TE の視点
著者: Phil Gilchrist、Artificial Intelligence & Sustainable MaterialsのVP兼最高技術責任者 (CTO)
未来の材料は、光学顕微鏡で視認できる範囲をはるかに超えた、非常に微小なスケールで、製品の革新性を設計しています。 例えば、船に使われているオークの厚板の強度は、その板が破損した時点で初めて「発見」されていましたが、材料の機能性とは今や、これまでのように「発見」するものではありません。
代わりに、「非天然」の材料が TE Connectivity(以下TE)やパートナー企業の科学者によって考案されようとしています。ナノテクノロジ、コンピューター モデリング、AI 駆動の材料情報科学、自然に触発された設計の発展により、エンジニアたちは、少し前であれば魔法のように思われていたはずの手法によって、製品の特性や機能を操作できるようになったのです。
既に私たちは、一見して不活性な物体に対して、私たちのニーズに適合する機能や特性を分子レベルでプログラムして組み込むという、材料操作の熟練の域に到達しています。
TE は、台所の食洗機から、新型EV、人体、あるいは、この記事を読むために今まさに使用されている衛星経由のデータセンターなど、材料にとって過酷なあらゆる環境で、想像しうるあらゆる製品の中に、高度に設計された重要な構成部品やサブシステムを組み込んでいます。つまり、TE は材料に深く関わっているのです。私たちの世界の持続可能性をどのように向上させるか、自然のデザインの優美さをどのように模倣したらよいか、製造面をどのように変化させるか、すべては材料にかかっているのです。
先端材料の飛躍的な成長の可能性を認識している企業は、競合製品と一線を画すような製品の開発および製造プロセスを開始することができます。先端材料の可能性を理解するために、次の 3 分野のイノベーションについて考えてみましょう。
ほぼすべての生物は酸素を必要とし、ほぼすべての材料製造プロセスでは温室効果ガスが排出されます。 この現実は、世界が必要とするさまざまな物品を製造しつつ、二酸化炭素を削減するにはどうすべきかという課題を浮き彫りにします。残念ながら、リサイクルを行うだけではこの課題を解決できません。リサイクル材料は一般的に調達が困難であり、コストも大きく、厳密な再処理が必要になるためです。さらに、私たちはある一面だけでなく、材料のライフサイクル全体を捉えて検証する必要があります。
その答えのひとつは、再生可能な特定のバイオマス由来の原料、および多くの (創造的な) オプションから、新たな材料を探し出すことです。エキゾチックな例として、「シュリルク」のバイオプラスチック モノマーを見てみましょう。シュリルクの主要成分はキチンですが、これは昆虫、あるいはエビなど甲殻類の固い殻を作っている物質です。キチンは地球上で 2 番目に豊富に存在する有機材料であり、キトサンと呼ばれる、プラスチックに似た材料に加工できます。キトサンを、フィブロインという天然のシルクのたんぱく質と結合させると、アルミニウムより強度の高い積層材料となります。
製造メーカーは、低級なリサイクル材料に新しい原料を加え、より高価値の別の材料へと変換させるアップサイクルを活用することで、石油由来材料への依存度を低減させることができます。年間 100 億本製造されるペットボトルが良い例です。これらのペットボトルを解重合するとします (基本的なモノマーに分解する)。このとき、新たな材料成分を追加して、新たな配合で再重合することで (基本モノマーすべてを再度結合)、ユニークな材料を作成できます。可能性は無限です。このようにアップサイクルしたペットボトルは、枕カバーにも、データセンターの高速コネクタにもなりえます。
私たちは、新たなレベルの機能性を備えた「スマート」な材料の出現を期待しています。 スマート材料は、温度、ひずみ、電流などの外部刺激を認識し、これに対して形状や色、またはその他の属性の変化といった、予測どおりの反応を生じさせます。
たとえば、どこにでもある材料の例として、コンクリートについて考えてみましょう。コンクリートは強度も汎用性も兼ね備えていますが、経年劣化によるひび割れが生じ、構造物の完全性を維持するには定期的なメンテナンスが必要となります。科学者たちは近年、埋め込んだバクテリアによる自己修復が可能な、新しいタイプのスマート コンクリートを開発しました。バクテリアは水分を与えられると、石灰岩に似た物質を生成し、この物質によってひび割れが充填されます。
スマート材料の観点から、自然は素晴らしいインスピレーションの源であることが証明されています。数百万年の進化を経て、自然こそが独自のポートフォリオを構築できたと言えます。
その一例が、トンボの羽の表面です。顕微鏡で見ると、トンボの羽の表面は非常に微小な突起で覆われています。バクテリアがトンボの羽の表面に付着すると、侵入したバクテリアはこの表面上の突起によって破砕され、死滅します。
TE はこのモデルに基づき、接触したバクテリアを、これと同様の微小突起を使用して死滅させる、機械的殺菌効果を持つ材料表面を開発中です。ショッピング カートの持ち手、空港や鉄道の手すりなど、日常的に人が触れる部分を、この抗菌プラスチックで被覆し、恒久的に殺菌できたらどうでしょうか。この表面設計は、医薬品や食品関連製品において、感染を防止する新しい方法となる可能性があります。
3D プリンティングの開発により、製造および設計プロセスはすでに変貌を遂げていますが、新たに 3D プリンティングの材料が進化することで、さらなるイノベーションが可能になります。 たとえば、新しいハイグレード 3D プリンティング材料は、最高 850°C の温度にも耐えられます。これにより、オンデマンドでの製造が可能な多様な製品への可能性が拓かれ、高コストのかかる場所での製造の柔軟性や実現可能性が高まります。
さらに、新たな設計の自由度が高まり、製品をより迅速に製造できるようになります。硬化鋼製の固形ブロックから金型を削り出す作業に比べ、コンピューター画面からの印刷ははるかに速いのです。
新しい材料の設計が進めば、3D プリンティングの普及も加速します。最終的には、材料と設計が協調し合う、柔軟な生産とマス カスタマイゼーションの新時代新時代のが到来しますを可能にします。製品設計者は自然から学び、曲面や、進化を遂げた繊細でトポロジー的な形状を組み込むことで、熱交換を最適化できます。自然を模倣した設計や製造により、新たな段階に到達することができます。3D プリンティングと新材料の組み合わせは、そのための手段となります。
人類と材料の歴史は、共に発展してきました。 しかし、近年まで、私たちが天然素材とその特性を「発見」するということは、これまでに作り上げてきたものの中で対象素材を試験し、確認することを意味していました。たとえば、鉄器時代の円錐状の屋根を持つ家から、その茅葺き屋根が雨の多いヨーロッパの冬を耐えしのいでいたことがわかったり、ローマ人がコンクリートを偶然見出し、現代技術にも引けを取らない広大な高架橋が建造されていたことが発見されたりしています。材料の世界についての私たちの造詣が深まり、その世界を駆使するための能力も飛躍的に向上した今、私たちに求められていることは、ユース ケースを創造し、このユース ケースを支持する材料を設計することです。世界は大きく変わるでしょう。TE はきわめて難しい課題であっても、科学の大きな力を駆使して取り組み、少しずつ世界を変えていくやり方で、未来を形作り、3D プリントしていくでしょう。
Phil Gilchrist は TEのArtificial Intelligence & Sustainable Materialsのバイス・プレジデント兼最高技術責任者 (CTO) を務めています。現在の役職に就く前は、TE の Communications Solutionsセグメントでバイス・プレジデント兼 CTO を務めていました。また、Digital Data and Devices事業部のバイス・プレジデント兼CTOを務めました。 Quality Software Foundation の共同創立者として自身のキャリアをスタートさせ、Motorolaで複数の上級技術リーダーと経営幹部を務めました。スコットランドのスターリング大学でコンピューター サイエンスの学士号を取得しています。
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