対して正比例の関係にあり、ワイヤの温度が上昇するとコイル抵抗も上昇し、ワイヤの温度が低下するとコイル抵抗も低下します。これは以降で図示しますが、アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」ではさらに詳しく説明しています。

コイル性能に対する温度の影響

コイル抵抗と温度の関係 (グラフ):

図 1. コイル抵抗と温度の関係 (グラフ)

専門用語の定義

  • コイル抵抗 - リレー コイルの DC 抵抗は、通常は「常温」(一般的には 23°C) での値が示されています。アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」もご覧ください。
  • 動作 (吸引) 電圧 - リレー アーマチュアがコイル コアに対して固定される最低電圧。固定される位置が完全作動位置と想定される。
  • 復帰 (ドロップアウト) 電圧 - リレー アーマチュアが非作動位置に復帰する最高電圧。
  • 保持電圧 - 通電後に完全作動位置からの認識可能な移動がアーマチュアで発生しないようにするために必要な最低電圧(この電圧は、通常はデータシートで指定されておらず、製造時に管理されていません)。この電圧については、コイル電力の低減に関するこの後のセクションで詳しく説明します。また、アプリケーション ノート「DC リレー コイルの電力を低減する方法」でも詳しく説明しています。

悪条件下での DC コイル電圧の補償

注: これ以降、DC コイル リレーには常に適切なフィルタ処理が行われた DC 電力が供給されていることを前提として説明を進めます。別途記載されていない限り、フィルタ処理されていない半波形または全波形は前提としていません。また、データシートの情報は常温 (別途記載されていない限り、通常は23°C) を前提としています。

一般的な DC リレー コイル駆動回路

ダイオード CR1 の役割は、電源をオフにしたときにリレー コイル K1 から逆流する「キックバック」電圧を吸収し、ドライバ Q1 を保護することですが、負荷寿命の低下につながる可能性がある接点のドロップアウトを遅らせる効果もあります。ツェナー Z1 はオプションですが、使用することで CR1 のドロップアウト遅延効果が低減されます。Z1 ツェナーの電圧は、トランジスタ Q1 の PIV の 80% を超えない範囲で選択します。

図 1.

フィルタ処理されていない半波形または全波形 DC コイル電力を使用する場合、コイルを通るようにダイオード CR1 を配置する (そして Z1 を使用しない) 必要があります。これによりエネルギがコイルを再循環し、電力波形の低電圧部分をライドスルーできます。アーマチュアの復帰やノイズが発生することはありません。助言については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。条件は、リレーやコンタクタの種類および回路設計によって大きく変化します。あるリレーが問題なく対応できる条件でも、別のリレーではまったく対応できない場合もあります。

 

リレーにとって最悪の動作条件となるのは、低い供給電圧、大きなコイル抵抗、高い気温という条件に、接点の電流負荷が高い状況が重なったときです。リレー コイルにおける電流の充電率と放電率は、インダクタンスを抵抗値で除算した値 (L/R) によって定義され、リレー コイルの作動時間に影響します (ダイオードまたはツェナー ダイオードがスナバ回路に接続されている場合は復帰時間にも影響します)。L/R は、リレーの種類やコイル電圧、気温によっても変化します。これは同様に、作動や復帰のタイミング、さらには半波形および全波形動作の許容範囲の変化としても表れます。各用途では、このような要素のすべてを考慮する必要があります。

 

コイルに実際に印加される必要な最小電圧が維持されるように、直列ダイオードやトランジスタ (特にダーリントン トランジスタ) などによるコイル回路での電圧降下を差し引いて考え、補正することが重要です。

 

コイル ワイヤに流れる電流によってリレーで発生する I2 R 損失を原因とした自己発熱と、接点アームおよび端子に流れる負荷電流によって、コイルおよび内部部品には、気温の上昇だけでなく、さらなる熱が発生することになります。実際のコイル温度の計算時には、このようなすべての要素を考慮する必要があります。

 

設計者は、必ずコイル抵抗の上昇や回路損失、AT の低下に合わせて入力電圧を補正する必要があります。これは最悪の条件下でも、信頼性の高いリレー動作を実現し、アーマチュアが完全に固定され、完全な接触力が加えられた状態を維持できるようにするためです。接点が閉状態でもアーマチュアが完全に固定されていない場合は、接触力が低くなるため接点が過熱状態になり、高電流の印加時にタック溶接が発生しやすくなります。

 

  • 注: AC コイルについても同様の補正を行いますが、抵抗値の変化による AC コイル インピーダンスへの影響 (およびそれに伴うコイル電流への影響) は、DC コイルの場合のような直線的なものではなく、Z=sqrt(R2 + XL 2) という式によって導かれます。

 

この問題の詳しい説明については、アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」をご覧ください。

コイルの駆動設計に関するその他の考慮事項

  • 公称コイル電圧におけるコイルの最大温度 (アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」に従って算出)、最大負荷、最高気温は、選択したリレーの「絶縁温度クラス」(A、B、F、H - (それぞれ 105°C、130°C、155°C、180°C)) について UL または CSA で許容されている最高気温を超えてはなりません。 
  • リレーの負荷が高く、最終アセンブリで密に詰め込まれている場合、または発熱するコンポーネントの近くに配置されている場合は、通常よりも高いコイル温度の上昇が予期されるため、同様に定義および補償する必要があります。
  • これまでに取り上げたすべての熱源について考慮し、絶縁システムの制限を超える温度にならないよう維持して、コイルの適切な駆動を確保する必要があります。
  • リレーは電磁石であるため、付近にある変圧器やリレーまたはコンタクタ、高電流導体など、外部からの磁場による影響を受けやすく、そのすべてがリレーの動作および復帰特性に影響する可能性があります。同様に、リレーおよびコンタクタは、その周囲にある磁力の影響を受けやすいコンポーネントの性能に影響を及ぼす可能性があります。
  • 最終的なテストは、リレーを最大の負荷、最高気温、最小の給電という条件下に置き、最終アセンブリの状態で実施します。このような条件下で、コイル温度の上昇 (およびそれに伴う抵抗値の変化) を再評価し、供給電圧が低くても信頼性の高い状態でリレーを駆動できること、および最大の供給電圧、負荷電流、気温という条件下でも過熱を起こさないことを保証できる十分な安全率が確保されていることを確認します。
  • AC コイルに固有の特性については、このアプリケーション ノートの後半で詳しく説明します。
  • DC コイルの場合、初期動作のコイル電流の波形は、図「B」ではなく図「A」のようになります。
図「A」. 正常なトランジション

図「A」. 正常なトランジション

図「B」. 常なトランジション

図「B」. 異常なトランジション

コイル電流のトランジションが図「B」(アーマチュアが一時的に「ストール」していて、しっかりと固定されていない) のようになっている場合は、駆動電流に何らかの異常があるため、修正する必要があります。

残留磁気システムを使用した DC コイル ラッチング リレー

残留磁気を使用する DC ラッチング リレーは、「SET」にして再度「RESET」するために、短時間だけ給電する必要がある特殊な DC コイルです。このコイルは、通常は「SET」または「RESET」のいずれかのモードで継続的に給電することを意図していません。

  • DC リレーの適切なコイル駆動および上昇した気温に対する補正などについてこれまでに述べてきたすべての内容は、印加されたコイル電圧によるコイルの加熱には適用されません。
  • このようなリレーには、印加電圧とタイミングの正確性の両方について、単安定リレーよりもはるかに厳しい要件が存在します。 

SET 電圧は、通常は公称定格電圧の 120% を超えてはなりません。一方 RESET 電圧は、公称電圧の 120% を決して超えてはならず、最大でも 110% に収めるのが適切です。これを超えると、磁気システムの「アップセット」(RESET になった後で再度 SET になる) が発生するリスクが上昇します。広い気温範囲が必要になる場合は、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。

 

SET および RESET の最小時間間隔は、リレーのデータシートに示されています。これらの最小時間は、接点を逆の状態に切り替えるために必要な実際の時間よりもかなり長くなっています。この余分な時間は、各ステップで磁気システムを適切に「帯電させる」ために必要です。

 

  • 同様に、電源として放電コンデンサを利用する「チャージ ポンプ」などのパルス コイルによる駆動スキームは、磁気システムで許容される最大 AT を超過することなく、リレーを SET または RESET に切り替えるのに適切な時間間隔にわたり十分な電流を維持するのが非常に困難ため推奨されません。これは特に RESET の状態の場合に該当します。

AC コイル リレーおよびコンタクタの特性

AC コイルを使用するリレーおよびコンタクタには、DC を使用するタイプとの間に、いくつかの重要な相違点が存在します。これは、AC 電源が持つ正弦特性によるものです。

  • 一部の AC リレーは、正常に動作していても「ハム音」がよく聞かれます。これは、リレーごとに異なる場合もあれば作動時ごとに異なる場合もあり、製品寿命を通して変化する場合もあります。「ハム音」とは、リレーまたは接点の内部部品の動きから生じる音ではありません。一方、「ビビリ音」や「チャタリング」は内部部品の物理的な動きから生じるため音が大きく、性能の大幅な低下につながるため、発生は許容されません。
  • AC リレーが内部的に AC 正弦波と同期することはありません。これは、AC 正弦波の部分が、リレーのメカニズムを作動させるのに十分なエネルギを持っていないためです。そのため、リレーの動作および復帰のタイミングが正しく機能しないポイントが存在することになります。
  • この現象により、DC リレーよりも動作タイミングおよび復帰タイミングの変動が大きくなり、多くの場合、接点またはアーマチュアの跳動やチャタリングが増加します。そのすべては、コイル電力接続時または切断時の正弦波の正確な位置に依存し、初期動作時の接点の過大な跳動またはチャタリングの原因となる場合があります。
  • そのため、AC リレーの定格は、同じ製品群の DC リレーよりも低くなるのが一般的です。これは 1) 先ほど説明したとおり、正弦波には低エネルギのスポットが存在するため、どちらの極性についてもサイクル全体を通じて AC リレーの接点がランダムにブレークされることがないこと、および 2) これにより正弦波の高エネルギ部分でメークまたはブレークが発生する確率が極端に高くなることが原因です。このような特徴のすべてが、AC コイル デバイスにおける接点定格または接点寿命の低下につながります。
  • AC コイル リレーは、DC タイプよりも高い温度で動作するのが一般的です。そのため通常は、許容される最高気温は DC モデルよりも低くなります。
  • 同様に、トライアックまたは直結された SCR によって駆動される AC コイル リレーは、寿命が短くなる傾向があります。このようなデバイスは、ON にゲート制御できるのが一般的で、サイクルのどの時点でも発生します。また、どの時点でも OFF にゲート制御できますが、デバイスを流れる電流がゼロになるまでは、実際には遮断されるわけではありません。そのため、パワー サイクルのほぼ固定されたポイントで、接点が負荷を「ブレーク」することになります。リレーの「復帰時間」により、ほぼゼロの電流を実現できる場合、性能は平均よりも高くなりますが、ピーク電流に近い場合は性能がかなり低下します。データシートおよび安全機関が示す負荷寿命の定格は、レポートに別途記載されていない限り、このような同期状態ではなく、AC 正弦波を基準とした完全にランダムなサイクルに基づいています。

コイル電力の低減スキーム (DC コイル リレーのみ)

場合によっては、合計制御消費電力を低減し、温度上昇を抑えることが理想的です。これを実現する方法の 1 つが、ラッチ機構を備えたリレーの使用ですが、このようなリレーは比較的高コストであり、電源障害の発生時にリレーの状態が定まらない可能性があります。これに代わる方法が、以下のいずれかの手法を使用して標準の DC コイル リレーにおけるコイルの電力消費量を低減することです。

  • PWM (パルス幅変調) - このスキームでは、リレー機構の作動と安定化を目的として、公称コイル電圧またはそれよりも少し高い電圧で DC コイルまたはコンタクタが短時間の初期動作を行います。その後は、低い印加電力でリレーの動作状態を維持するため、指定された振幅、デューティー サイクル、周波数の矩形波パルス列によってコイルが駆動されます。
  • ステップダウン DC コイル駆動 - PWM と同様に、この手法ではリレー機構の作動と安定化を目的として、公称の定格 DC コイル電圧でリレーが短時間の初期動作を行います。その後は DC 電圧のレベルを低減し、低い印加電力でリレーの動作状態を維持します。
  • 注意 - 「チャージ ポンプ」などのスキームを使って同じ目的を達成することもできますが、このようなデバイスでは電源として充電または放電コンデンサを使用します。そのため非矩形の波形となり、十分な時間間隔にわたりリレー コイルに安定した適切なコイル電力を印加することが非常に困難になります。このような動作は、コイル電力を低減しながらリレーを適切に作動させる、あるいは適切な動作状態を維持するために必要です。一般的に使用されているスキームですが、適切なコイル駆動の確保が困難なことから推奨されません。

 

同様に、コイル電力の低減によりリレーの保持電圧も低くなるため、用途における衝撃および振動に対する耐性も低下する点に常に注意する必要があります。

 

このような手法すべてに対応するリレー製品群固有の情報については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。リレーは、すべて同じように動作するわけではありません。

接点の負荷/寿命性能の強化

  • ゼロクロス同期 - DC コイル リレーは、さまざまな手法を使って、公表されている負荷定格および寿命定格よりも優れた性能を発揮させることができます (ランダムにスイッチングが発生する AC 負荷に対して)。これには、「メーク」時の負荷電圧波形および「ブレーク」時の負荷電流波形に対する接点のゼロクロス同期が、何らかの形で伴うことになるのが一般的です。適切に実施することで、抵抗負荷の使用時、反応負荷の使用時、そして特に高突入電流の容量性負荷および電灯負荷の使用時に、スイッチング寿命の大幅な改善を実現できます。

 

ゼロクロス付近で非常に正確なスイッチングを行った場合、「メーク」と「ブレーク」のどちらについても、接触抵抗の上昇に関連する接点性能の問題も複数発生します。これは、スイッチング アークの消弧により、リレーの寿命全体にわたって一般的に発生する接点の酸化物および汚染物質を低減する「セルフクリーニング」が行われなくなるためです。

 

これは本質的に複雑なプロセスであるため、アプリケーション ノート「接点の負荷/寿命性能の強化」で別途詳細に説明しています。

 

この手法に対応するリレー製品群固有の情報については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。リレーは、すべて同じように動作するわけではありません。

リレー接点の寿命/負荷性能の強化

はじめに

このアプリケーション ノートの全体にわたって、「リレー」という語で言及している内容は概して「コンタクタ」にも当てはまる可能性があります。同様に、「通信機器用リレー」の用途について特に言及している部分はほとんどありません。一般に、正しいコイル駆動の必要性はコンタクタと通信リレーにも等しく当てはまります。ただし、接点負荷による内部およびコイルの温度上昇が通信機器用途で問題になることはほとんどありません。

 

適切なコイル駆動は、正しいリレー動作と優れた負荷性能や寿命性能にきわめて重要です。リレー (またはコンタクタ) が適切に動作するためには、コイルが適切に駆動する必要があります。これは、その用途で発生する可能性があるあらゆる条件において、接点が正しく閉じ、閉じた状態を保持できるようにする、およびアーマチュアが完全に固定され、固定された状態を保持できるようにするためです。

 

コイルの種類が DC か AC かにかかわらず、AC 負荷寿命に対するすべてのリレー接点の定格は、AC 電力ラインのサイクルを基準としてランダムにスイッチングが行われること、つまり長期的なサイクル全体を通じて均等に分散され、正のサイクルでも負のサイクルでも、等しい可能性でスイッチングが発生することが前提となっています。そのため、接点の開閉について制御ハードウェアおよびソフトウェアで誤ってライン同期を発生させないように注意する必要があります。これは接点の摩耗が不均一になったり早く進行したりする原因となり、早期の故障につながるおそれがあります。

 

リレーは電磁石であり、リレーを作動させる磁場の強さはアンペア回数 (AT) の関数として決まります (つまりワイヤの巻き数とそのワイヤを流れる電流の積によって決まります)。「巻き数」が事後に変化することはないため、用途における可変要素はコイル電流のみとなります。

 

DC コイル電流は、印加電圧とコイルの抵抗によってのみ決定されます。電圧が低下する、または抵抗が上昇すると、コイル電流は低下します。AT が減少するため、コイルの磁力は弱くなります。

 

AC コイル電流も印加電圧およびコイル インピーダンスによって同様の影響を受けますが、インピーダンス (Z) は Z=sqrt(R2 + XL 2) と定義されるため、コイル抵抗に対する変化だけで考えると、AC コイルに対する直接的な影響は DC コイルよりもある程度低くなります。

 

時間とともに電力供給が変化すると、印加されるコイル電圧も変化します。制御設計では、その制御動作が保証される入力電圧の範囲を定義 (通常は公称値の +10%/-20%) し、その電圧範囲での正常な動作を保証するように制御設計で補償する必要があります。

 

変動は印加電圧だけでなく、リレー コイル抵抗でも同様に存在します。まず、コイル抵抗には製造上の公差 (通常は +/-5% または常温で +/-10%) があります。次に、コイル ワイヤの抵抗は温度に対して正比例の関係にあり、ワイヤの温度が上昇するとコイル抵抗も上昇し、ワイヤの温度が低下するとコイル抵抗も低下します。これは以降で図示しますが、アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」ではさらに詳しく説明しています。

コイル性能に対する温度の影響

コイル抵抗と温度の関係 (グラフ):

図 1. コイル抵抗と温度の関係 (グラフ)

専門用語の定義

  • コイル抵抗 - リレー コイルの DC 抵抗は、通常は「常温」(一般的には 23°C) での値が示されています。アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」もご覧ください。
  • 動作 (吸引) 電圧 - リレー アーマチュアがコイル コアに対して固定される最低電圧。固定される位置が完全作動位置と想定される。
  • 復帰 (ドロップアウト) 電圧 - リレー アーマチュアが非作動位置に復帰する最高電圧。
  • 保持電圧 - 通電後に完全作動位置からの認識可能な移動がアーマチュアで発生しないようにするために必要な最低電圧(この電圧は、通常はデータシートで指定されておらず、製造時に管理されていません)。この電圧については、コイル電力の低減に関するこの後のセクションで詳しく説明します。また、アプリケーション ノート「DC リレー コイルの電力を低減する方法」でも詳しく説明しています。

悪条件下での DC コイル電圧の補償

注: これ以降、DC コイル リレーには常に適切なフィルタ処理が行われた DC 電力が供給されていることを前提として説明を進めます。別途記載されていない限り、フィルタ処理されていない半波形または全波形は前提としていません。また、データシートの情報は常温 (別途記載されていない限り、通常は23°C) を前提としています。

一般的な DC リレー コイル駆動回路

ダイオード CR1 の役割は、電源をオフにしたときにリレー コイル K1 から逆流する「キックバック」電圧を吸収し、ドライバ Q1 を保護することですが、負荷寿命の低下につながる可能性がある接点のドロップアウトを遅らせる効果もあります。ツェナー Z1 はオプションですが、使用することで CR1 のドロップアウト遅延効果が低減されます。Z1 ツェナーの電圧は、トランジスタ Q1 の PIV の 80% を超えない範囲で選択します。

図 1.

フィルタ処理されていない半波形または全波形 DC コイル電力を使用する場合、コイルを通るようにダイオード CR1 を配置する (そして Z1 を使用しない) 必要があります。これによりエネルギがコイルを再循環し、電力波形の低電圧部分をライドスルーできます。アーマチュアの復帰やノイズが発生することはありません。助言については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。条件は、リレーやコンタクタの種類および回路設計によって大きく変化します。あるリレーが問題なく対応できる条件でも、別のリレーではまったく対応できない場合もあります。

 

リレーにとって最悪の動作条件となるのは、低い供給電圧、大きなコイル抵抗、高い気温という条件に、接点の電流負荷が高い状況が重なったときです。リレー コイルにおける電流の充電率と放電率は、インダクタンスを抵抗値で除算した値 (L/R) によって定義され、リレー コイルの作動時間に影響します (ダイオードまたはツェナー ダイオードがスナバ回路に接続されている場合は復帰時間にも影響します)。L/R は、リレーの種類やコイル電圧、気温によっても変化します。これは同様に、作動や復帰のタイミング、さらには半波形および全波形動作の許容範囲の変化としても表れます。各用途では、このような要素のすべてを考慮する必要があります。

 

コイルに実際に印加される必要な最小電圧が維持されるように、直列ダイオードやトランジスタ (特にダーリントン トランジスタ) などによるコイル回路での電圧降下を差し引いて考え、補正することが重要です。

 

コイル ワイヤに流れる電流によってリレーで発生する I2 R 損失を原因とした自己発熱と、接点アームおよび端子に流れる負荷電流によって、コイルおよび内部部品には、気温の上昇だけでなく、さらなる熱が発生することになります。実際のコイル温度の計算時には、このようなすべての要素を考慮する必要があります。

 

設計者は、必ずコイル抵抗の上昇や回路損失、AT の低下に合わせて入力電圧を補正する必要があります。これは最悪の条件下でも、信頼性の高いリレー動作を実現し、アーマチュアが完全に固定され、完全な接触力が加えられた状態を維持できるようにするためです。接点が閉状態でもアーマチュアが完全に固定されていない場合は、接触力が低くなるため接点が過熱状態になり、高電流の印加時にタック溶接が発生しやすくなります。

 

  • 注: AC コイルについても同様の補正を行いますが、抵抗値の変化による AC コイル インピーダンスへの影響 (およびそれに伴うコイル電流への影響) は、DC コイルの場合のような直線的なものではなく、Z=sqrt(R2 + XL 2) という式によって導かれます。

 

この問題の詳しい説明については、アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」をご覧ください。

コイルの駆動設計に関するその他の考慮事項

  • 公称コイル電圧におけるコイルの最大温度 (アプリケーション ノート「コイル電圧および温度補償」に従って算出)、最大負荷、最高気温は、選択したリレーの「絶縁温度クラス」(A、B、F、H - (それぞれ 105°C、130°C、155°C、180°C)) について UL または CSA で許容されている最高気温を超えてはなりません。 
  • リレーの負荷が高く、最終アセンブリで密に詰め込まれている場合、または発熱するコンポーネントの近くに配置されている場合は、通常よりも高いコイル温度の上昇が予期されるため、同様に定義および補償する必要があります。
  • これまでに取り上げたすべての熱源について考慮し、絶縁システムの制限を超える温度にならないよう維持して、コイルの適切な駆動を確保する必要があります。
  • リレーは電磁石であるため、付近にある変圧器やリレーまたはコンタクタ、高電流導体など、外部からの磁場による影響を受けやすく、そのすべてがリレーの動作および復帰特性に影響する可能性があります。同様に、リレーおよびコンタクタは、その周囲にある磁力の影響を受けやすいコンポーネントの性能に影響を及ぼす可能性があります。
  • 最終的なテストは、リレーを最大の負荷、最高気温、最小の給電という条件下に置き、最終アセンブリの状態で実施します。このような条件下で、コイル温度の上昇 (およびそれに伴う抵抗値の変化) を再評価し、供給電圧が低くても信頼性の高い状態でリレーを駆動できること、および最大の供給電圧、負荷電流、気温という条件下でも過熱を起こさないことを保証できる十分な安全率が確保されていることを確認します。
  • AC コイルに固有の特性については、このアプリケーション ノートの後半で詳しく説明します。
  • DC コイルの場合、初期動作のコイル電流の波形は、図「B」ではなく図「A」のようになります。
図「A」. 正常なトランジション

図「A」. 正常なトランジション

図「B」. 常なトランジション

図「B」. 異常なトランジション

コイル電流のトランジションが図「B」(アーマチュアが一時的に「ストール」していて、しっかりと固定されていない) のようになっている場合は、駆動電流に何らかの異常があるため、修正する必要があります。

残留磁気システムを使用した DC コイル ラッチング リレー

残留磁気を使用する DC ラッチング リレーは、「SET」にして再度「RESET」するために、短時間だけ給電する必要がある特殊な DC コイルです。このコイルは、通常は「SET」または「RESET」のいずれかのモードで継続的に給電することを意図していません。

  • DC リレーの適切なコイル駆動および上昇した気温に対する補正などについてこれまでに述べてきたすべての内容は、印加されたコイル電圧によるコイルの加熱には適用されません。
  • このようなリレーには、印加電圧とタイミングの正確性の両方について、単安定リレーよりもはるかに厳しい要件が存在します。 

SET 電圧は、通常は公称定格電圧の 120% を超えてはなりません。一方 RESET 電圧は、公称電圧の 120% を決して超えてはならず、最大でも 110% に収めるのが適切です。これを超えると、磁気システムの「アップセット」(RESET になった後で再度 SET になる) が発生するリスクが上昇します。広い気温範囲が必要になる場合は、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。

 

SET および RESET の最小時間間隔は、リレーのデータシートに示されています。これらの最小時間は、接点を逆の状態に切り替えるために必要な実際の時間よりもかなり長くなっています。この余分な時間は、各ステップで磁気システムを適切に「帯電させる」ために必要です。

 

  • 同様に、電源として放電コンデンサを利用する「チャージ ポンプ」などのパルス コイルによる駆動スキームは、磁気システムで許容される最大 AT を超過することなく、リレーを SET または RESET に切り替えるのに適切な時間間隔にわたり十分な電流を維持するのが非常に困難ため推奨されません。これは特に RESET の状態の場合に該当します。

AC コイル リレーおよびコンタクタの特性

AC コイルを使用するリレーおよびコンタクタには、DC を使用するタイプとの間に、いくつかの重要な相違点が存在します。これは、AC 電源が持つ正弦特性によるものです。

  • 一部の AC リレーは、正常に動作していても「ハム音」がよく聞かれます。これは、リレーごとに異なる場合もあれば作動時ごとに異なる場合もあり、製品寿命を通して変化する場合もあります。「ハム音」とは、リレーまたは接点の内部部品の動きから生じる音ではありません。一方、「ビビリ音」や「チャタリング」は内部部品の物理的な動きから生じるため音が大きく、性能の大幅な低下につながるため、発生は許容されません。
  • AC リレーが内部的に AC 正弦波と同期することはありません。これは、AC 正弦波の部分が、リレーのメカニズムを作動させるのに十分なエネルギを持っていないためです。そのため、リレーの動作および復帰のタイミングが正しく機能しないポイントが存在することになります。
  • この現象により、DC リレーよりも動作タイミングおよび復帰タイミングの変動が大きくなり、多くの場合、接点またはアーマチュアの跳動やチャタリングが増加します。そのすべては、コイル電力接続時または切断時の正弦波の正確な位置に依存し、初期動作時の接点の過大な跳動またはチャタリングの原因となる場合があります。
  • そのため、AC リレーの定格は、同じ製品群の DC リレーよりも低くなるのが一般的です。これは 1) 先ほど説明したとおり、正弦波には低エネルギのスポットが存在するため、どちらの極性についてもサイクル全体を通じて AC リレーの接点がランダムにブレークされることがないこと、および 2) これにより正弦波の高エネルギ部分でメークまたはブレークが発生する確率が極端に高くなることが原因です。このような特徴のすべてが、AC コイル デバイスにおける接点定格または接点寿命の低下につながります。
  • AC コイル リレーは、DC タイプよりも高い温度で動作するのが一般的です。そのため通常は、許容される最高気温は DC モデルよりも低くなります。
  • 同様に、トライアックまたは直結された SCR によって駆動される AC コイル リレーは、寿命が短くなる傾向があります。このようなデバイスは、ON にゲート制御できるのが一般的で、サイクルのどの時点でも発生します。また、どの時点でも OFF にゲート制御できますが、デバイスを流れる電流がゼロになるまでは、実際には遮断されるわけではありません。そのため、パワー サイクルのほぼ固定されたポイントで、接点が負荷を「ブレーク」することになります。リレーの「復帰時間」により、ほぼゼロの電流を実現できる場合、性能は平均よりも高くなりますが、ピーク電流に近い場合は性能がかなり低下します。データシートおよび安全機関が示す負荷寿命の定格は、レポートに別途記載されていない限り、このような同期状態ではなく、AC 正弦波を基準とした完全にランダムなサイクルに基づいています。

コイル電力の低減スキーム (DC コイル リレーのみ)

場合によっては、合計制御消費電力を低減し、温度上昇を抑えることが理想的です。これを実現する方法の 1 つが、ラッチ機構を備えたリレーの使用ですが、このようなリレーは比較的高コストであり、電源障害の発生時にリレーの状態が定まらない可能性があります。これに代わる方法が、以下のいずれかの手法を使用して標準の DC コイル リレーにおけるコイルの電力消費量を低減することです。

  • PWM (パルス幅変調) - このスキームでは、リレー機構の作動と安定化を目的として、公称コイル電圧またはそれよりも少し高い電圧で DC コイルまたはコンタクタが短時間の初期動作を行います。その後は、低い印加電力でリレーの動作状態を維持するため、指定された振幅、デューティー サイクル、周波数の矩形波パルス列によってコイルが駆動されます。
  • ステップダウン DC コイル駆動 - PWM と同様に、この手法ではリレー機構の作動と安定化を目的として、公称の定格 DC コイル電圧でリレーが短時間の初期動作を行います。その後は DC 電圧のレベルを低減し、低い印加電力でリレーの動作状態を維持します。
  • 注意 - 「チャージ ポンプ」などのスキームを使って同じ目的を達成することもできますが、このようなデバイスでは電源として充電または放電コンデンサを使用します。そのため非矩形の波形となり、十分な時間間隔にわたりリレー コイルに安定した適切なコイル電力を印加することが非常に困難になります。このような動作は、コイル電力を低減しながらリレーを適切に作動させる、あるいは適切な動作状態を維持するために必要です。一般的に使用されているスキームですが、適切なコイル駆動の確保が困難なことから推奨されません。

 

同様に、コイル電力の低減によりリレーの保持電圧も低くなるため、用途における衝撃および振動に対する耐性も低下する点に常に注意する必要があります。

 

このような手法すべてに対応するリレー製品群固有の情報については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。リレーは、すべて同じように動作するわけではありません。

接点の負荷/寿命性能の強化

  • ゼロクロス同期 - DC コイル リレーは、さまざまな手法を使って、公表されている負荷定格および寿命定格よりも優れた性能を発揮させることができます (ランダムにスイッチングが発生する AC 負荷に対して)。これには、「メーク」時の負荷電圧波形および「ブレーク」時の負荷電流波形に対する接点のゼロクロス同期が、何らかの形で伴うことになるのが一般的です。適切に実施することで、抵抗負荷の使用時、反応負荷の使用時、そして特に高突入電流の容量性負荷および電灯負荷の使用時に、スイッチング寿命の大幅な改善を実現できます。

 

ゼロクロス付近で非常に正確なスイッチングを行った場合、「メーク」と「ブレーク」のどちらについても、接触抵抗の上昇に関連する接点性能の問題も複数発生します。これは、スイッチング アークの消弧により、リレーの寿命全体にわたって一般的に発生する接点の酸化物および汚染物質を低減する「セルフクリーニング」が行われなくなるためです。

 

これは本質的に複雑なプロセスであるため、アプリケーション ノート「接点の負荷/寿命性能の強化」で別途詳細に説明しています。

 

この手法に対応するリレー製品群固有の情報については、TE のリレー製品エンジニアリング部門にお問い合わせください。リレーは、すべて同じように動作するわけではありません。