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エンジン管理および排気ガス削減用途向け吸気部用複合センサ
環境に優しい規格がいくつも確立され、ガソリン エンジンおよびディーゼル エンジンにおける排気ガスや消費燃料の低減への需要が世界的に高まる近年において、吸気湿度に基づく閉ループ モニタリングを可能にする革新的な燃焼戦略が必要とされています。
エンジン管理の鍵となるのが、吸気の湿度、温度、圧力の 3 つのパラメータです。これにより、汚染物質の排出、消費燃料、エンジン パワーの 3 つをリアルタイムにバランスを取ることができます。TE Connectivity (TE) の TRICAN センサは、吸気の湿度および圧力を検出するセンサとして使用される、業界を代表する複合センサの 1 つです。
はじめに
TRICAN 吸気センサは、TE Connectivity が設計および製造した湿度・温度・圧力検出センサです。堅牢性と完成度を誇る既製センサであり、自動車の機能統合に関する制約、性能、信頼性の課題に応えます。自動車、産業、商用トラック、オフロード、燃料電池の各市場において、TE の湿度センサは 1,200 万台の売上を記録しています。最初の申請は 2004 年に受理されました。
吸気湿度を管理することで、湿度の高さが最大圧力、エンジン トルク、酸化窒素 (NOx) 排出量に反比例していることが分かります。
排出基準は年々厳しさを増しています。図 1 に示すように、現在ディーゼル エンジンに認められた酸化窒素の排出量は 80 mg/km 未満となっています [1]。
吸気湿度の管理は、自動車における空気と燃料の混合比を調整して最適化し、排気ガスの排出量を低減するための重要な技術の 1 つです。
吸気湿度を管理することで、湿度の高さが最大圧力、エンジン トルク、酸化窒素 (NOx) 排出量に反比例していることが分かります。
デバイスの詳細
TRICAN 吸気センサは、プラスチック ハウジング、4 ピン コネクタ、PCBA で構成されています。湿度セルは PTFE メンブレンを介して空気流を捕捉して、湿った空気をセル内に取り込み、液状の汚染物質や埃から保護します。圧力および湿度センサは TE Connectivity によって設計および製造されています。
TRICAN は自動車グレードの高耐久センサであり、湿度と温度の高い環境に合わせて最適化されています。高度な汚染保護機能を備え、湿度センシング素子の近傍に搭載されたヒーターにより、結露しても短時間で回復します。
湿度および温度信号は信号調整ステージを使用して処理され、この結果デジタル出力が行われます。圧力センサの ASIC は、センサのマイクロコントローラと相互通信します。センサには自己診断機能があり、診断結果として短絡、開回路、レンジ外といったステータスを発行します。
センサの出力
TRICAN センサはシステム レベルの妥当性診断を行うため、別の外部センサとの双方向通信をサポートします。このデジタル出力は J1939、CAN 2.0 に準拠しており、ユーザーのニーズに合わせてカスタマイズできます (CAN フレーム)。
TRICAN は要求に応じて相対湿度、比湿、露点を計測します。また、図 4 に示すとおり、空気温度と吸気圧も計測します。
- 相対湿度 (RH) は、特定の温度における水蒸気の分圧と水の平衡蒸気圧の比です。
- 比湿 (Sh) は、湿潤空気塊の全質量に対する水蒸気の質量の割合です。
- 露点 (DP) は、空気を冷却することで、空気中の水蒸気が飽和に達した温度です。さらに冷却を進めると、水蒸気は凝結して水滴となります。
TE の湿度セルは、精度、堅牢性、応答時間、回復時間において突出した性能を誇る独自のセンサです。上下の電極の間に、薄い誘電性ポリマが挟み込まれています。誘電容量は、計測された湿度に比例します。湿度セルは、結露後も短時間で回復できる位置に設置され、同時に汚染物質に対する強力な保護機能も果たします。TE の湿度センサは、現在市販されている製品の中でもヒステリシスがきわめて低く、応答時間も最速レベルです。
仕様と性能
TRICAN センサは、自己診断機能によるデジタル出力を行います。使用温度範囲は -40°C ~ +105°C、湿度範囲は 0% ~ 100% となります。TRICAN センサでは、5 V、12 V、24 V の 3 種類の電源をご用意しています。
湿度センサの特性
図 6
TE の圧力センサは、ICT 吸気に合わせて特別に開発されています。使用温度範囲は -40°C ~ +125°C、圧力範囲は最大 250 kPa であり、高速な応答時間を実現します。
圧力センサの特性
図 7
温度センサは、PCBA にはんだ付けされた負温度係数 (NTC) 型のセンサです。温度計測範囲は -40°C ~ 105°C、精度は ±0.5 °C となります。
TRICAN の用途
TRICAN センサは、きわめて高い精度と高速な応答時間によって湿度、圧力、温度をモニタリングする必要のある、さまざまな用途に使用されます。ここでは、主な用途について説明します。
ディーゼルおよびガソリン エンジンの管理
湿度は吸気密度に影響し、ひいては燃焼にも影響を与えることはよく知られています [3、4]。EGR ループにより、吸気湿度はさらに上昇します。湿度・温度・圧力センサは、性能の強化、および燃料消費の最適化を可能にします。利点は以下のとおりです。
- 燃料噴射の調整
- 噴射タイミングの 調整
- EGR 結露のモニタリングによる シリンダの寿命低下の阻止
- NOx 排出量の 低減
- EGR ループ制御の 最適化
天然ガス エンジンの管理
天然ガス エンジンが最大限に発揮できるパワーは、吸気湿度に依存します。これには、リーンバーン エンジンにおける空燃比の正確な計測が欠かせません。
空気の過剰供給により燃焼温度が低下し、従来の天然ガス エンジンに比べ、酸化窒素排出量が半減します。酸素の量が多くなるということは、同じ量の燃料でより多くのパワーが生成されることを意味し、燃費の向上につながります。
リーンバーンの限界は湿度に依存するため、リアルタイムに対処することで、以下を実現できます。
- 燃費の向上
- NOx 排出量、ノッキング、ミスファイヤの低減
仮想的な NOx 推定
NOx 排出量を仮想的に推定することで、上流側の NOx センサが不要になるため、コストを大幅に削減できます。TRICAN センサの大きな利点の 1 つとして、その高い精度はコールド スタートの条件下でも維持されます。コールド スタートの場合、走行サイクル中の排出ガスの 50% がコールド スタート中に生成されます。つまりこの間、NOx センサが少なくとも 20 分程度は非効率化することを意味します。このような特殊な条件下では、排出量は最大となり、相応の戦略が必要となります。
さらに、吸気部の温度および圧力センサを TRICAN センサに置き換えることで、さらなるコスト削減が可能になります。
TE の湿度・圧力・温度複合センサは、上流の NOx センサを補完あるいは置換します。センサのライフタイム全般にわたって高い精度と信頼性が維持され、ドリフトが制限されます。このセンサは、上流 NOx センサと組み合わせたエンジン モデルに使用することもでき、この場合はシステム診断機能を提供し、ライフタイム全般にわたって NOx の精度をモニタリングします。
燃料電池
燃料電池の性能を最適化するには、高い相対湿度、またはほぼ飽和状態の湿度 (Rh>80%) が必要です。プロトン交換膜の透磁率は、燃料電池の含水量に依存します。したがって相対湿度は、スタックのライフタイム全般にわたって燃料電池の性能と効率性に影響を与える、非常に重要な動作条件の 1 つとなります。
湿度を修正するため、燃料セルのインレットでは加湿器が使用されます。センサの大きな課題の 1 つが、結露の発生する可能性があるコールド スタート時です。トラック、建設機械、オフロード用途など、TE の湿度セルが使用されている過酷な環境での現場経験は、信頼性の高いソリューションとなることが確認されており、結露後の迅速な回復時間、高速な応答時間が実証されています。電力密度の制御においては、圧力も重要なパラメータです。このように TRICAN センサは、湿度と温度の高い環境に適します。また、センシング素子は化学的汚染から保護されています。
燃焼エンジンに対する湿度の影響
前のセクションで述べたとおり、吸気湿度は最大圧力 [2]、トルク、汚染物質排出の観点からエンジン効率に影響を及ぼします。次のセクションは、Renault K4M-700 4気筒ガソリン エンジンに対する実験的な研究に基づきます。この実験では、エンジン トルクおよび排出ガスに対する比湿の影響に焦点を当てています [5、6]。
エンジン トルクに対する湿度の影響
比湿が高くなると、燃焼速度が低下するため、シリンダの最大圧力も低下します。図 9 に示すように、比湿が 10 g/kg から 40 g/kg に上昇すると、最大圧力が低下するため、エンジン トルクが 5.5% 低下します。比湿が 15 g/kg となる環境では、測定値が 5 g/kg 変化すると、エンジン トルクは 1% 低下します。
排出ガスに対する湿度の影響
炭化水素の排出は、壁面の消炎現象による未燃焼粒子が原因です。この排出量は、空気の湿度上昇に比例して増加します。一方、二酸化炭素と酸化窒素は、空気の湿度上昇とともに低下します。
比湿が 15 g/kg となる条件下では、測定値が 5 g/kg ずつ変化することで、排出ガスに次のような影響が生じます。炭化水素の排出量は 1.5% 増加、酸化窒素の排出量は 7.2% 増加、二酸化炭素の排出量は 5.4% 増加。
燃焼終了時の断熱温度は、燃焼中に放出される熱量に影響するため、ピストンの仕事量、ひいてはエンジン パワーにも影響を与えます。
まとめ
比湿のモニタリングは、エンジン管理および燃料セルの性能を左右する重要な要素です。湿度センシング素子のもたらすいくつもの利点が実証されています。これにより、正確な閉ループ制御が可能になります。温度範囲全般での高精度は、排ガス規制を遵守するうえで不可欠です。
吸気湿度は、燃焼ガスの組成と汚染物質排出量に影響を与えます。比湿を正確にモニタリングすることで、酸化窒素および酸化炭素の排出量を低減できます。
参考文献
[1] caremissionstestingfacts.eu
[2] Influences of Charge Air Humidity and Temperature on the Performance and Emission Characteristics of Diesel Engines, Cherng-Yuan Lin, Yuan-Liang Jeng
[3] Advanced Combustion for Low Emissions and High Efficiency, Cracknell, R., Ariztegui, J., Barnes
[4] Water addition to gasoline, effect on combustion, emission, performance and knock, J.A.Harrington
[5] Etude numerique et experimentale de l’influence de l’humidité de l’air sur la combustion.Application aux strategies de reduction d’émissions polluantes et de consummation des moteurs à pistons, Yannick Duhé
[6] Effect of Ambient Temperature and Humidity on Combustion and Emissions of a Spark-Assisted Compression Ignition Engine, Yan Chang, Brandon Mendrea Jeff Sterniak, Sranislav Bohac