ホワイト ペーパー
医療用ポンプ向けセンサ
医学の進歩に対するニーズが高まる中、センシング技術はこれからも医療を接続性、信頼性、安全性の高いものへと進化させる基盤であり続けます。
はじめに
医療機器、医療デバイス、プローブに組み込まれた電子システムは、センサ信号を利用して動作の制御、正確な診断、治療を実現しています。これらのシステムは、より高度な機能性を取り込むように進化しながら、信頼性を維持・向上させています。システムの操作はますます直感的になり、より可搬性の高いつながる医療製品の開発が進められています。また、医療業界は他の業界に比べてモノのインターネット (IoT) 技術の導入が遅れていますが、特に医療費削減の要求の高まりを受けて医療業界の IoT 化 (IoMT、医療業界のモノのインターネット) が加速し、人々の安全や健康を維持する方法が変わり始めています。
このようなトレンドは、医療製品や医療機器におけるセンサの全体的な需要を高めるとともに、医療向けセンサの小型化、高速化、精度と信頼性の向上も後押ししています。また、ほとんどのメーカは予算が限られているため、部品は低コストであることが理想的です。したがって、市場に受け入れられる新たなセンサを生み出すためには、より小型のフォーム ファクタを持ちながら、高い機能性と低コストを維持する必要があります。
センサは幅広い医療機器で重要な役割を果たしており、医療用ポンプや流動用途もそのひとつです。点滴ポンプは、患者に投与する栄養素や薬液などの輸液を精密かつ正確な処方量で指定された時間供給する医療用ポンプの一種です。この種の医療用ポンプは、手動での輸液投与よりも優れた利点があるため、病院、老人ホーム、在宅看護などの臨床環境で幅広く使用されています。その利点としては、きわめて少量を投与できる、プログラムされた量を確認できる、自動投与により従業員の負荷が少ない、などが挙げられます。
点滴ポンプは、高リスクの薬液などの危険を伴う輸液の投与によく使用されるため、ポンプの障害は患者の安全に重要な影響をもたらす可能性があります。多くの点滴ポンプには、アラームやその他のオペレータ警報など、問題の発生時に作動する安全機能が組み込まれています。たとえば、一部のポンプは、チューブ内で気泡やその他の閉塞が検知されたときにアラートを発生させて患者とスタッフに知らせます。スマート ポンプと呼ばれる最先端の点滴ポンプは、有害な薬物相互作用のリスクがあるときや、ユーザがポンプのパラメータを指定された安全性限界の範囲外に設定したときにユーザに警告するよう設計されています。
従来のポンプとスマート ポンプのどちらにおいても、センサは点滴ポンプの制御と監視において重要な役割を果たします。これらのセンサは、閉塞の検知、流量の監視、モータ制御に対するフィードバックを行うように設計されており、静脈内投与されている輸液の温度を感知する場合もあります。下の図は、典型的な点滴ポンプで使用されているセンサの位置を示しています。
医療用ポンプでは、多くのポンプ変数を考慮する必要があります。たとえば、輸液の量や注入モード (連続、断続的、患者自身がコントロール) などの変数があります。正しい輸液の流量を確保するため、閉塞を検知する荷重センサがポンプに組み込まれています。荷重センサは通常、チューブの静脈輸液が通る部分の下に取り付けられています。ポンプで閉塞が起こると、チューブが広がります。チューブがハウジングと交わる場所に配置された荷重センサは、チューブの一部によってセンサにかけられた荷重を監視することで、この広がりを検知できます。この広がりが検知されると、センサからアラームが発生してユーザに通知されます。これと同じ動作原理を、医療専門家が病院、ホスピス、在宅看護などの環境で使用するために設計された点滴ポンプや装置にも応用できます。チューブの一部によってセンサにかけられた荷重を監視することで、この広がりを検知できます。この広がりが検知されると、センサからアラームが発生してユーザに通知されます。これと同じ動作原理を、医療専門家が病院、ホスピス、在宅看護などの環境で使用するために設計された点滴ポンプや装置にも応用できます。
点滴ポンプなどの体外用の医療センサは植え込み型センサに比べると技術的課題は少ない傾向にありますが、それでも厳しい要件を満たす必要があります。可搬性を高めるために装置はますます小型化されていますが、ユーザがこれらのシステムに求める機能性や精度はこれまでと変わりません。小型でありながら精度の高い医療機器を設計するには、センサのような部品も堅牢な機能を低コストで提供する必要があります。また、ほとんどの医療用ポンプ用途には信頼性が不可欠であり、特に危険を伴う輸液を投与する場合にはこれが一層重要になります。
荷重センサ技術
荷重センサは、荷重、圧力、または機械的応力がかかったときにその特性が変化するセンサです。荷重センサの設計と製造には広範な技術を利用できます。TE Connectivity (TE) は、高性能または独自の実装を必要とする用途向け (医療機器や医療装置を含む) の荷重センサを設計・製造しています。TE の荷重センサは、独自のピエゾ抵抗シリコンひずみゲージ (Microfused) 技術に基づいており、耐久性と長期の安定性を超低コストのパッケージで実現しています。荷重センサ (「ロード セル」とも呼ばれます) は、点滴ポンプを含む各種医療用途で使用されています。医療市場でのその他の用途としては、理学療法、病院用ベッド (患者体重)、外科用ステープラー、救急医療向けの心肺機能蘇生 (CPR) 補助装置、酸素タンクの監視などがあります。
動作原理
ピエゾ抵抗効果はセンサ技術で幅広く使用されています。ピエゾ抵抗効果とは、機械的ひずみがかかったときに半導体または金属の電気抵抗率が変化する現象です。ピエゾ抵抗荷重センサには、数枚の薄いシリコン ウェハが保護面の間に埋め込まれています。表面はホイートストン ブリッジという小さな抵抗差を検出する装置に接続されています。ホイートストン ブリッジは、少量の電流をセンサに流します。抵抗が変化すると、センサを通過する電流も変化します。この変化がホイートストン ブリッジによって検出され、圧力の変化として報告されます。
TE 独自の Microfused 製造技術は、微細加工されたシリコン ピエゾ抵抗ひずみゲージに基づいており、このゲージが高温ガラス接着プロセスで高性能ステンレス鋼の台座に溶着されています。この成熟した信頼性の高いプロセスはこれまでに数百万の荷重センサを世に送り出しており、幅広い医療用途に応用できる実証された技術です。Microfused 技術は、従来のロード セル設計で使用されてきた経時的な影響を受けやすい有機エポキシをなくすことで、スパンとゼロの卓越した長期安定性を実現します。このセルは荷重を直接測定するため、鉛ダイの疲労の問題による影響を受けません (鉛ダイの疲労は、圧力カプセルがシリコン ゲル充填キャビティ内に埋め込まれている競合製品でよくみられます)。
非常に低いひずみで動作する Microfused 技術は、実質的に無限のサイクル寿命・優れた分解能・高周波数応答・高いオーバーレンジ能力をもたらします。総じて、Microfused 荷重センサは幅広い医療機器でその堅牢性と信頼性を実証しています。
荷重センサ製品の例
具体的な製品をいくつか挙げて、荷重センサの動作原理を説明します。FS20 荷重センサは、セルの上面に円板状の荷重コレクタが付いており、この部分がポンプ内の流圧による機械的応力にさらされます。この金属製の荷重コレクタは作用点として働きます。これは定格負荷で約 0.05 mm 偏向します。シリコンのピエゾ抵抗ひずみゲージは荷重コレクタの下に固定されています。ひずみゲージが荷重コレクタの弾性曲げによる応力にさらされると、ひずみゲージ構造の抵抗が変化します。この変化が集積回路 (IC) で処理され、出力リードに送られます。センサの互換性を確保するため、セルのゼロとスパンは正規化されています。FS20 タイプの小型荷重センサは、電気機械的機能と経済性を兼ね備えている点が特に魅力的です。
RoHS に準拠した FS20 セルは、対応する荷重範囲が最大 750 g のバージョンと 1500 g のバージョンの 2 種類があります。高レベル出力、低ノイズ、低い偏心誤差、高いオーバーレンジ能力 (最大 2.5 倍) に加えて、高速で正確な結果 (スパンの± 1%) と 0°C ~ 50°C の範囲での温度補償を備えたこのセルは、ポンプ監視の用途に優れた選択肢です。荷重コレクタの偏向は非常に小さいため、セルのサイクル寿命は実質的に無限です。また、25.1 x 17.27 x 8.26 mm というコンパクトな設計なので、点滴ポンプやその他の可搬式の医療機器など、スペースの制約のある用途に幅広く利用できます。
FC22 小型荷重センサは、基になる動作原理は同じですが、作用面がより小さいため、点荷重の測定に適しています。そのフォーム ファクタとケーブル接続により、さまざまな形で機器に組み込むことができます。FC22 セルにはミリボルト ブリッジのバージョンもあります。
RoHS に準拠した FX1901 圧縮センサは、たとえば理学療法での患者の体重を測定する用途 (体重計) や、カイロプラクティック機器・運動器具で使用されています。測定範囲は 5 通りあり、最大荷重は 10 lbf ~ 200 lbf (約 5 kg ~ 100 kg) です。入力電圧に対するアナログ出力信号は 20 mV/V です (入力電圧 1 V ごとに 20 mV を出力)。この 1% の精度を誇るロード セルは、費用対効果の高い設計に基づいています。
FX29 は、TE の最新の革新的なロード セル製品で、いくつかの新機能や機能改善が組み込まれており、数多くの設計変更を通じて従来のロード セル モデルよりも大幅に低コストで提供されています。FX29 は、埋め込みの荷重測定用途向けに設計された小型の圧縮ロード セルです。信頼性の高い Microfused 技術が荷重素子に採用されており、10 lbf ~ 200 lbf の測定範囲に対応しています。また、出力タイプが拡張され、mV、増幅出力、デジタル出力の中から選択できます。デジタル回路が組み込まれたことで全体的なシステム精度が向上し、低い測定範囲にも対応していることから用途の幅が広がります。高いオーバーレンジ保護性能はシステム内のサージやスパイクからセンサを守り、低偏向と高い出力感度の組み合わせはセンシング ダイアフラムへの応力が小さいことを示します。これらの特長から、FX29 は要求の厳しい医療用途に理想的です。
点滴ポンプでの気泡の検出
気泡検出器は、点滴ポンプ、血液透析、血流監視など、機能の中断が生命を脅かす可能性のある用途に不可欠です。超音波気泡検出器は非接触型の音響による気泡・液体検出器であり、点滴チューブ内の気泡と液体の識別に使用されています。その用途は幅広く、医療用ポンプでの液体の輸送や注入のほか、製薬、工業研究、科学研究の分野でも活躍しています。
TE の AD-101 気泡検出器は、流体を非接触で常時監視して気泡を検出するセンサであり、超音波技術を使用してどのような流体でも流れの分断を確実に特定します。持続的な自己診断機能と実装の柔軟性により、点滴ポンプなどのクリティカルな用途において確実かつ正確に気泡を検出します。
気泡検出技術
下の図に示すように、TE の AD-101 のような気泡検出器は、患者に輸液を投与するチューブに直接取り付けるように設計されています。気泡検出器にはピエゾ トランスデューサが埋め込まれており、これがトーン バースト超音波信号を発します。発出された信号はチューブとその内部を通過し、ピエゾ受信機で受信されます。液体は超音波を効率的に伝達するため、チューブ内に液体のみが存在するときは強い信号が通過します。気泡は超音波を効率的に伝達しないため、液体中に気泡があると信号が弱くなります。内部回路が受信機信号の振幅を測定し、それに応じた出力を提供します。超音波気泡検出器は非侵襲的であり、液体に直接接触しません。AD-101 は 3 mm ~ 10 mm のチューブ サイズに対応しており、カスタム設計によって標準外のチューブ サイズにも対応できます。応答時間は 2 ms 未満で、3.3 V の TTL 出力ロジック レベルを提供し、気泡の検出を視覚的に知らせる LED を搭載しています。
AD-101 には自己診断機能も組み込まれており、センサの動作が継続的に監視されます。どのような向きでも使用可能で、液体の流れる方向が上向き、下向き、任意の角度のいずれであっても動作します。重力は検出性能に影響しません。
点滴ポンプで使用されているその他のセンサ
点滴ポンプの設計はますます高度化しており、診断機能やその他の補助的な機能が追加されています。そのため、さらなるセンサの追加や性能の高いセンサの使用が求められます。医療用ポンプで利用されている上記以外のセンサとして代表的なものには、モータ フィードバックおよび診断用の位置センサと、輸液の監視・制御用の温度センサが挙げられます。
異方性磁気抵抗 (AMR) 位置センサは、センサによって検出された磁場の角度の変化を測定する、高精度の非接触型デバイスです。TE の磁気センサは、過酷な環境において非接触で確実な位置測定を可能にします。たとえば、AMR 効果の独特な特性を利用することで、高精度の線形エンコーダでマイクロメートル未満の変位を測定できます。また、AMR 技術は、空気圧シリンダのエンド ポイント検知といった存在検出にも役立ちます。この AMR 技術は、線形運動または回転運動を監視するための低コストで堅牢なソリューションとなり、ほとんどの点滴ポンプを駆動する一連のモータの正確な位置フィードバックを提供できます。これらの耐久性の高い製品は、モータをスムーズに制御できるように出力精度が強化されています。また、サイズが小さいことから交換コストが少なくて済み、多くのコンパクトな自動化された低コストのアセンブリに組み込むことができます。
温度センサに関しては、手術中の静脈内輸液投与や血液製剤の輸注は体温に多大な影響を及ぼすことが知られています。したがって、輸液の温度を監視・制御することが重要です。輸液を静脈内投与するときは医療用の輸液加温器が使用されることが多く、これらのシステムには輸液の温度を監視・制御するために温度センサが組み込まれています。加温器の多くは独立していて点滴ポンプの外部にありますが、この装備を新しい点滴ポンプの設計に組み込もうとする動きがあります。
TE Connectivity が設計・製造しているさまざまな温度コンポーネントおよびアセンブリは、幅広い侵襲的および非侵襲的医療用途において、中核体温から血管形成術用バルーンに使用される極低温ガスの温度まで、あらゆる温度の監視に使用されています。
まとめ
TE は、数多くの技術を利用して、医療分野でさまざまな用途に用いられている電子システムの監視および制御に不可欠なセンサを幅広く設計・製造しています。患者治療における主要分野のひとつに医療用ポンプ、より具体的に言うと点滴ポンプがあります。TE のセンサは、点滴ポンプの次の部分で利用されています。
- 荷重センサ: 患者に薬液を供給するチューブ内の閉塞を検出し、チューブが詰まっていないことを確認します。
- 気泡検出器: 流体の種類にかかわらず、流れの分断を確実に特定できます。
- 異方性磁気抵抗 (AMR) 位置センサ: 医療用ポンプのモータの角度位置または線形位置を監視します。
- 温度センサ: 患者の体内に供給される輸液の温度の監視・制御に使用されています。
荷重センシングの応用分野
医療機器の OEM は、信頼性が高く、サイズが適切で (小型)、全体的な性能が高い、低コストの製品を求めています。医療における荷重センシングの応用分野には、以下のようなものがあります。
- 移動式投薬システムの多くは、フィードバック制御用の主要なセンサ技術として荷重センシングを利用しています。
- 低コストで信頼性の高い荷重/トルク センシングによる精密な測定が可能になるにつれて、外科手術も急速に進歩しています。より迅速で精密な外科手術を行えるように、ステープル装置や眼科手術機器に荷重センサが組み込まれています。
- 膝および肩の手術で洗浄や生理食塩水フラッシュに使用するポンプにおいて、荷重センシングを使用して流量を最適化する例が増えています。
- 生理食塩水点滴の重量測定にロード セルが広く使用されるようになりました。
気泡検出器の用途
点滴ポンプ・血液透析・血流監視といった用途においては、気泡検出がきわめて重要になります。TE の AD-101 気泡検出器は、以下を備えています。
- 電源オン時および継続的な自己診断機能
- チューブまたはパイプに合わせてカスタマイズ可能な柔軟性
- 組み込みやすいコンパクトな製品設計を可能にする内蔵エレクトロニクス
- 20 年にわたって世界中で販売されてきたセンサの実績ある性能
TE は、幅広い医療用途に応えるセンサを設計・製造しています。TE の各種センサおよびアセンブリは、ISO13485 認証を取得し、FDA に登録されています。当社のグローバルなエンジニア ネットワークは、製品コンセプトの立案から製造に至るまで、お客様の用途に合わせたセンサ設計を実現するお手伝いをします。TE の専任の医療用センサ チームが、製品開発を急ピッチで進めるために迅速にプロトタイプを製作し、製品のライフサイクル全体にわたってサポートを提供します。
Microfused は商標です。