変化するエネルギーの管理に世界中が取り組む中で、 発電と電力消費の様相が根本的な変革を迎えようとしています。このような電力を供給する送配電網にも変化が求められています。新しいエネルギー源に適応できる性能を確保し、信頼性を維持する必要があります。
太陽が必ず顔を出しているとは限らず、風が必ず安定して吹いているとは限らないので、風力や太陽光などの再生可能エネルギー源では供給電力が変動します。電気自動車 (EV) の普及、データ センターの大型化、あらゆるものの電化により、電力網に対する需要も増加しています。同時に、異常気象が頻発し、大規模な停電が発生する可能性も高くなっています。
このような変化があっても、電力網は安定して電力を供給し続ける必要があります。人々は、スイッチを入れるといつでも明かりが点ると考えています。照明が点らないと、消費者や規制機関が異常に気付きます。このような変化に対応するために、電力網には優れた柔軟性と耐障害性が求められます。つまり、これまで以上に高い性能が必要です。最小限のダウンタイムで電力を制御し、すべての顧客に電力を安全に供給するために必要な情報を利用可能にすることです。
電力産業では、システム平均中断時間インデックス (SAIDI) が信頼性の尺度になります。 これは、ある地域の平均的な顧客が 1 年間に電力を利用できない時間の平均値 (分) を示しています。
電力網全体の電力の流れについてより多くの情報を収集できれば、障害のある配線を特定しやすくなり、問題が発生した場合の電力復旧に要する時間を短縮できるので、ダウンタイムの短縮と信頼性の向上につながります。
配線上の特定のポイントで回路を流れる電圧と電流のレベルに関する重要な情報がセンサから得られます。その情報は、グリッドの耐障害性向上にさまざまな形態で効果を発揮します。
メンテナンスの改善
センサの中には、回路の遮断にはならないような断続的な電流変動を検出できるものがあります。このような変動は、今後停電が発生する兆候があることを示しています。電力供給業者は、このような電流変動の累積データを収集することで、アラート発生の閾値を設定し、ダウンタイムが発生する前に、故障した機器を修理または交換できます。
スマートグリッドのパイオニアである Kries 社 (ドイツ) を最近買収した TE Connectivity は、断続的な故障の前兆である部分放電を検出できるデバイスも開発しています。このようなデバイスを遠隔通知機能と組み合わせると、電力供給業者が充実した情報を得られるので、障害を未然に防止する効果が期待できます。信頼性が向上するだけでなく、地絡の件数が減少することにより、乾燥した気候条件下でそのような障害によって山火事が発生する可能性を低減できます。
障害の迅速な特定
従来、配電システムの障害を検出するには、住宅や会社の外に設置された変圧器と変電所との間にあるリング メイン ユニット (RMU) またはパッドマウント式開閉器の筺体内部に、障害が発生した回路の通知がないか手作業で確認する必要がありました。故障回路インジケータ (FCI) と呼ばれるセンサを電力線上に配置すると、障害をより正確に特定し、障害を切り分けて、電力を安全に供給できる回路部分に電力を再ルーティングする可能性が得られます。また、障害の特定に要する時間が短くなることで、作業者が迅速に現場へ到着し、必要に応じて電力を再ルーティングして問題の解決に着手できます。
リモート再ルーティングの実現
RMU にリモート スイッチング モジュールを追加すると、さらに迅速な作業が期待できます。回路スイッチを遠隔制御できることから、電力会社は作業者を派遣せずに、障害を迂回して回路を再ルーティングできます。このリモート スイッチングを自動化できるコンピュータ システムを導入すれば、障害が検出されると直ちに電力をインテリジェントに再ルーティングできるので、対応時間をさらに短縮できます。
このような自動化再ルーティングは、病院やトンネル換気システムなどの重要なインフラへの電力供給でも効果的です。このような場合、回路をバックアップ電源に接続できます。システムが障害を検出すると、障害が発生した分配線を自動的に切断し、正常な分配線を接続して電力を数秒で復旧できます。これは事実上大規模な全館発電機に相当します。
多様化が進む各種エネルギー源から電力供給を受けるスマートグリッドで電気負荷の良好なバランスを確保するには、自動再ルーティングが必要条件になります。 再生可能エネルギー源から変動性の電力を取り込むには、電力会社がリアルタイムの情報を処理して供給と需要との適切なバランスを確保する必要があります。広い範囲に分散したエネルギー源を電力網に取り込む際も、このようなインテリジェンスが必要になります。現在電力を供給している集中型の発電所は、サービス地域の需要に基づいて出力を調整できます。さまざまなエネルギー源にわたって需要と供給の両方が変動する中で電力を安定して供給し続けるには、発電システムと配電システムの全体をより明確に可視化する必要があります。
電力需給状況が変化し続ける中で電力網を根本的に変更する計画に、これらのセンサで収集したデータを活用することもできます。さらに、電力網の拡張計画やメンテナンス計画のような長期的な作業を優れたデータで支援できます。現地の配電ネットワークのニーズを正確に把握しなければ、ハードウェアの効率的なアップグレードは事実上不可能です。電力供給業者は、電力網のどこで需要が増加しているかをより深く理解することで、現在のインフラ全体で電力をより効果的に供給できるかどうか、顧客に効果的にサービスを提供し続けるにはそのインフラを拡張する必要があるかどうかを判断しやすくなります。
将来、インテリジェンスと自動スイッチングのこの組み合わせは、電化が進む社会に代替電源モデルを導入する際に効果を発揮すると考えられます。スマートグリッドに大規模なモジュラ発電を導入することで、自然災害後の地域の復旧に役立つ可能性があります。また、余剰電力をインテリジェントにバッテリー貯蔵設備へルーティングすれば、需要の増加時にそこから電力供給を補うこともできます。また、電気自動車のバッテリーや家庭用の無停電電源装置がアイドル状態のときに、それらが分散型バッテリーとして機能するような創造的なソリューションも考えられます。これにより、再生可能エネルギーの生産量減少を柔軟に補填できます。
そのような未来は、思ったほど遠くないかもしれません。多くの場合、アップグレードしたデバイスやセンサによって既存の設備を改装することで、より迅速に、より低コストで、これまで以上のインテリジェンスを電力網に組み込むことができます。これらのアップグレードにより、障害を迅速に特定して信頼性の向上を図ることで直ちに価値が得られると同時に、耐障害性に優れた未来のエネルギーの基盤を築くこともできます。
Ulrich Greiner 博士は、TE Connectivity グループの一員である Kries Energietechnik GmbH & Co KG の研究開発および製品開発エンジニアリング担当マネージャです。新製品の開発、エンジニアリングの維持、透明性と耐障害性に優れた中電圧電力網を電力会社が確保するうえで役立つ製品の商品化を、この役職で担当しています。このような製品は、現地での電流電圧監視ソリューションから遠隔監視や保護デバイスまで多岐にわたります。同博士は、12 年以上にわたって中電圧電力網向けのソリューションに携わってきました。カイザースラウテルン工科大学で物理学の博士号を取得し、シュトゥットガルト大学とミシガン工科大学で学んだ経験があります。
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